パンクロックと箱根駅伝 27話

専央大学パルチザンは反乱軍と言われても俺は何をするところなのかいまいち要領を得なかった。
俺は、大島さんに訪ねる。

「あの、反乱軍ってどう言うことですか。あの正直、今日は入部したばかりで右も左も分かっていないので、反乱軍に入るかと言われても、なんと言っていいか分かりません。」

大島さんは、フフンと笑った。

「牧田よ、ぶっちゃな。お前は消費されるだけなんだい。上辺だけきれいに入部したことになっているがな。お前はマネージャーとしてみんなにこき使われて消費されるだけなんだ。たぶな。お前が尊敬する先輩が入部できたとしてもな、伊達監督がテレビ局の人に、『こんな感動的な話あるんで、夕方のニュースで特集組んでくれません?』ってなって感動物語になってそれでおしまいだよ。『箱根メンバーに選ばれなかった陰でこんな感動的なドラマがありました。』ってな。はっきりいって今の専央大学は過剰戦力なんだ。実は2軍でも他の大学に行けば、即レギュラーになれるやつもいるくらいだ。そのくらい戦力が整っているんだ。たぶん今年は箱根駅伝優勝するかもしれない。伊達監督は心が無いが、一流の策士だ。伊達監督はエリートしか興味がない。2軍なんてゴミ捨てバだと思ってる。だから、うちの大学には心が無くて強さだけ求める工業製品の集まりなんだよ。牧田も工業製品を作る為のベルトラインの一員になり、ぼろ雑巾のように酷使され、きっと何も得られないぞ。そう、苦しいだけだ。牧田?お前それで良いと思うか?」

大島さんの目の奥がが鉱山のようにギラギラとした黒光りを発してきた。
俺は、それの気迫に飲まれながら。

「よくは思いません。私は先輩の夢を叶える為にここにいます。」

ときっぱり答えた。
大島さんが声もなく頷いたあと、顔を上げる。

「よし、お前はやはり俺たちの仲間になるべきだ。ここにいる連中の目標はただ一つなんだ。自分『達』が箱根を走ることなんだ。つまりだ、俺たちは一軍の連中とは殆ど関わりがないし。正直な誰が走ろうが。勝とうが負けようがどうだっていいんだ。そう、それは絆がないから同じ大学の誰かが箱根を走ったって同じ事なんだよ。でもな、そんな事には価値がないんだ。俺たちはチームを作りたいんだ。血の通った人間同士のチームをだ。それが、ここにいる専央大学パルチザンンのメンバーなんだ。俺たちは二軍でも一軍に勝って箱根駅伝にでれるって本気で信じているメンバーなんだ。きっと一軍の奴が聞いても。二軍のほかのメンバーがそんな聞いてもきっと笑うだろう。だけどな。俺たちは本気なんだ。きっと人から聞かれたら笑われる事の為に真剣に力を合わせてるチームの中のチームなんだ。牧田だってそうだろ。きっと先輩が箱根駅伝を目指すから自分がマネージャーになって応援する。そんな突拍子のない話なんか誰かに笑われたり馬鹿にされたりしただろ?」

俺はベースギターを叩き割った井上さんの顔がちらついた。

「そうです。大島さんの言うとおりです。笑われて馬鹿にされました。でも自分は本気なんです。ここに入れてください。私はどうにかして先輩の夢を叶えたいんです。」

大島さんが座布団の一つを指さす。

「よし、権堂の横に座れ。今日からお前は俺たちの仲間だ。歓迎会をしてやる。」

そういわれて俺は円形に並べられた7つの座布団の一つに腰掛けた。
丁度座ったところで、部屋に新たに食堂にいなかった誰かが入ってきた。彼は手いっぱいにパンパンになったスーパーの袋を持っている。

「おー、君が牧田くんか。よろしく。」

そういって、優しそうな長身の男がにっこり笑った。直感的に俺はこの人が好きだと感じた。
彼は缶チューハイやスナック菓子を買い込んできていた。その差しれを権堂さんとニキビ顔の下級生が皿にポテチを盛りだしたりと忙しそうに準備し出す。俺も準備を手伝おうと思ったが権堂さんに。

「い、いや。牧田くんは主賓だから。だ、大丈夫です。」

と言われて制されてしまったので、黙って座っている事にした。
そうしているとプラスチックのコップが渡されて缶チューハイが半分だけ注がれた後に、円陣の中央に鎮座した、巨大な容器に入った甲種の焼酎がたっぷり注がれた。うおぅ。なんとパンチがあるチューハイの焼酎割りじゃないですか。味を想像しただけで、飲んでもいないのにサブ疣が出てきた。
一通り準備が終わり、全員にハードな酒が行き渡った所で大島さんが音頭をとる。

「さぁ、牧田君が入りまして、我が専横大学パルチザンも一層強力な物になりました。明日、朝練があるので今日は程々に飲みましょう!では、心のあるチームを作るためにがんばりましょう!乾杯!」

乾杯!!

