小山晃弘氏の"「女性には生理というハンデがある」は完全に嘘"という記事への反論

元記事:「女性には生理というハンデがある」は完全に嘘

元記事の内容を読んだ上で、タイトルに「完全に嘘」という強い表現を使っていることから、これは仮説の提唱レベルではなく、科学的事実として主張しているものと私はみなしている。

本記事の内容は、「実験データに基づいた科学的根拠によって小山氏の論を否定するもの」ではなく、「そもそも小山氏の論は科学的根拠に基づいてない」としてその論を否定するものである。

有料記事の範囲は読んでなく、無料記事の範囲での反論である。

小山氏の主張概要

小山氏の主張は、簡潔にまとめれば以下のようなものである。

・女性の月経は10歳から15歳にかけて始まる

・もし月経によるパフォーマンス差が本当にあるのならば、10歳から15歳にかけて男女のパフォーマンス差が現れるはずである

平成15年度の 小・中学校教育課程実施状況調査によると、算数(数学)と国語の男女の得点率はほぼ水平に推移しているので、月経によるパフォーマンス差はない

という論理の主張である。

まず最初に

これから小山氏の論に反論していくが、その前に重要なことを記述しておきたい。

事柄Xを主張をしたいときに、世の中に散逸している適当なデータを寄せ集めデータ集合Dを作成し、AとBに相関が見つかった(見つからなかった)からといって、

「データDによって、AとBに相関がある(ない)のでXである」

という主張をあたかも事実のようにすべきでない仮説に留めるべきである。

「データDを見るとAとBに相関があるので、Xと言えるのではないか(仮説を立てる)。では実験で確かめてみよう(仮説の検証)」は科学的アプローチとして正しい。

「データDを見るとAとBに相関があるので、Xである」は、仮説をそのまま科学的事実のように結論づけている。小山氏はこちらをしている。

世の中に散逸しているデータは抽象度が高い場合がほとんどである。仮説の検証をすっ飛ばして結論付けられるビタッと合致した便利なデータなんてものは、インターネットをいくら検索したところで見つからないと考えたほうが良い。これは論文からデータを引っ張ってきたとしても同様である。ある論文のデータが事柄Yを裏付けていたからといって、論文に書かれていない事柄Xにもあてはまるデータとして結論づけるべきではない。なぜなら論文のデータは事柄Yの仮説を検証するための実験データであり、事柄Xの仮説を検証するための実験データではないからである。

今回の男女別得点率のデータでいうと、生理の重さや生理期間中にテストが行われたかなどの情報は不明確である上、環境が不明ゆえにあらゆる余計な要素を含んでいる可能性が高く、月経と男女のパフォーマンス差を比較するには適切なデータではない。

そもそも科学的に検証するとはどういうことか?それは適切な実験に基づくデータで検証するということだ。確かに小山氏はデータで検証を試みたが、適切な実験については何もしていない

小山氏と同じデータで適当な事柄の主張を試みる

意趣返しのようになるが、小山氏と全く同じデータを扱って、適当な事柄をあたかも科学的事実のように結論づけることを試みる

月経に関するデータは小山氏の記事から引用する。

月経は平均すると12歳程度で始まり、10歳から15歳の間にそのほとんどが初潮を済ますとされている。図表にすると以下のようになる。

画像3

(引用:思春期の発現・大山建司)

また以下は、平成15年度の 小・中学校教育課程実施状況調査から小山氏が作成したグラフが以下である。(元資料のP.250の表をグラフ化したものと思われる。得点率とあるが、元の資料では通過率とある)

画像1

画像2

グラフを見ると、月経が始まる11歳(小学5年生)くらいから国語に関しては女子が男子より得点率が高いことがわかる。以上のことから、

・「月経は国語能力を向上させる」

・「月経は算数(数学)能力に影響を与えない」

という2つの事実が言えるのではないか!?

