山道を走り、衣食住自給のパラダイスを作る理由
Vol. 5 未来が近づいた!
私は、未だ見ぬ景色を見たいという衝動に突き動かされ、普通無理だろうと思われることばかりやろうとする漢。未だ見ぬ景色を見たいという衝動で、30年間続けたサラーリーマンを辞め、福島県の原発事故の被害を受けた地域で風力発電所を開発し、風車と風車の間でオーガニックコットンを栽培し、再開される農業に彩を加える事業を立ち上げました。趣味のトレイルラニングでは、二晩寝ずに160㎞走り続けたこともありますが、その原動力も未だ見ぬ景色を見たいという欲求です。出身地である福島県の安達太良山を舞台に地域おこしの活動をしているのですが、安達太良山でも人々に未だ見ぬ景色を見せたいなと思っています。
事業第一ステージ
原発事故で絶望の地だった福島が、希望の地になるという景色が見たくて*SUSKENERGYの事業を起業しました。SUSKENERGYは、風力発電所を開発、運営し、震災後10年を経て現地が農業を再開するのに合わせ、風車と風車の間でオーガニックコットンの栽培をし、現地で綿製品の加工、製造、販売を目指しています。ここまでは、事業第一ステージ。遅くとも、今後5年ぐらいで実現したいですね。
SUSKENERGYの作りたい未来は、ライフワーク
その先には、衣食住の自給という作りたい未来があります。福島だけで全て自給というのは無理があるので、理想に共感してもらえる各地と結びついて、必要なモノを全て自給する。そんな景色を見るまでには、相当時間はかかり、長い道のりだろうと思っています。
まず、共感してくださる仲間を増やすのに時間がかかるでしょう。だって、安くて品質のよいファストファッションの衣類が簡単に手に入るし、コンビニで買える加工食品の方が手軽です。都会に住んで、おカネさえあれば何不自由なく暮らせます。
『**Underdog mindset』で普通の人ならおとなしくしている時に戦いを始め、根っからの超楽観主義者の私でも、起業した時は、すぐにうまく行く勝算などなく、休み休み走り続ければ未だ見ぬ景色が見れる***ウルトラトレイルラニングレースのスタートラインに立つ心境でした。SUSKENERGYの作りたい未来は、ライフワークでやり遂げるつもりでした。
グレタ・トゥーンベリさん、SDGs、孫誕生、疫病
ラッキーなことに、起業後に様々な環境の変化が起きました。2017年に15歳のグレタ・トゥーンベリさんがスウェーデンで始めた気候変動に対する活動は、Friday for Futureという100万人以上もの学生の抗議行動になります。
2015年に国連が作ったSGDsという目標。しばらくはSDGsのロゴのバッチを社員に付けさせているだけだった大企業まで、行動計画を作り、実行を目指さなければならない目標として機能し始めました。この流れは加速することはあっても、停滞することはないでしょう。
2019年の11月には、孫が生まれました。リアルに22世紀の地球を見届けるこの子に、まともな地球を残さなければいけない!
私が着ているのはオーガニックコットン製のパフォーマンスウェア。段くんの肌着もオーガニックコットン製
変化に乗っかれ!
そんな変化に乗っかって、作りたい未来を頑張って作っていけば、応援してくれる人も増えるんじゃないかと考え始めました!安易なのは、浅はかなる私でもわかっていますが、勢いを使わない手はない!
衣食住の自給は、そこに住む人の希望になり、衣食住という生活の為の必要不可欠なものが身近にあることで、人の心をより豊かにする身だしなみを整えるサービスや癒しの時間も得られるようになるというのが、SUSKENERGYの作りたい未来。
しかし、危機的な状況を迎える前に、衣食住の自給という理想を実現するのは、現実的にやはり難しいと思います。
現在のシステムの弱点発見!