そういってグラスを合わせた後にプラスチックのコップの中の酒を飲み込む、一口飲むたびに『きゅぃーん』っと何とも言えない焼酎の臭さが鼻を抜ける。何が程々に飲みましょうだ。いきなり、アッパーカットぐらい強烈な酒だよ。と思いながら息を止めて飲み干す。

「じゃあメンバーの紹介をするよ。」

すでに一杯目を飲み干し酒臭くなった大島さんが俺の肩をつかみながら話す。

最初に、俺をこの部屋に呼んだ。切れ目で髪がサラサラした長身の学生を指さす。

「あいつが我らがエースの梶原。3年生実力者だ、本当なら一軍だが俺と浜と一緒に伊達監督に物申したから懲罰降格でここにいる。10000m29分24秒。ハーフマラソン。63分12秒。うちじゃなければどこにいってもレギュラー間違いなしだ。ただ、ちょっとな。文学部哲学科選考だけあって変わりもんだ。」

梶原さんは、ポテチをつまみながら。

「ちょっと大島さん、変わってるんじゃないですよ。僕はただ、走る事によってイデアの壁をこえた、、、」

と、梶原さんがサラサラする髪をなびかせながら、哲学的な何かを必死で言いかけた時に大島さんが手の平を向けて静止させる。

「あー、はいはい。わかった。わかった。で、その隣に座ってる奴が1年の小林。」

大島さんはニキビ面の下級生を指差す。彼は、はにかみ屋でその度に八重歯をのぞかせた。

「どうも、よろしく。」

と会釈をしてきたので。俺も会釈し返す。

「あっ、小林さんよろしくお願いします。」

大島さんが小林君の紹介をする。

「彼は、双子の兄貴が1軍にいる。小林海が兄貴で、小林空がこいつだ。言っちゃ悪いが、伊達監督は高校生で5000m13分台のエリート小林海を取るために、バーターで才能の出がらしと呼ばれた空を取ったんだ。入部してから、出世頭の兄とは対照的に、小林『そら』じゃなくて小林空『から』だ。なんて馬鹿にされてたんだがな。おれは気がついたんだ。こいつはとにかく誰よりも練習するんだ。そして俺たちが小林空を一人前に育てると決めんだ!なっ、兄貴を見返してやろうぜ。」

そう言うと、大島さんは小林君とハイタッチした。

「それから、その隣が権堂。もう知ってるだろ。お前の同部屋だ。どっからどう見ても小学生。しかし、熟女好きの天才プラモ職人。練習はストイックで実はこの誰よりも負けず嫌い。10000m29分57秒で今一歩だが、1500m3分48秒で走るスピードスターだ!」

おれは、スピードスターだ。と言われも1500mのタイムなんか分からないし、それより、権堂さんがスピードスターで熟女好きという情報量が多すぎではないかと感じた。

「ま、牧田君よろしくね。」

相変わらずモジモジと上目遣いで話すのでこちらまで照れてしまいそうだ。

「それから、お前の隣にいるのが4年生のギャンブル狂の白井。人間としてはクズだが。実力は確かだ。10000m29分14秒 ハーフマラソン63分55秒。こいつは本当にクズだ。まず学校行ってない。そしてパチンコばっかりやってやがる。しかも、可愛いデリヘル嬢と東北から上京してきた真面目な子と公認で二股してる上に月20万以上は貢がせている。しかも両親は地元のリサイクル工場の社長で月の仕送りで40万貰ってる。はっきりいってクズだ。だけど、陸上にかける情熱は本物だ。競技場に入ると人が変わるんだ。こんなんでもな。今は一軍にピックアップされて一軍と練習している。今年箱根走る可能性は大いにある。」

