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地域課題を解決し、持続可能な共助を目指す「Local Coop」という枠組みの検討|Xゼミレポート#3

こんにちは。Sustainable Innovation Lab 事務局の浅川です。今回は、Sustainable Innovation Labが毎月開催している勉強会「Xゼミ」の第3回の模様の一部をレポートします。

今回は、SIL特別パートナー・三ッ輪ホールディングスの大澤さんが「Local Coop」について解説。その後、株式会社ガイアックス代表執行役社長の上田祐司さんと、文化人類学者・立命館大学大学院先端総合学術研究科教授の小川さやかさんを交えて、Local Coopについて深めていきました。


地域課題解決に向けた枠組み「Local Coop」の検討

まず、三ッ輪ホールディングスの大澤さんから、検討途中の地域課題解決に向けた枠組みであるLocal Coopについての解説からスタートしました。枠組みの検討が始まった背景には、現状の社会システムにおける課題があったそうです。

大澤さん「語弊を恐れずに言うと、現状の社会システムは、労働力を安価に獲得し、利潤を得ることで資本家に富が集中する構造です。私有財産の最大化を追求していくことが環境破壊や富の偏りにつながりました。
社会全体ではなく、一部の個人や企業の利益に偏ってしまっている。地域に収益が残りにくくなっており、地域社会や地球全体の目線で資本主義の課題に取り組む必要があります」

資本主義による課題が生じている一方、資本主義を否定して極端に全てを公共財として求めると結果的に理想から離れる社会になってしまうという懸念もある、と大澤さん。
少子高齢化・人口減少に伴う税収減で、自治体による公助機能に頼る運営には限界があり、地域課題に対する新しい枠組みとしての共助機能の必要性を語ります。
そのために、現在は行政サービスとして提供している多くの機能の中の一部機能を切り出す、公助から共助へと変える。地域に共助のための組織(=Local Coop)を立ち上げ、住民間の助け合いによる地域の持続可能性拡大を模索できないかと考えているそうです。

「共助化する=コモニング」が社会のOSを変える

続いて、Local Coopを検討していく上でヒントになる事例の共有が日本における自律分散型経営の第一人者である・NCL武井より行われました。

事例1:Peoples Supermarket (イギリス)
・ワーカーズコープの形態
・スタッフはボランティア、運営方法はスタッフ全員で決定
・年会費25ポンドですべての商品が20%OFF
・メンバーは月に4時間働かないといけない

事例2:Fair BNB(イタリア)
・プラットフォームコーポラティブ
  ① 地域への還元(利益分配のルールを作っている)
  ② 協同組合の運営
・プラットフォーマーが地域から富を搾取していく構造(地域から本屋さんがつぶれてしまうような)を最初から地域にも還元できるような座組を作っている

事例3:株式会社eumo、株式会社NCL
・持合型株式会社として、関係者に出資をしてもらっている
・34%以上の株式保有者を作らない(支配権を持たせない)仕組み
・経済合理性ではなく共感で人やお金が集まるという実例


こうした事例紹介に続き、武井からはこんなお話も。

「私はこれを共助化する=コモニングと呼んでいます。金融資本、人間資本、社会関係資本、社会インフラ資本、社会システム資本。今までは、これらを最大化させることを目的としてやってきました。結果、富の偏在が問題となっています。
これからは、“ひとり一人の資産”を増やすのではなく、“みんなのもの”を増やすことが重要。定常経済、幸福度、社会関係資本などが重要になる。これからの手法を考えるとき、共助は、公有(社会主義、共産主義)と所有(個人の資産)の間にあって、領域としては曖昧で、所有者と利用者が混ざり合っていく。
NCLが取り組んでいるソーシャルエナジーはこれにあたります。これからは“みんなのもの(お金だけじゃない資産)を豊かにしていこう”というようにルールが変わること自体がOSチェンジだと思います」


2人の話を受け、ゲストの上田さん、小川さんからもそれぞれコメントをいただきました。

小川さん「文化人類学の中で、インフラの人類学が最近話題になっています。人が分断された時に、あらためて人々は何を公共性として見出していくことができるのか、という問いです。例えば、フィリピンでは特定の層が共同体をつくろうとすると対立や分断が増すという問題があります。その中で、路線バスのような誰もが使うインフラに着目し、共同的なものをどう創るのかを研究していたりするんです。
Local Coopの枠組みは、よりよい社会をつくろうという時の理念や規範をどう社会で共有するのかが課題になりそうですね。共同組合、共助の仕組みの中で、金銭的な魅力を感じて参加する人もいる一方、富の偏りの解消など、活動の理念に共感して参加する人もいる。その中で、前者は自分にメリットが無くなると離れていく。
また、理念の部分に対しても、今後理念などが数量化、精緻化されていき、コンシューマーアクティビズムではないですが、理念の競争(結局別の競争が生まれる)に進むといいったような危険もあるかもしれません。シンプルな利益への関心がある層と、理念へ関心がある層の融合にはハードルがありそうです」
上田さん「個人としては、価値観のシフトが重要だなと思っています。財が均等化されることよりも、財自体の価値は重要でない、という価値観に促すことが重要ではないでしょうか。今は、コロナの影響もあって、その価値観の土壌はできてきている。また、単なる “シェア” ではなく “助け合い” と理解すべきだと思います。
シェア=共助の部分に、今までのテクノロジーだけではできなかったコミュニケーションができるようになるとパワーがあると思う。本来ならパワーがあるのに使い切れていないアセットをどう活かせるかを議論すべきだと思います」

お二人の話を踏まえてSIL共同代表の林からも質問が飛び、時間の限られたなかで濃い議論が展開されました。Local Coopは、まだまだ検討中の枠組みです。これからもXゼミで議論を重ねながら考えていけたらと思います。

次回のXゼミは、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ国際理事でもある柳沢正和さんが講師として登壇。年々注目が集まっている「ESG投資」について話を伺います。

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