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ラジオドラマ 脚本 サンプル

薄野なだが過去に執筆したラジオドラマの脚本です。フリーシナリオでは御座いませんので、ご使用はお控え下さい。

【設定】
N県S市のタバコ屋の角にある公衆電話。その場所にはある噂があった。
『夜中2時に一人で電話をかけると、自身が会いたいと念じた死者と、もう一度話すことができる──』

【登場人物】
・四ノ宮麻衣(享年21)
結衣の姉。大学三年生時に自宅で首を吊り、死亡している。

・四ノ宮結衣(19)
麻衣の妹。突然この世を去った姉ともう一度話をするために、噂の公衆電話に向かった。

【本編】

夜 深夜2:00公衆電話ボックスの前に四ノ宮麻衣が居る。

《ボックスを開ける音→お金を入れる→ボタン→呼出音》

麻衣「……もしもし?」

結衣「……その声、麻衣?」

麻「お姉ちゃんの声……本当にお姉ちゃんなんだ!噂、本当だったんだ……」

結「……うん、久しぶり。麻衣からかかってくるなんて、意外だな」

麻「お姉ちゃんとまた話せるかもしれないって思ったら、試したくもなるよ!言いたいこといっぱいあったし……」

結「そっか。大学はどう?楽しんでるの?」

麻「うん、講義は面白いものも多いし、入って正解だったな。あっ、そうそう!私弓道の部活動に入ったの!お姉ちゃんがやってたから、私も初めてみたくて」

結「そうなんだ」

麻「先輩にもセンスがいいって褒めてもらえて、部活がとっても楽しいんだ。お姉ちゃんがやってる姿を見てたからだよね」

結「そんなこと……麻衣に才能があっただけだって。私、上手くもなかったし」

麻「冗談やめてよ!私がこの大学に行こうと思ったのも、サークルに入ろうと思ったのも全部お姉ちゃんがいたからだよ?お姉ちゃんがいなければ、私なんにも出来なかったんだから。……だから、お姉ちゃんが死んだのも、すごく寂しくって」

結「……」

麻「……私の大学受験の合格発表の日、早く報告しないとって急いで大学から帰ってきたのに。お姉ちゃんが、天井から吊るされてて……(喋りながら涙ぐんでいく)」

結「お祝いの日に、嬉しくないもの見せちゃったね」

麻「ううん、ううん……。私、謝らないといけないってずっと思ってて……」

結「え……もしかして、その為に?」(意外そうな素振りをみせる)

麻「その時期、お姉ちゃんすごい落ち込んでたように見えてたから。詳しくはわからなかったけれど……。だから、私が早く家に帰れたら、良かったなって。お母さんにお姉ちゃんに大学合格したの秘密にしててって言ったの私だったの。その方が喜んでくれるって思ってたから。」

結「……そういうこと?」

麻「うん……本当にごめんね……」

結「……加減にして……」

麻「え?」

結「(麻衣に食い気味に)いい加減にしてよッ!!天然だとは思ってたけど、こんなレベルなんて……」

麻「え、何、お姉ちゃん突然どうしたの」

結「何もわかってない……何も分かってないんだ。やっとわかったんだって、信じた私も馬鹿みたい……」

麻「わかってないって……何が?」

結「あんたは何にでも恵まれてるから、私みたいな凡人のこと、ちっともわかってないんだよ」

麻「(驚愕して)そんなことないよ!お姉ちゃんはなんでも完璧にできてたじゃん」

結「ははっ……馬鹿言わないでよ。私がやってたピアノも水泳も、私の後を追って始めた麻衣の方が上手に出来てたよ。私はそれで両方やめた。」

麻「勉強が忙しくなったからやめたって言ってたよね?」

結「建前だよそんなの。母さんが、麻衣にお金かけたいから、あんたはもうやめなさいって言ったの。期待されてない子供だったんだよ、私は」

麻「そんなことあるはず」

結「(麻衣に被せて)あったんだよ、残念だけど」

麻「……」

結「私がやること、すぐに真似するから。そして私よりもずっと上手くこなす。それがどんなにしんどいことかわかる?」

麻「わ、私だって適当にやってたわけじゃないよ。頑張ってやってた」

結「それが分かるから余計に嫌だったの!(声を張り上げて)ムカつくくらい純粋だったよ、麻衣は」

麻「でも、大学のことだって『私のリベンジ戦なんだから、頑張ってね』って言ってくれた。お姉ちゃんが落ちた第1志望、私が受けようと思ったのはお姉ちゃんのおかげなのに」

結「そうやって言うように、母さんから圧かけられてたからね」

麻「お母さんがそんなこと言うわけないよ!お母さんは、私もお姉ちゃんも、大切な娘だよってずっと…」

結「麻衣は母さんにずっと愛してもらってただろうけど、私は違う。私は『妹にとって完璧な「お姉ちゃん」』であることでしか、認めて貰えなかったんだよ?私の唯一の存在価値……それしかなかった。だから、私はあんたにもずっと優しくしてきた」

麻「そんな……そんなことって……」

結「……大学に合格したこと、麻衣が電話してきてから母さん、すぐに伝えてきたの。それでなんて言ったと思う?『麻衣さえいれば、私は幸せだわ』だって。じゃあ、私の存在価値って何?麻衣の理想の姉という存在ですら認められない私は、何なの?そう考えたらもう駄目だった。私の落ちた大学で楽しい生活を送る妹を、ニコニコ笑って見ていられる自信なんてもうなかった。限界だったんだよ……」

麻「……なんで、なんでそんな。死ぬこと無かったのに。言ってくれれば、直したよ……!私はお姉ちゃんのこと、本当に好きだったから……」

結「それが嫌だってわからないの!?あんたが何も知らずお姉ちゃん、お姉ちゃんって慕ってきて……。それがずっと、苦しかった……」

麻「(気づいたように)……ご、ごめんなさ…」

結「やめてよ!死んでも尚私に理想の姉を演じろって言うの!?最悪。もうこれ以上私に構わないでよ!いくら謝られたって、私はあんたを許さない。……じゃあね、さよなら」

《電話が切れる→ツーツーという音が鳴る→その音をバックに麻衣のセリフ》

麻「……うっ、うう……(泣きじゃくる)……ごめんなさい……ごめんなさい……」

《泣いているままFO》

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