パンクロックと箱根駅伝 25話

大島さんから紹介されたれると、「じゃあ。」と言って大島さんは部屋から立ち去り、部屋で2人きりになった。
驚いたことに、どう見ても小学五年生ぐらいにしか見えない権堂さんは大学3年生だった。
身長も低く痩せてるので、誰がどう見ても幼く見えるし、その上、テカテカした素材の単色べた塗りのダサいウィンドブレーカーがそれを助長していた。
権堂さんと軽い自己紹介を交わした後に、着替えと日用品をパンパンに詰め込んだスーツケースを部屋の廊下の空いている場所にとりあえず置いた。廊下に置いたのには訳がる。なぜならば、物が多すぎる。しかも尋常ではない。
恐らく誰が部屋を見回してまず驚くのが、部屋の汚さである。だが、汚いと言っても腐った残飯が放置してあったり、何を飼っているか不明な謎の虫かごがあるとかそういった類ではなく。とにかく物が雑然と多かったのだ。高円寺の店長がガバガバ大麻吸って、いつもピンクの象と会話するカオスな古着屋だったこんなに物は多くない。そもそも大島さんの部屋と比べて少し間取りは広いのはずなのだが、大島さんの部屋の方が大分広く感じるほどだ。
部屋の壁側に不釣り合いな50型ほどの薄型テレビが立派台の上に置かれていて。その脇にはアダルトDVDが無造作に積まれていた。しかもその大半が人妻物だった。(それも、かなり高齢な方の)
テレビの脇の本棚にはペーパーバックのボロボロの漫画雑誌が容量の限界まで詰め込まれており、さらにその隣の棚には軍艦のプラモデルがぎっしり詰まったガラスケースが設置してあり。そしてなんの脈絡もなくインドっぽい象の置物が三体。アフリカっぽいフラミンゴ木彫りのが1羽。鉄製のアンコールワット。なんかも置いてあった。
壁という壁には、張り物だらけで、特にカオスなのが、地方の暴走族が作ったと思われる謎のシールや、地方でカルト的な人気あるのラッパーのフライヤーやらがベッタベタに貼り付けられた横に、覚醒剤の恐ろしさを訴える中学生が書いたポスターと地球温暖化の為に泣いている象のポスター(やまだ ゆうた 西小 2年生)が貼られていた。100均で売ってるような吊り下げ式の小物入れに、フィギュアやらゲームボーイやらが無造作に突っ込まれている。CDも何枚かあるが、8mmCDを折ってコンパクトにしたものだった。
洗濯物が窓際にビッシリ干されているが、洗濯物に混じって空気の抜けたダッチワイフが肝臓を取られたアンコウみたいに悲しげに吊るされていた。
反対側の壁には巨樹者の日用品、着替え、学用品、それから練習着などが詰まった衣装ケースのタワーそそり立っている。
部屋の中央には布団が三つ3つ畳んでいた。布団は部屋にあると言われたが、どれを取っても廃墟ホテルから盗んできたかのようにボロボロだった。きっと左のまだ幾分綺麗にたたまれいるのが俺の布団だろう。

こんなカオスな部屋の中でどのように荷物を置くべきか狼狽していると、権堂さんがモジモジしながら俺に話しかけてきた。

「あっ、あのー、僕は、練習なんで、いっ、いまから走り行ってきます。だっ、だから適当にくつろいでください、ただ、もう1人の部屋に住んでる福永さんが唐突に帰ってくるんで、そっ、そこだけ注意してください。」

なぜか年上なのに敬語を使われたが、きっとそれが彼の性分なのだと理解した。

「わかりました。ところで、福永さんってどんな方ですか?」

「えっ、えっと、実力はあります。才能はすごいです。たっ、たぶん。戸川さんには勝てませんが、前川さん。大和さんと同じぐらい強いです。も、勿論1軍です。で、でも、色々奇行がすごいんで、1軍寮に置いとけないから2軍に来た方です。だ、だけど、悪い人じゃないです。でもですね、なんていうか、コミュニュケーションがハードな所があるんで気をつけてください。」

