山道を走り、衣食住自給のパラダイスを作る理由
Vol 1. 未だ見ぬ景色を見たくて!
私は、未だ見ぬ景色を見たいという衝動に突き動かされ、普通無理だろうと思われることばかりやろうとする漢。未だ見ぬ景色を見たいという衝動で、30年間続けたサラーリーマンを辞め、福島県の原発事故の被害を受けた地域で風力発電所を開発し、風車と風車の間でオーガニックコットンを栽培し、再開される農業に彩を加える事業を立ち上げました。趣味のトレイルラニングでは、二晩寝ずに160㎞走り続けたこともありますが、その原動力も未だ見ぬ景色を見たいという欲求です。出身地である福島県の安達太良山を舞台に地域おこしの活動をしているのですが、安達太良山でも人々に未だ見ぬ景色を見せたいなと思っています。
何を身に着ける?
皆さん、カラダを動かすとき何を着ますか?速乾性のポリエステルのTシャツと短パンですか?最近は、ヨガやジョギングなどアクティブなライフスタイルが広まってスポーツブランドだけじゃなく、ファストファッションの大きな売り場にまでアスリート向けの商品がわんさか並んでいます。しかも、これまでのブランド品に比べて大幅に安いです。
ポリエステルは、石油から出来ているので、原料は100%輸入です。ファストファッションを始めとし、大手のブランドは最終製品を海外の工場で作って輸入しています。日本は、モノを売るためのだけの市場です。原料であれ、最終製品であれモノを海外から日本へ運ぶためには船か飛行機を使用します。船や飛行機は重油やジェット燃料を燃やして、大量のに温暖化ガスを排出します。
モーリシャスの沖合で、座礁した日本の船は、不幸にも重油をまき散らし顰蹙を買いました。でも、座礁しなければ温暖化ガスを人知れずまき散らしていたのです。ポリエステルは、海洋プラスチックの原因です。着心地は悪くないし、沢山種類があるから気に入ったものが選べて、そしてファストファッションの参入により価格破壊が進みます。
でも、ポリエステル製のウェアを安易に選ぶということは、我々の選択で地球に負荷をかているのだと自覚したいです。そう、日々私たちは地球に良いことを選ぶことができるんです。最近はリサイクル、アップサイクルの製品もあるので、一概にポリエステル製が悪いとは断言できないですが。。。
ポリエステル以外でも。。。
では、ポリエステルの他にどのような選択肢があるのでしょうか?メリノウールが、数年前からアクティブウェアの素材としても広く使われるようになりました。天然繊維で肌触りが良く、通気性もあって、保温性もある。発色も良くてカラダのラインにフィットする感じもおしゃれだし、防臭効果もあるそうです。
トレイルラニングという山を走るのが趣味の私は、寒い時に重ね着のベースレイアー(肌着)として愛用してします。多少けばだっていて真夏だと暑く感じることもあるのですが、最近は、ポリエステル混の薄い生地の快適な着心地のTシャツやタンクトップが出てますね。おしゃれなイメージのヨガウェアでは、メリノウール大人気です。
私は、2015年にメリノウールを着てゲレンデを走ろうというイベントをプロデュースしました(「ウールランニング&ウールフェスin安達太良山」https://www.facebook.com/woolrunning/ )。10年以上メリノーウール押しです(笑) でも、ちょっと調べると、羊ちゃんは十二支にまで登場するのに(何を隠そう私も羊年)、高温多湿が苦手で日本では飼育しにくく、原料のウールは100%輸入です。
輸入したウールを日本で加工し、製品することもできるのですが、ほぼ製品として輸入されています。さらに、より多くの羊毛が取れるよう、品種改良された羊ちゃんは、暑くなっても毛が抜けないようにされちゃったそう。なんかかわいそうになってきました。
天然繊維といえばコットン
天然繊維といえば、コットンを忘れてはいけません。ポリエステルが普及するまでは、寝るときも活動する時もコットン製品でした。コットンも国内で栽培されているものは稀なので、四捨五入すれば100%輸入です。アメリカやインドなどで生産されていますが、大規模な農場で大量に農薬を使って栽培され、薬品、染料を沢山使って加工されています。
例えばジーンズ一本に7000Lもの大量の水を使うということです。天然繊維とは言え、綿の栽培、加工は環境への負荷はかなり大きいです。薬品、染料、大量の水を使うのは、白い綿毛をそのまま使うのではなく、薬品を使って洗浄し染色するからです。
Tシャツのプリントは、他の人と違いを見せるポイントであることは間違いありませんが、環境に優しいプリントを使っているTシャツはあまりありません。そもそも天然繊維なのに、地球に負荷をかけて栽培して、加工するのは大量生産、大量消費のせいですね。
オーガニックコットンって?