当然だが、そのような科学的事実はこの時点では主張することはできない(仮説としてはOKである)。

このように、抽象度の高いデータを扱えばいかようにも主張(仮説)を作り出すことができる。理屈と膏薬は何にでもくっつくのである。

ちなみに「女子が男子より得点率が高いことがわかる」とさらっと書いたが、科学的根拠として示すなら検定を行って有意差を示すべきである。(当然、小山氏も「パフォーマンス差がない(有意差がない)」ということを示すべきだが、これを怠っている)

インターネットに転がっている適当なデータを扱って小山氏と逆の主張を試みる

さらに意趣返しのようになるが、インターネットに転がっている適当なデータを扱って小山氏と逆の主張を試みる。

以下は、「平成14年度高等学校教育課程実施状況調査」における「ペーパーテスト調査集計結果及び質問紙調査集計結果」のP.36の表8「男女別通過率」の一部を引用したものである。

キャプチャ - コピー

怪しく黒塗りされている部分には目を瞑って表の「数学1」と「物理1B」の項目を見ると、女子は男子より明らかに通過率が低く見える。上のほうの図で示した「初経開始年齢の個人差」を見ても、女子は高校1年生(15~16歳)の段階でほとんどが初潮を迎えていることがわかる。男子に月経はない。女子にはある。よって、「月経によるパフォーマンス低下は存在する」という事実が言えるのではないか!?

当然だが、そのような科学的事実はこの時点では主張することはできない(仮説としてはOKである)。

ちなみに、以下は黒塗りされる前の表である。

キャプチャ

「国語1」の項目を見ると、女子は男子より通過率が高いことがわかる。

小山氏が作成したグラフといい、結局これらのデータから見えることは、「小学5年生~高校生のペーパーテストにおいて、女子は男子よりも国語の通過率が高い」という事実から、「女子は男子よりも国語能力が高い」という仮説くらいしか言えないだろう。

ちなみに黒塗りした件であるが、小山氏は黒塗りはしなかったものの、数学と国語しかデータを抜き出してグラフを作成していない。同じ表に理科・社会・(英語)が科目としてあるにも関わらず、これらに関しては元記事では触れられていないので、明らかに情報を意図的に伏せていることがわかる(不要と判断したのなら、なぜ不要なのかの理由を述べるべきである)。

そもそも本当に「パフォーマンスの低下はない」のか?(その1)

小山氏は国語や算数(数学)のグラフを見て、

ご覧のように、小5から中3にかけて、両者の得点率はほぼ水平に推移している。つまり、月経によるパフォーマンス低下は生じていないのだ。

と書いてあるが、本当に「水平に推移して」いるだろうか?もう一度算数(数学)のグラフを見てみよう。

画像4

女子は、小6から中1に上がった時点で明らかにパフォーマンスが低下しているように見える(75.7%から60.2%へ15.5ポイント減少している)

なぜ小山氏はこれを月経によるパフォーマンス低下として見なかったか?それはきっと「男子も同じようにパフォーマンスを下げている」からである。

おそらくこのパフォーマンスの低下は「小6から中1に上がったことによる環境変化や学習要項が難しくなったことによる要因」と私は推測するのだが、このように、月経の有無以外にも、パフォーマンスの低下を引き起こす隠れた要因が紛れてしまっている。つまりデータとして不適切なわけである。

極論を言えば、小6から中1に上がった際のパフォーマンス低下については、

・「女子は月経によりパフォーマンス低下した」

・「男子は自慰の目覚めによってパフォーマンス低下した」

といったような、別々の主張(仮説)を好き好きに作ることができるのだ。

さらに言えば、小5から小6に上がった際は、男女ともに通過率が上がっているように見える。月経は平均すると12歳程度で始まることを考慮して、「月経は一時的にパフォーマンスを向上させる」といった仮説もたてることができる。

要は、データが適当なので、好きに仮説を立てることができるのだ。

そもそも本当に「パフォーマンスの低下はない」のか?(その2)

前述の通り、小山氏は意図的に社会のデータを隠したと思われるが、その社会のデータをグラフ化したものが以下である。

キャプチャ

こちらは国語のグラフと違って、明らかに「水平に推移して」いない。女子は小5から中1にかけて21.3ポイントも低下しているが、小山氏はこれを元記事で何も理由付けしていない。

おそらく「男子も同様に低下しているのでこのパフォーマンス低下は生理によるものではない」と思ったのだろうが、そうであるなら余計に、このデータには生理以外にもパフォーマンス低下を引き起こす要因があるということになる。また、前述したとおりデータが適当すぎるので、「女性は生理でパフォーマンス低下した」一方、「男子は社会が苦手なのでパフォーマンス低下した」などといかようにも理由をつけることができる。