「コミュニュケーションがハードって、どういうことですか?」

権堂さんは少し間を空けて、うーん。っと考えた後に。

「まっ、まぁ、しばらくしたらわかりますよ。では、練習にいってきます。」

そう言いうと、権堂さんはカラフルなシューズを履いて颯爽と出て行った。
俺は、カビ臭くてイカ臭い部屋の中で何をしていいやらと思いながら、とりあえずスーツを脱いで、スーツケースから寝巻きにしてる田無土綜合高校のジャージを取り出して着替えた。
緊張づくめだったので、座って『ふぅ』っと、一息ついてから改めて思う。つくづく、変な部屋だ。何せ一貫性がない。すっと立って、部屋をグルッと回ってよく見渡した。、再生機材もないのにVHSやらカセットテープなんかが大量に入った箱やら、古いアイドルの写真集と卒業アルバムと伝説の暴走族の暴露本大量に入った衣装ケースがあった。どうも、奥には特攻服らしき物があるが、開けるわけにもいかず確認できなかった。
水が出ないシンクの周りはダンボールで手作りの鉄道ジオラマが作られていた。しかも走るのはプラレールの貨物列車だ。その貨物列車は、『希望』『勇気』『巨乳』『確定申告』と書かれた謎の貨物を引いていた。
こんな訳の分からない部屋にあって、もっとも奇異なのが、部屋の玄関の上に神棚のような物があり。そこにゴムのチューブのような物が見える、まさかとは思うが、どうもそれはオナホールに見えるのだ。(まさかね。)
権堂さんが言うには福永さんは奇人だ。しかし、俺は先輩を超える奇人にあったことがないから、きっと今回も許容の範囲の奇人だとタカをくくっていたが、どうもひょっとすると先輩とは違った類のとんでもない奇人かもしれない。まだ、世の中にはヤベェ奴がいる。
そんな事を思いながら、部屋の隅で体育座りして2時間ほどドキドキ待っていると、ガチャリとドアが開き『うわっ。』っと言いそうなほど緊張したが、入ってきたのは汗だくの権堂さんだった。俺はとりあえず。

「お疲れさまです。」

と、形ばかりに先輩の苦労を労うと、

「いやー、つっ、疲れたましたー。あっ、福永さんはまだ帰ってきてないんですね。」

相変わらずモジモジと返事を返してきた。
彼は、鉄道ジオラマの中央にあるダンボールで作られた高層ビルを持ち上げてスポッと外した。すると中から小ぶりの冷蔵庫が出てきて、彼はウーロン茶を出してラッパ飲みした。
思わず『そこにあるんかい冷蔵庫』と、そう心なか突っ込んだが。権堂さんはさも当たり前のようにダンボールを再び被せた。

「じゃあ、シャワーいってきます。あっ、シャワー室はは外の空き地にある。プレハブです。いつ浴びても良いけど。左はめっちゃ熱くて、真ん中はちょっとヌルくて、右はめっちゃヌルいなんで気をつけてください。」

そういうと権堂さんは着替えとタオルと玄関に置いてあった、洗面道具を持って外に出た。
一応、シャワーがどんな物かを確認する為に権堂ついていくと、外は、もうとっくり日は暮れいていて、冷たい秋風がビュービュー吹いていた。シプレハブの前では、外からかろうじて見えない程度の遮蔽板の中で、権堂さんがこ凍えながら待機していた。先に入っている選手が上がると。彼は素早く全裸になってからシャワー室に入って行った。(残念ながら右端だった。)なんとなく『戦後っぽいな。』なんて思った。(特に意味はない。)

チリンチリンと自転車のベルが鳴ったので振り向くと、自転車に乗った大島さんが練習から2軍寮に帰ってきた。機嫌良さそうに見える。

「おー、牧田!やっほ!じゃあ、これから食事だからその時に、みんなに紹介するよ。あっ、後ろ俺の後ろににいるのが2軍女子マネの大沢。」

そう言われて、大島さんの後ろをみると、小太りというにはガタイが良すぎる眉毛が殆どなくて、髪はチリチリに痛み、肌はカサカサ、口と耳の周りにピアス跡があるヤニ臭い気の強そうな女がやってきた。俺の経験上100%バンギャである。(しかも、バンドマンに持ち帰られないタイプの。)

「あっ、ヨロピコ。なんだバンドマンて聞いたけど芋やん。」

俺を一目みるなり、ふてぶてしい態度で俺にそう宣ってきた。俺の中では『ピロピロリ〜』とエンカウント音が鳴り響くと同時に、頭のウィンドウにが、『トロール大沢から痛恨のいちげき!』が表示された。

うーん。ドッスン