最近、オーガニックコットンという言葉をよく耳にします。オーガニックコットンとは、3年以上、農薬や化学肥料を使わない畑で栽培された綿のことを言います。ただ、収穫したコットンを大量の水で洗浄し、薬品を使って染色するのであれば、そこで環境に負荷をかけることになります。それと、オーガニックコットンと言っても、海外から重油を燃料にした船で日本に運んでくるのであれば、そこで温暖化ガスを出していることに変わりはありません。
アバンティの渡邊智恵子さん
2016年の秋に、株式会社アバンティの渡邊智恵子さんにお会いする機会がありました(当時代表取締役社長、現代表取締役会長)。智恵子さんは、日本でオーガニックコットンを根付かせたパイオニアで1985年にアバンティを創業しました。今では、女性経営者、ソーシャルビジネスのリーダーとしてもメディアに引っ張りだこです。
アバンティでは、Pristineという自社ブランドで生成り、もしくはカラードコットンと呼ばれる、天然の綿の色を活かした主に女性、子供向けの柔らかなイメージの製品づくりをしています。原綿の色味を活かした製品づくりは、薬品、染料、大量の水を使わないためですが、わたしのようなアパレルの素人がみてもPristineというブランドにはユニークな価値を感じます。
これまでアバンティは、原綿は海外でオーガニック栽培されたものを輸入するものの、糸や生地への加工、そして製品化は日本でやるというこだわりでビジネスを拡大させてきました。最近では、日本古来の茶色の綿(茶綿)を国内で栽培する農家を支援し、今後は原料の綿の日本製比率を高めたいと仰ってました。
「茶綿だ!福島で茶綿を育てよう‼」
この時のひらめきは、私のそれからの人生を決めました。「茶綿だ!福島で茶綿を育てよう‼」。私は、出身地の福島で事業をしています。福島県の事故を起こした海沿いの原発の近くの田んぼをお借りして、風力発電所を開発する計画です。SUSKENERGY(サスケナジー)という会社を仲間5人で作りました。社名には、持続可能で(Sustainable)、大丈夫な問題ない(福島弁で「さすけない」)、エネルギー(Energy)事業という意味があります。
多くの住民が原発事故で避難して、担い手が圧倒的に不足している広大な農地の利活用を再生可能エネルギー事業と新しい農業で進め、元の住民や新たに人が住みたいという場所を作るのが事業の目的です。
太陽光発電じゃない!
再エネ事業と言えば、事業を始めるのが簡単な太陽光発電があります。もの凄くよけいな労力と時間とお金をかけて風力発電所を開発しているのには理由があります。太陽光発電のパネルを敷設してしまうと、その下の田んぼは耕作できない土地になります。
現在原発事故の被害が大きい土地の所有者は、賠償金などにより耕作ができない被害は経済的には補填されるかもしれませんが、避難先から帰ってきて再び住みだしたある年配の方は、先祖から引き継いだ土地に太陽光のパネルを引いて、そんな土地を子供や孫に残せないと仰ってました。
ソーラーシェアリングは規模が違う
ソーラーシェアリングという、パネルを地上から3m以上離れた高さに敷設して、太陽光を農地に当てながら、農地で作物を育て、農業と再エネ事業を一緒にやる方法もあります。半農半エネと言います。しかし、この方法は、トラクターなどの大型の重機を農地で使うことができないので比較的狭い農地に適した方法です。
風車しかない
原発事故の被害にあった広大な農地で農業とエネルギー事業を両方やるのであれば、風力発電しかありません。風車と風車の間は、風車同士で風を奪い合うことを防ぐため、1㎞前後距離を空けるので、風車と風車の間の農地で何かを育てることができます。
もちろん、この土地で作ったコメが、原発事故以前のように消費者に受け入れられるのであれば、コメ作りもすべきだと思います。しかし、コメ作りの担い手が避難してしまっている中、より魅力的な農業をプロデュースし、移住する若者などの担い手を増やし住民が真に復興を感じられるようにしたいと思っています。
コメ作り再開まで、出来ること
コメは、一反(田んぼ一枚、約1,000㎡ほど)当たり収穫すれば少なくても10万円ぐらいで売れ、農作物の中では確実に儲かる作物です。農業人口の中でコメ作りをする農家が多いのは、作れば必ず買い取ってもらえ、そこそこ儲かる仕組みがあることが大きい。
SUSKENERGYでは、綿栽培の担い手を増やすため、風力発電事業の収益を使って、茶綿を栽培すれば必ず買い取ってもらえ、コメ並みに儲かる仕組みを作ります。風車があり、コメが取れ、茶綿が育ち、国産100%のオーガニックカラードコットン製品を加工、製品化、そして販売する土地って魅力的じゃないですか?