現在の経済システムは、大量生産、大量消費とか規模の利益という考え方の結果が招いた世界的な交換で成立するシステム。そんなシステムを維持するためには、他国の通貨と交換が出来て、一つの国の中では無制限に使えるという利便性がある通貨が必要です。
しかし、その利便性の為に現在使われている通貨には、発行、流通、保管にとてもコストがかかります。そして、そのコストを下げるためのキャッシュレスサービスとしてのクレジットカード等は、使用手数料、加盟店手数料という、これまた誰かのコストを生み出す構造があります。
現在の経済システムの弱点発見しました。
ゲームチェンジャー
自給を目指す地域及び地域間で必要なモノを交換するシステムを作り、交換を容易にする通貨のような何かを作れば解消されるのではないかというのが、私の今の仮説です。
この新しい交換経済の換算単位の下、現在の通貨制度で消費者を始めとする経済の参加者が負担しているコストを解消し、逆に還元するようにすれば、自給経済圏に入った方がコスパが良いので、危機的な状況を迎える前に、SUSKENERGYの作りたい未来に賛同する人を増やせるのではないかと。物々交換ですから、消費税もいらないでしょう(笑)。
それは、SUSKENERGYの独自の通貨
新しい交換経済の換算単位とかまどろっこしい表現を使ってますが、要はSUSKENERGYの独自の通貨です。それがゲームチェンジャーです。地域通貨、ポイント、どんな形態になるかはまだ考え中ですが、ブロックチェーンという技術の急速な普及で、我々のようなスタートアップでもそのような貨幣的なモノを作り、使用することが出来るようになったのも最近のことです。
独自通貨の名はSUSKE
SUSKENERGYの作りたい未来で使用する通貨は、SUSKE(仮称)。通貨には信用の裏付けが必要で、現在流通している通貨(円や米ドル)の裏付けは国家の信用です。SUSKEの裏付けは、衣食住自給にそもそも必要な、太陽の光や風、そして大地のチカラが生み出す、電気、コメなどの食料、繊維等のアウトプットです。
日本銀行によれば、信用通貨と言われる現在の紙幣、そこに1000円と書いてあるから、1000円の価値で使える制度を支えている主な要素は、3つあり、1)発行者の健全性、2)価値の安定性、3)強制通用性(無制限に使用可能であると法律に書いてある)なのだそうです。
3)強制的通用性は、SUSKEの目指すものではないので一旦おいておきます。1)発行者の健全性と2)価値の安定性は、SUSKENERGYの経済圏を一か所にとどめず、全国に広げることで、規模を拡大しながら、天候不順などのリスク要因を分散することにより同時に達成できそうです。
自給自足がベースですから、おカネの蓄えはあまり役に立ちません。天候不順で食料や`衣類の原材料の繊維が取れなくなる場合の備えはそもそも、おカネじゃ意味がなく、日本中のいろいろな生産者と繋がるのが最も効果的な方法です。
ゲームプラン
SUSKEはこんな仕組みで発行、流通します。そして、その記録はブロックチェーン上に残るのです。
太陽光発電にしろ風力発電にしろ、発電事業が外部に支払う地代などの事業経費は、受け取る側がSUSKE経済圏の参加者であればSUSKEで支払います。
太陽光発電、風力発電は燃料が不要な発電所なのですが、例えば太陽光のパネルを田んぼだったところに敷設すると、コメ作りが出来なくなるわけですから、燃料費に相当する太陽光の利用費を支払うようにします。田んぼ一反で年間10万円分ぐらいのコメが収穫できるのに、パネルを敷設した場合、年間3万円ぐらいの賃料しかもらえないので、その差額分の一部と考えても良いかもしれません。
風車やソーラーシェアリングと言う農業と太陽光発電事業が並立する事業などは、その分燃料代を低くしないといけないでしょう。
配当やサプライヤーへの支払いもSUSKE
その他、SUSKE経済圏参加者からの投資により、事業が成立している部分については、それらの投資家への配当もSUSKEで支払います。そのような投資を増やす工夫もSUSKENERGYにはあるんです。クレジットカードのポイントの様に、利用者にSUSKEでポイントを払っても良いですね。
発電所の施設を導入する際、及び発電所施設の維持のために、SUSKE経済圏以外のメーカーやサプライヤーへの支払いは、SUSKEというわけにはいかないでしょうから、おカネ(円)で支払います。そのおカネ(円)は衣食住の対価として、SUSKE経済圏の参加者から受け取ります。
もちろん、SUSKENERGYは、経済圏内のサプライヤーからより多くパーツなどの供給を受けるようにして、おカネ(円)の支払いを極力減らす努力をします。
SUSKE経済圏には、温泉の施設やヘアカット屋さんなど、衣食住だけでは満たされない癒しのサービスもあります。そのようなサービスの支払いにもSUSKEを使います。SUSKEを受け取る温泉の施設やヘアカット屋さんもSUSKENERGYの衣食住の供給をうけることができるので、SUSKEの使い道にこまることはありません。
SUSKE経済圏はいいとこどり
SUSKENERGYの未来は、もちろん今とは違うのですが、今の経済を全く拒絶するわけでもありません。SUSKE経済圏はバーチャルなもので、国家のような体裁をとるものでもありません。経済圏に参加する人たちでも、今まで通りの仕事を続け、おカネ(円)で給料を受け取る人もいるでしょう。そんな参加者の払うおカネ(円)が、経済圏外へのおカネ(円)の支払いのためにも必要です。
こんないいとこどりの考えに至ったのは、GE Renewable Energyを辞め、しばらく無収入でSUSKENERGYの仕事をした後に、****ミュンヘン再保険というドイツ・ミュンヘンに本社がある保険会社の仕事と兼業をするようになってからです。
一本道、狭い道、遊びの無い道
それまでは、SUSKENERGYで風力発電所を開発、運営し、固定価格買い取り制度を活用して儲けて、自分自身の収入を得るつもりでした。いくら欲しいという金額が決まれば、どれだけの規模の風力発電所を開発、運営して、どのような資金調達をして、どれだけ配当を受けれるようにするという、方程式を解けば答えが出ます。
そんな方程式を解いた結果、例えば風車を10基近く立てなければならないとなると、10基を立てるために例えば2㎢の更地が必要だとなり、すぐに使える2㎢の更地がないと事業計画も立てられず、その先に進みません。
オプションはあること自体が価値!