白井さんは、つまみのサキイカをチュッパチュッパしゃぶりながら。

「うへへ。大島ちゃん。クズなんて。ひどいんだからぁ。」

と、ニヤニヤしながら言った。俺は不思議でならない。髪も薄く四角弁当箱のような輪郭をしいてる上に肌がややくすんだ色していて、眉毛ボサボサの一重で恵比寿様みたいなエロ目をした、どうみてもオッサンな白井さんにそこまでモテる要素があるのか、不思議でたまらなかった。

大島さんは自分の真正面に座った優しそうで、清潔なグレーのポロシャツが爽やかな長身の男を指差す。

「それから、お前の正面に座っている男。この方こそ。我らが反乱軍のリーダーにして。真のキャプテン。3軍長の浜さんだ!」

浜さんは優しく微笑んできて。女性みたいに指が美しい手を俺にそっと差し出しギュッと握手してきた。

「牧田君よろしくね。いきなりだけどさ。俺の脚はもう使い物にならいかもしれないんだ。今に始まった事じゃなくて、高校生の時からずっとなんだ。だけど、俺は『繋ぐのは襷じゃない心だ。』って常に言い続けた大城監督に憧れて、この大学を選んだよ。だから、伊達監督が全部ぶっ壊した『心』がもう一度、繋がるチームを作りたいんだ。それは伊達監督のやり方に真っ向から反対してるって分かってる。だけどさ。やるのは選手なんだよ。箱根駅伝を繋いできたのは、メディアの力じゃなくて、学生達の力なんだ。だから、俺は君を歓迎するんだよ。君の話を聞いて一緒に頑張りたいと思ったんだ。一緒に心が繋ごう。」

俺はギュッと握り返し。

「ぜ、是非こちこそ。」

そうギコチなく言った。何故ならば、男の人と握手してるのに、俺の顔はきっと赤くなっていた。一瞬で嗅ぎ取ったが浜さんという人間には人を一瞬で惹きつける不思議な魅力がある。きっと、本当に反乱軍のリーダーもこんな感じの人だったんじゃないかなと思った。

浜さんの手を離すと、大島さんは2杯目の酒をを飲み干したところだった。。

「あとは、超問題児がまだそろそろくるはずだが。」

と、言ってコップを床に置いた時、部屋の外でパタパタと独特な足音が聞こえた。

白井さんが、カルパスをチューチュー吸いながらいやらしく笑う。

「福ちゃんのお出ましだぜ。」

その時、ガチャ!!バッタン!!と荒々しく扉が開けられた。その方向をみると、灰色の布を頭まですっぽりまとったどう見ても魔導師にしか見えない裸足の男が乱入してきた。

彼は、ペタペタと足音を出しながら無言で俺の前に仁王立した。なにこれ。どうすればいいの?と思った瞬間。

「ホアチャーーーーーー!!!!」

と彼は絶叫し、自分の着ている布を勢いよく剥ぎ取った。そうすると彼は全裸になった。彼に裸には「入部おめでとうだゾウ。パーオン。」とデカデカと書かれていて。狼狽する俺とは関係なく。

「ホアチャ!ホアチャーーーーーー!!ヒャヒャヒャヒューーーー!」

など、奇声を上げながらおれの顔面に股間を擦りつけてきた。それを見ていた。部屋の人達は笑い転げた。

「えっ、なんなんですか?大島さん!これ!なんなんですか?」

大島さんはゲラゲラ笑いながら。

「ヒィー!ハハ。ま、牧田。そ、そいつ福永。き、君の同部屋。ハハッ。き、奇行が過ごすぎて2軍寮に落とされた、一軍の天才ランナー。ハハッハ。福永は天才ランナーだが友達が誰もいないから、俺たちが面倒みてるんだ。ハハッハ。」

そのまま福永さんは。ギョーエース!ギョーエース!などとよくわかない事を叫びながら、腐ったナメクジがリズミカルな体操をしているが如く奇妙な踊りをした後。何事もなかったように、全裸で部屋を出て行った。

「ま、牧田。仲良くやってくれたまえ。ハハッハ。」

福永さんは先輩を上回る狂人かもしれない。
そんな事を思いながら、TVだとかユーチューバーだとかたわいもない話をした後。飲み会は解散になって。部屋に帰って寝た。部屋には福永さんはいなかった。

うーん。ドッスン