絶望の土地が希望の土地に
SUSKENERGYの風車と茶綿をきっかけとし、天然繊維の製造、加工、製品化という一貫工程の一大繊維産業を作り上げたら、震災で津波が引いた後も帰れなくなってしまった絶望の土地が、日本でも他に例を見ない衣食住の全てが揃う希望の土地になります(「住」は何かとピンとこない方もいらっしゃるとおもいますが、ここでは風力発電で作るエネルギーを「住」としています。)。
智恵子さんもこのビジョンに賛同して、共同創業者に一人になってくれました。衣食住がそろうということの強みは、お金を沢山持ってなくても安心して暮らしていけるということです。物々交換の社会です。衣食住が揃っていれば、安心して趣味や癒しに時間が使え、心穏やかに暮らせるはずです。
未だ見ぬ景色を自分たちのチカラで作る
原発事故の前は農業や漁業が盛んな地域でしたが、SUSKENERGYの風車が回り出せば、エネルギーが自給でき、農業が復活し繊維産業を通じ仕事ができるようになります。それが私の起業の強い動機になった未だ見ぬ景色です。
茶綿に巡り合うまでの2年ほどの間、風車と風車の間をどうしようと色々考えました。ハウスで野菜とか果物を作る?それでは、他の野菜や果物と差別化できないし魅力的な農業と思ってもらえるほど高くは売れません。
胡蝶蘭のような高価な花卉類を育て、販売する?儲かりそう!銀座などの新しいお店には、店頭に並んでいるやつですね。それでも、お祝い事がなければ、高くは売れない。。。リーマンショックやコロナ禍のような、世の中の景気の変動の波の影響をもろに受けたら農家に実業家のリスクを取らせることになる。
『なじょすっぺ』
魅力的な農業をプロデュースするなんて、やっぱり簡単じゃありませんでした。風車で復興の歯車を回すためには、足りないパズルのピースがあり、そのピースをずっと探していました。この頃のような私の心境を福島弁で、『なじょすっぺ』と言います。
SUSKENERGYの社歌『なじょすっぺ』はこの時の心境をラップにしたものです!震災の後、南相馬市に移住して、それまで住んでいた東京の杉並と南相馬の子供たちのダンスユニット「トモプロ」をプロデュースしているシンガー・ソングライターのnappoさんに作ってもらいました。Nappoさんと「トモプロ」ちゃんたちと社歌『なじょすっぺ』のことは、また別の機会に紹介します。
『Underdog mindset』
原発事故以来、皆に応援されているのはありがたいですが、福島出身の私には、福島にはどうも弱者のイメージが付きまといます。私は、戊辰戦争の激戦地だった福島県の二本松市(二本松は官軍に背いた賊軍)に生まれ育ちました。先の戦争は太平洋戦争ではなく戊辰戦争。その戦争に負けて先祖は冷や飯を食わされたと授業中に先生が教えていました。試験には出なかったと思いますが(笑)。
そのせいか、そういう立場になっていることに敏感で、そう感じると、すぐ「このやろう!」という気持ちがふつふつと沸き、反撃したい衝動にかられます。被害妄想がだいぶ入っているのは自覚しています(笑)。 アメフトが盛んではない東北の、しかもスポーツ推薦などない国立大のチームの一員だったときは、雲の上の東京のアメフトの伝統校に勝ってやるとか、、、(私立の日本トップクラスの実力のチームには惜敗しましたが、初めて関東一部リーグのチームに勝利!創部7年目、1987年のことでした。)。
月間残業200時間の激務の外資サラリーマン時代に、トレイルラニングのプロに勝って、日本一になるとか(距離が30㎞から100㎞の5レースで競う日本初のトレイルラニングシリーズ戦でシリーズチャンピオン‼2008年のことでした。)。どうせできないだろうと他人が思っていそうなことをやるのが大好きです。英語で『Underdog mindset』と言う表現があって、勝手にこれに近いメンタルを持っていると、これまた妄想しています。
オーガニックコットン事業だけでも数百億円規模の産業に
そうそう、「カラダを動かすときに何を身に着けますか?」という最初の質問への、私の答え。それは、生成りのオーガニックコットン製のタンクトップと短パンです。福島で茶色のオーガニックコットンを育てて4年目になります。温暖で乾燥した気候が良いとされる綿ですが、福島の沿岸部でも十分育つことがわかりました。
SUSKENERGYの風力発電事業は、早くて2025年ごろまでに工事を完成させ、運転を開始する計画です。現在は田んぼ一枚、二枚の小規模で綿を栽培していますが、風力発電が稼働したら発電事業の収益を活用して、発電所一か所につき田んぼ100枚ぐらいの農地で綿作りをしたいと考えています(田んぼ100枚と言っても、1㎢の四角の土地が田んぼ1,000枚ですから、その面積が風車の事業地だったらたったの10%です!)。
Tシャツにすると2000~3000枚ぐらい作れるぐらいの綿が採れる規模です。機械を導入しても綿作りの担い手は、5名ほど必要になるでしょう。風力発電事業は一か所だけじゃなく、5~10か所で原発一基分(1GW)ぐらいの規模を目指しているので、沢山の綿作りの担い手が必要になります。その規模で綿を栽培し、最終製品の加工まで手掛けるようになればオーガニックコットン事業だけでも数百億円規模の産業になります!
