パンクロックと箱根駅伝 第50話

俺は、途切れてしまった襷にどよめく沿道の中を俯きながら、ホテルに向けトボトボと足を進めた。道中にいた人々はざわめきながら、あるいは嬉々としながら目の前の惨状を語り合っていた。誰かが持っていたラジオからは棄権した専央大学を除き全てのチームがゴールした事を告げていた。

道中ですれ違う人々の群は

"まさか、専央が棄権するなんて。"
"いやー、凄いものを見れたなー。"
"あの選手大変だねー。"

と行った具合に異口同音に噂していた。その中を専横大学のウィンドブレーカーを着た俺が通り過ぎると、誰もかれも『あっ!』と言った顔をして同情に満ちた目を此方に向けてきていた。

交差点で立ち止まった時群衆の中から品の良い40ぐらいの女性が哀しげな顔をして話しかけてきた。彼女の横には育ちの良さそうな中学生ぐらいの女の子が立っていた。きっと家族で応援にきたのだろう。

「専央大学、大変だったねぇ。でもね。きっと来年はいい事あるよ。頑張ってね。諦めないでね。私は専央大を応援してるからね。」

そう言うと、俺の手をギュッとにぎった。手袋越しだったが、冷え切った俺の掌に柔らかな温もりが伝わった。

なんだか、不思議な感覚である。さっきまで専央大学駅伝部に全く思入れが入れられず、ボヤボヤしていた俺だといのうに。目の前にいる婦人は専央大学のウィンドブレーカーを着てるだけでシンパシーを感じてくれている。

すると、どこからともなく。

「そうだ!そうだ!専央大学!棄権しても立派だったぞー!来年は頑張れ!」

「来年は応援してるからなー!」

と群衆の彼方此方から声が掛けられた。俺はそれらに何とも言えない気持ちで会釈して答える。

「すみません、ありがとうございます!」

そうとだけ言ってその場を逃げるように立ち去った。何だか、やる気も情熱もなく陸上部のマネージャーをやっていたくせに、『来年は頑張れ』『応援してます。』だの、ある意味では美味しい場面の中心人物になってしまうのが嫌だったからだ。

箱根駅伝が終わり、繁華街に福袋を買いに行く人や、初詣駅へ向かう人々の小走りに、駆け抜け行くと。すれ違いざまに肩をグイッと掴まれた。

何だと思って、そちらを見ると、厳しいスタッズ入りの革ジャンが目に入った。一瞬、ドキっとしたが、次の瞬間。懐かしいギョロ目が俺を睨んでいた。あっ、随分と痩せこけているが、貴方は!

「なんや!牧田!鳩が豆鉄砲食らったような顔してるで!」

俺は、感極まり目の周りが熱くなったかと思うとボロっと涙が溢れた。そして何も言えずに思わず先輩の袖口を使っんで泣きながら俯いたた!

「なんや!牧田!いきなりどうしたんや!」

珍しく狼狽える先輩を尻目に俺は、涙を必死でこらえながら声を振り絞った。

「先輩、おれ、ずっと辛かったんっすよ。もう、何度も、何度も辞めようと思ったんです。それでも、先輩の事を信じてたから今日までつづつけてきました。」

そこで、涙が再び溢れて嗚咽した。周囲の人々は心配そうな顔で俺の事を見つめていた。きっと専央大学が棄権した悔しさで泣いていると思っていただろう。でも、俺が泣いている理由はたった一つだ。

「先輩、あえて嬉しいです!!」




うーん。ドッスン