虹を掘る男

私は虹の干物が名産地の大虹川町の出身です。
だから父は、虹を掘る仕事をしていました。虹を掘る仕事も、昔と比べれば有名になってきましたが、まずはこの場を借りて虹を掘る仕事について説明をさせていただきます。

大きな虹の根元には、ゴツゴツしたクルミのような種が虹一個当たりで40個ほど実っています。それこそ、虹がかかる間の僅かな時間でしか採掘することができない虹の種であります。そして、父は虹の種を掘る名人でした。

父が泥だらけになって虹の種を持ってくると、母が急いで台所に虹の種を持っていき、ハンマーでカツンと殻を割り、スプーンによく似た銀製の器具で薄い透明な紫色の種の芯をスルンと取り出してから、塩水が入ったバケツで丁寧に洗います。それから天日干しをします。天日干しが終わると、黄色い金平糖のような虹の干物ができあがります。虹の干物は掘り出してから加工するまでの速度と正確性こそが重要でして、普通の人がやろうとすると失敗して苦くて臭い虹の干物しか作れません。しかし、両親の作る虹の干物は絶妙に甘辛く鰹節によくにた香ばしい香りが口一杯にひろがる良質なものでした。

両親は、出来上がった物を綺麗に袋詰めをして京都の高級料亭に売っていました。相場は100g20万円ほどで取引されたそうでした。ですから旬である6月、7月、8月あたりを大忙しで働くと、あとは1年のんびり暮らせるほどの収入が手に入りました。

家庭はとても裕福でした。そして、誰よりも早く虹の種を掘ってくる父親はとても誇らしかったです。虹の種は一流の猟師にしか取れないといわれていました。なぜなら雨が上がって虹が出てから虹の根本を探してる内に虹が消えてしまって間に合わないからです。過去のデータをもとに計算式に当てはめておおよその場所を特定して、虹の根元になりそうな地点を割り出す必要があります。

順風満帆な父の仕事に問題が起きたのは、大体10年前のことでした。

虹の種を掘り当てる、大儲けができるとネットで話題になってしまったのです。ですが、前述しましたように、虹を掘るのはとても経験と技術がいることですし、素人がやっても美味しいる虹の干物は中々作ることができません。ところが、そんな価値のない虹の干物でも、もの珍しさからネットオークションで高値で取引されているようになっていきました。その上、父親のような一流の猟師しかできなかった虹の発生場所の予測もスマホで簡単にできてしまうようになりました。

その結果、大虹川町は小銭を稼ぎたい者や、レジャーとして遊びにくるファミリーなどで溢れかえってしまい、父の仕事は成り立たなくなりました。町も大混乱になりました。

この問題の解決に大企業のR重工が乗り出しました。大虹川町と共同で虹がよく取れる土地を買い占めて虹の種の採掘事業を機械化作業で行う事を提案しました。それは同時に町の多角的発展を約束するものでもありました。大虹川町はR重工とすみやかに契約を結びます。その結果、虹の干物は全国的な名産品となり、虹の種の採掘工場は世界的な観光地にもなった事はみなさんもご存知でしょう

高齢化問題と巨額の財政赤字を抱えていた大虹川町はR重工と手を取り合う事で町政再建をを達成出来たのです。

しかし、父は手彫りでなければ美味しい虹の干物は作れないと猛烈に反対していましたので、心身を病んでしまいました。仕事もせず、隠居した老人のように毎日テレビをボーっとみるような日々でした。私はそんな父を励ましたいと思って、父にこう話をしました。

「父さん。もう虹が掘れないとしても、夢も希望も失うのは違うと思います。もう一度ど立ち上がって、今度は、誰かの心に虹を植える人になってください。」

そうしたら、父はスッと立ち上がってまっすぐ私を見つめこう言うのです。

「そっか、虹を植えればいいんだ。」

父は慌てて着替え、納屋にいきました。そこには父が加工しないでおいてあった虹の種が大量に残されていました。父はそれに何かしらの液体を瓶から取り出しドバドバと掛け始めました。

「父さん、何をしているんですか?」

と、私が訪ねると。

「実はな、虹の種は加工するだけじゃなくて、特殊な液体をかけることによって虹を発生さすることもできるんだ。」

まさか、と思いましたが、種の一つを地面に放り投げると、庭に綺麗で大きなな虹が掛かりました。私は感動しました。母と一緒に涙を流しました。

「父さんすごい、その技は貴方は人を感動させられるよ。」

ここまでならいい話だったのですが、そこで止めるべきでした。虹が出せるようになった父はすっかり気をよくしてしまい、パリピに唆されてYouTuberになってしまいました。
このたびは父が「渋谷のスクランブル交差点を虹だらけにしてみた結果」という動画の撮影の為に、渋谷を虹だらけにさせてしまい。皆様に多大なご迷惑をおかけしました事を深く謝罪いたします。
                          R重工専務  大村 和也

うーん。ドッスン