そもそも小山氏の主張は、

小5から中3にかけて、両者の得点率はほぼ水平に推移している。つまり、月経によるパフォーマンス低下は生じていないのだ。

である。これは、

①小5から中3にかけて得点率がほぼ水平に推移している

②よって、月経によるパフォーマンス低下は生じていない

という論理であるので、「水平に推移して」いない時点で①が否定されるので、②も自動的に否定される。よって小山氏の論理は破綻することになる。

そもそも男女で比較することが間違っている

小山氏は男子と女子のグラフを作成し、「もし月経が女性のパフォーマンスを下げるなら、学年が上がるにつれて男女のパフォーマンス差が大きくなるはず」という旨の論を展開しているが、そもそも月経のパフォーマンス差を調べるなら、女子だけのデータで比較するべきである。

男子と女子で比較してしまうと、単純な月経の有無以外の要素が多くなってしまい同条件のデータを揃えられないので、むしろ男女で比較するのは間違っている。男女で比較して言えることは月経差ではなく、男女差である。

たとえばペーパーテストで月経のパフォーマンス差を調べようと思ったら、

・テスト中に生理でなかった女子群Aと、生理中であった女子群Bで、対応のないt検定を行う

・生理でない日に受けたテスト群Aと、生理中に受けたテスト群Bで、対応のあるt検定を行う

という手法を取ればよい。

ただし、条件を揃えるために初潮を迎えていない女子はサンプルとして除外したり、女性は人によって生理の重症度が異なることを考慮したり、生理痛薬を服用している/していないの違いがあったりなど、まだまだ考慮するべき要素はある。

それはともかく、小山氏が提示したデータからではこれらの検定を行うことはできない。その時点で、「パフォーマンス低下がない」と断じる小山氏の主張の根拠は無いに等しい。

「有意な差はほとんど見られなかった」という記述

元記事の「精通の影響はどの程度あるのか」という見出しの直後、以下のような記述がある。

「女性は月経によってパフォーマンスの低下が生じる」という「定説」を検証するため、初潮開始年齢である10-15歳の男女の学力スコアを比較したところ、有意な差はほとんど見られなかった。

「有意な差はほとんど見られなかった。」とはどういうことだろう?有意差に「ほとんど」なんてものはない。あるか、ないかだ。

有意差というものは、(有意水準5%であるならば)計算して求めたp値が0.05未満なら「有意差はある」、そうでないなら「有意差はない」の2択で表現する。

もしかして有意差を計算していないのでは?(有意差を計算したならどのデータを使ってt値とp値を求めたか示すべきである)

唐突に出てきた「学力スコア」が何を指すのか判然としないので私もしない。小山氏が提示した平成15年度の 小・中学校教育課程実施状況調査データに「学力スコア」という記述は見当たらなかった。学力スコアと同じ意味の言い換え文字が元データにきっとあるはずだが、小山氏は「通過率」を「得点率」と注釈抜きに言い換えたことといい、好き勝手に言葉を変えるのはやめてほしい。

月経のパフォーマンス差を調べる実験設定

さて、では月経によるパフォーマンス差を調べるのに適切なデータはどうすれば用意できるか?それは適切な実験設定により得られたデータ以外にはない

私が考える実験設定は以下のようなものである。

・20~30代の女性200人を集め、それぞれに1時間程度の3種類の異なるタスクをこなしてもらう。そのタスクは頭を使う数値計算タスク、単純作業の入力作業タスク、体力を使う階段上り下りタスクである。各タスクについては実験者が予め被験者に教示し、タスクの消化方法を記載した取扱説明書も用意する。

・タスクの量は実験中に終わらないような十分な量を用意する

・タスクの達成度は、数値計算の正誤や、タスクの消化数によって決める

・被験者には、事前に生理の重症度のアンケートに回答してもらい、生理日に実験をするものと、生理日以外に実験をしてもらう人間に割り振る

・生理日に実験をする被験者には、実験後に再度生理の重症度のアンケートに回答してもらい、事前アンケートと生理の重症度が一致していたか確認する

・実験目的は被験者には伏せて行う(生理に関するアンケートの提出が必要なことは事前に同意してもらう)。

以上である。

生理のパフォーマンス低下を調べるには、必ずしも男性と女性を比較する必要はなく、女性の生理の有無で調べれば良い。

20~30代の女性と書いたが、この年代は適当である。

女性200人と書いたが、この人数は適当である。後述の生理の重症度別群の人数が偏ることは予想されるので、その場合は人数を増やして追試する。

タスクの時間は1時間程度と書いたが、この時間は適当であるが、「X時間くらいなら生理の無理を我慢して最高のパフォーマンスを狙う」といったような短距離走型の時間には設定しないよう考慮した。