兼業で収入をえられるようになると、発電所からだけの収入をあてにする必要がなくなり、すべての制約が一挙に解消されました。事業第一ステージまでの道筋がサーっと開けました。
超過利潤で、欲しいものを世界中のどこにあろうが買いあげるのではなく、予め繋がっている人たちで必要なモノを交換することがSUSKE経済圏の基本だと言うことと根っこは同じですね。
オプション(選択肢は)あればあるほど、システムの設計が柔軟になります。オプション=遊びです。あっ、シカゴ大の大学院で、一見価値のないオプションにもオプションには価値があるって教わったな~
起業して、分かったこと
起業した後に、兼業の仕事を得られたのは本当にラッキーでした。やってみたら起きたことですから。起業して起きた変化を、楽しんでいることは他にもいくつかあります。
一つは、ころころ言うことや考え方を変えること。それまで勤めていた大企業ではやっちゃいけないことでした。もう一つは、自分にできないことが出来る人を常に探していること。そんなことを認めちゃ自分の存在価値がなくなると生まれてから50年以上思ってました(笑)。
前者は、スタートアップ業界では、Pivotと言いますね。バスケのピボットのように方向転換をすることです。後者は、オープンイノベーションです。各地と繋がるSUSKE経済圏のようなものは、スタートアップにしか持てない発想かもしれません。
来たれ、イノベーター!
SUSKENERGYでは、現在いくつかのイノベーションを必要としています。大人がかがまないと見られない、綿の生育状況を観察するドローン。津波で家が流され、今はだれも住んでいない地域で綿を育てているので、綿の生育状況を見るために何十キロも毎日通うのは大変です。
ドローンに、収穫用のアタッチメントを付けて自動で収穫できたら尚良しです。そして、SUSKEの出入りや、衣類、食糧、電気の生産、供給状況を管理するブロックチーンの導入に関してです。
SUSKENERGYと未来を築きたいイノベーターよ、いざ!
*合同会社SUSKENERGY:2018年6月設立、本社、福島県南相馬市。筆者SUSKEこと渡邊千春が共同創業者兼CEO。社名は、Sustainable、 Energy、福島の方言の『さすけない(問題ない、大丈夫)』の造語。
**『Underdog mindset』:筆者SUSKEこと渡邊千春が、戊辰戦争ではひどい目にあったと後世に言い伝えられる、福島県二本松市で育ったため、勝てない戦いでも勝負を挑むことに何か意味があると思えば強い相手に向かっていく性格になってしまったことを『Underdog mindset』と呼んでいる。
***ウルトラトレイルラニングレース:筆者SUSKEこと渡邊千春の趣味である、トレイルラニングのレースのうち、100㎞を超える山道をコースとする超長距離のトレイルラニングレース。100マイル(160㎞)のレースでは2000人を超えるランナーが参加するレースが世界でも複数開催されている。筆者SUSKEこと渡邊千春は2021年6月に米国カリフォルニア州で開催予定の世界で最古のウルトラトレイルラニングレースであるWestern States Endurance Run(WSER)に参加予定。このレースは、非常に人気が高く、走ることが出来るランナーの数が限られているため、抽選を経て選ばれた参加希望者の3%程度のランナーが参加できる。
****ミュンヘン再保険:筆者SUSKEこと渡邊千春が、SUSKENERGYの仕事と兼業で、ミュンヘン再保険のGreen Tech Solutions(GTS)というチームで働いている。GTSでは、再生可能エネルギーや環境をきれいにする技術等、技術革新のスピードが速く、一般的に機器やサービスの性能が良く分からない新しい技術の性能を保証する保険を開発しており、そのような保険を活用すれば、福島県産のパーツやサービスを使い(つもり、地元の雇用が増える)、そして地元の人たちが安心して風車に投資することが出来るようになります(配当のカタチでより多く地元に還元することが出る)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?