カラダを動かすときにオーガニックコットン
収穫した茶綿は同じ面積の田んぼで採れるコメと同じ程度の値段で買い取る予定なので、作ればコメ並みに儲かりますが、仕入れ値が高いですから、最終製品の上代もそれなりの高い値段でコストをカバーできるようにしなければなりません。
そのため、智恵子さんも手掛けていない茶綿アパレルの市場を新たに開拓するつもりです。タイトルの写真のオーガニック育ち茶綿のタンクトップと短パンは、アバンティクオリティの柔らかな着心地が素晴しい製品です!茶綿の素材を活かし、環境負荷を最大限抑えているので着用していると着心地だけじゃなく気分も良いです。パフォーマンスウェアとして使ってもらえるよう、オーガニックコットンのメッシュ素材も贅沢に使っています。
100マイル(160㎞)のトレランレースで耐久試験
私は、山を走る趣味が高じてトレイルラニングでも最長クラスの100マイルレースに出場し続けています。山道を走り始めた理由も、50歳を過ぎて孫が出来ても100マイルレースに挑戦する理由も、未だ見ぬ景色を見たいためです。
雲海に浮かぶシェラネバダの山々が美しいスペイン領カナリア諸島(シェラネバダ山脈もスペイン、アメリカ、スペイン領カナリア諸島の全てのシェラネバダの山々を走りました!)。波間に消える太陽を夜の10時過ぎに2000mを超える山の山頂付で見ることができたインド洋に浮かぶレユニオン島。フランス、イタリア、スイスをヨーロッパ最高峰のモンブランの周囲をぐるっと周るレース。日本でも、一晩中月明かりに照らされる富士山を見ながら周囲160㎞を一周するUltra Trail Mt. Fujiには、初回の2012年から3年連続出場し、3年連続上位の30位に入りました。
次に100マイルを走るのは、アメリカのカリフォルニア州で行われるWestern States Endurance Run (WSER)というレースです。2020年6月に開催予定でしたが、来年に順延になりました。このレースは、100マイル(160㎞)というカテゴリーのトレイルラニングレースでは世界で最も人気があり、10年近く申し込んでも抽選ではねられて、エントリーできないような人気レースです。このタンクトップと短パンを着用して走ります。
カラダを鍛えればいいじゃん
コットンだと汗冷えとか心配ですと、仲間が言います。速乾性のポリエステルの生地に比べたら、コットン製の生地は汗も気になるでしょう。でも、昔はコットンしかなかったじゃないですか。汗冷えでパフォーマンスが落ちる何て聞くと、Underdog mindsetがうずうずします。カラダを鍛えればいいじゃんって。
チーム桃太郎
このレースの為に、チーム桃太郎というチームを結成しました。監督は、私が中学生のころから愛読していたPopeyeに創刊から携わってきた伝説の編集者、内坂庸夫さん。100㎞を超えた地点から、選手と一緒に走るペーサーというには、長野県木島平村出身で現在も地元でAlpという宿屋を経営する山田琢也さん、そして御嶽山の麓王滝村に骨をうずめる覚悟で地域おこしに人生をささげる大瀬和文さん。ペーサーの二人は日本のトレイルラニングシーンを引っ張るトップランナーです。
そしてフォトグラファーとして、私が初めて優勝したレースで初めてトレイルラニングの写真を撮ったという藤巻翔さん(このレースで2位だった山田琢也選手と翔くんとは、地域と世代を超えて友達になりました!タイトルの写真も翔くんです。)。桃太郎としたのは、このメンバー構成が桃太郎の登場人物に合うことと(もちろん、私が桃太郎)、アップルの本社のあるカリフォルニアに乗り込むならリンゴに対抗しようということ、そしてやはり福島が桃の産地だからです。
上品な女性だけのものじゃない
智恵子さんは、主に女性、子供向けのカラードオーガニックコットンの市場を切り開いてこられました。私のようなアクティブおじさんがオーガニックコットンに関わるのですから、カラダを動かすことが好きな人たちに環境に優しい国産のオーガニック育ちの茶綿という選択肢を提供していくことは宿命ですね。
茶色のオーガニックコットン製のパフォーマンスウェアを着用し、100年前のオリンピック選手団のようないでたちでカリフォルニアの難コースを笑顔で駆け抜けます!他の選手や彼の地のボランティア参加者が、『それ何?』って驚く表情が楽しみです。ワクワクします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?