女性の生理には人によって症状や重さが異なるので、生理が軽症のものと重症のものとで比較する必要はあるだろう(生理の重症度別群)。

タスクを3種類に分けたのは、生理の影響が「頭を使う作業」「単純作業」「体を使う作業」それぞれ異なると考えたからである。

さらに、以下を考慮するとより良い実験になるだろう。

・生理痛薬を服用する群、服用しない群に分ける

これは、生理痛薬を服用すればパフォーマンス低下は発生しないかどうかを見る。

まとめ

・小山氏の主張は、科学的アプローチによる実験データに基づいた結論ではなく、インターネットに転がっている適当なデータを抽出して作成した結論であるので、それは科学的根拠に基づく結論とは言えない。

小山氏は「月経のパフォーマンス低下について定量的に調べた」とあるが、データが不適切である上、検定も行っていないので、定量的に検証できているとは全く言えない。

・それっぽいデータをつぎはぎすれば科学的・論理的に事実が導けるわけではない。データに基づいて科学的・論理的に事実を導くためには、適切な実験設定による実験データからのみにしかそれを導くことはできない。

小山氏とその周辺について

科学的・論理的に何かを示すことは難しい。多くの人はそれができていない。私も日常的に適当なことをつぶやいている。なのでことさらに小山氏を責めるつもりは毛頭ない(少し白々しいかもしれないが本音である)。

そこまで熱心にウォッチしているわけではないのだが、一部のフェミニストや社会学者などが適当な論理でお気持ち表明し、それに一定の支持が集まるのを快く思わない人が、そのような適当な論理では問屋が卸さないと呆れてお気持ちカウンターをしているのが小山氏とその周辺で、さらにそれをビジネスにしているのだと私は認識している。

どっちが先に悪いのか、どっちがより悪いのかは論じない。私には、どちら側も科学的根拠がない主張で応酬し合っているように見えるからだ。要はビジネスパートナーに見えている。

そして、明らかに小山氏のことを誹謗中傷するコメントには賛同しない。理性的な反論が億劫であるのなら、ノーコメントを貫いたほうが良い。盛り上がれば相手を増長させるだけである。

最後に

適当な論をぶち上げる労力に対して、きちんとその論を否定するのは大変である。なぜならそれをするには、

1. その論が科学的・論理的でないことを指摘する

2. その論を否定するドンピシャな論文を探す

3. 論文がなければ仮説検証する実験をする

というアプローチをとるしかないからだ。どれも時間が奪われる。実際に私はこの記事を書くために、小山氏が元データのどの部分を参照しているのか探したり、探して見つけたあとはグラフを作ったりして、9時間以上はかけて記事を作成している。この労力の非対称性が読者に伝わり、「まともな反論がないなら俺の勝ちだが?」みたいな態度がいかに卑怯な態度であるかが理解してもらえれば僥倖である。

実験なんて簡単にできるわけがないと思う人もいるだろう。そのとおりである。ゆえに、科学的に何かを示すのは難しく、世の中にはお気持ち合戦がはびこるのである。

本来なら適当な論をぶち上げたほうが科学的な根拠を示すべきなのだが、SNSでは当然のようにそれが行われなかったり(する必要がないとすら思われていたり)、本人は科学的な根拠を示したつもりになっているので話が噛み合わなかったりするのである。

もしあなたが何かを主張したくなったとき、あなたの論を支持するドンピシャな論文が見つからないし実験をする時間も金もないからといって、インターネットに転がっている適当なデータやそれっぽい論文データを引っ張って、仮説の検証をぶっ飛ばしてあたかも科学的事実のように結論づけてはいけない。

今回、私は生理に関する論文を一切調べずに反論をした。なぜなら小山氏の論は科学的根拠に基づくものではない非論理的なものなので、それを指摘すれば事足りるからである。

生理のパフォーマンスに関する論文をご存じの方は、コメントにぶら下げてください。それが小山氏の仮説を補強するか否定するかに関わらず、多くの人の疑問に答えるものになるでしょう。

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