パンクロックと箱根駅伝 5話

学校の門を抜けると。

すっかり日は落ちていて高く伸びたススキを夕日が赤く染め、ひぐらしが鳴き始めていて、どこかで何かが燃えている匂いがした。

「すまんが、わししばらく動けそうにないわ。とりあえずミツマタ屋まで運んでくれへんか?」

「わかりました。」

先輩を抱えたまま自分が住むマンションと逆方向に歩いていった。

いつもの通学路と反対側、工業団地を通り抜けドブ川沿いを歩いて行き、腰の曲がった婆さんが1人でやっているミツマタ商店というよろず屋まで、街田を連れて行った。

そして軒先のベンチに街田を下ろした。

「うっ、いちちち。あー、ありがとな。とりあえず、金やるからコーヒーでも買ってくれ!」

先輩が小銭をくれたので、店に入りマックスコーヒーを2本かった。

「やだ、その顔!喧嘩かい?今時珍しいね。」

梅干しみたいな婆さんに、塩コンブみたいなしゃがれ声で質問されたが。

「いやー、ははは!」

と、笑って誤魔化した。

先輩に一本渡して2人で飲んだ。俺の口の中がチクチクした。

「お前、ホンマは強いやんけ。」

街田は空をみあげながらそう呟いた。

「なんで、俺を助けてくれたんです?」

「そうやな、なんで助けたか教える前に、まず、お前のなまえ教えてくれや。」

おれは、ハッと思い慌てて名乗った。

「牧田です。牧田忍です。」

「牧田か!わしは街田繋や。多分噂されとったやろ、クレイジー街田とかなんだって。でも、実は優しんやで!ほな、よろしく。」

街田はニカっと笑い右手を差し出し握手を求めてきたので、同く右手を差し出てガッチリ握手を交わした。

周りの評判と違ってなんだかとっても魅力的な人に思えてきた。この瞬間から、街田を先輩と呼んで慕おうと思った。

「ほれでな、牧田をなんで助けたんか?だけどな。気にくわんねん、この街。ちまちまクソみたいな事で揉めやがって、いや、揉めるのはええかもしれん。ただ、お前が東京から来た、それで虐められるのはおかしいやろ。俺は、パンクロッカーやから、そんな間違ったルールは許せへんねん。」

「パンクロッカー?」

「そうや、俺はパンクロッカーや!牧田パンクロックって知っとるか?」

街田は声を1オクターブ高くさせ嬉々として質問してきた。

「残念ながら名前を聞いたことしかありません。」

「なんだ、残念やな。パンクロックは情熱!魂なんだよ!パンクロックはそうやな!ロックの一種なんやな。ロックには色々細かいジャンル分けがあるんやがその一つや。だけどな、パンクロックは特別なんや。歌が無くてもいい。楽器が無くたっていい。自分の中に熱い熱いパンクロックの魂を感じて、それを爆発させるのがパンクロッカーや!それで、ある日の夜、わしは、死ぬほどパンクロックを聴いて、パンクロックをやると決めた。決めたからには24時間パンクロッカーでいるべきだ!と思った。そして、どうする?と思った時に俺は、パンクロッカーなら不良達を殴るべきや!そう思った!だからぶん殴った!デストロイや!デストロイ!この街に蔓延る理不尽をぶっ壊してやりたいんや!デストロイ!!でな、まずはパンクロックの歴史や、1970年代終わり、、パンクロッ、、でな、、それが、、、、ロンドン、、ジョニーマー、、、ラモーンズ、。」

先輩は語気を荒げてパンクロックの衝動と歴史と偉大さについて熱く講釈を始めたが、専門用語が多すぎて後半の方はほとんど理解できなかった。

「ピンクフロイドが、、、フィルコリンズで、、、ロックイズデッド、。」

延々と話は続き、すでに10分はたったがありがたい話が終わりそうになかったので。

「あー。すみません。ちょっと待ってください。パンクロックの歴史は充分わかりました。なんで、俺をたすけたてくれたんですか?」

「ん?ああ。そうやったな。あれなんよ。牧田の事は学校で噂になっとったんだわ。公害を認定させる為に嘘のデータを出しに東京から来たやつがおる。って。で、一部の人間がお前に嫌がらせして東京に返そうと思っていたらしい。まぁ、噂を盗み聞きしたでけて、どこまで本当かわからんがな。」

俺は、衝撃を受けた。まさか学校ぐるみだったとは。

「昔な同級生でおったんや、土地の利権の絡みで大騒動になったこともあってな。それで、そいつはいいやつやったんやけど、ある日突然クラスから無視されて、家は放火され、心を病んで松本のほうへ引っ越し、家族は利権も手放した。まあ、この街ではよくある話なんよ。でも、わしは、そもそも街の外れものやし、何されても噛み付くだけやから、何されても別にどうでもええ。と思ってたんやが。そん時は、他の人間がそんな目に合うとこ同じく見て見ぬふりしてる自分が歯がゆかった。」

先ほどの熱弁とは打って変わり先輩は物静かな口調で話し始めた。

「お前が来たとき、変な噂が流れて、また昔と同じような事が起きるのを直感した。でも、わしは、はぐれものやし、誰かを助けるなんて辞めようと思ったんやが、なんかお前の目を見て直感した。」

「目ですかか?」

「そうや。目や。お前はこの街でつぶれてはいけない人間やと思った。いつもどこか寂しげな目をしてたが、その奥に何か秘めてる物があると俺は感じ取った。そう、お前となら何かできそうな予感がしたや。」

「何か?って何ですか?」

「俺には計画がある!この街をぶっ壊す計画があるんや!まあ、今度話すわ。のるかそるかは牧田に任せる。まあ、助けた理由はこんなもんでええやろ。」

先輩は両手の拳を握りしめながら熱弁した後、俺の肩にポンっと手を置いた。

「なんか、本当にありがとうございました。」

「ええ、当たり前の事をしたまでや。」

と言うと、先輩はベンチから立ち上がりコーヒーを飲み干し空き缶をゴミ箱に捨てた。

クレイジー街田。と呼ばれている先輩は俺にとって英雄だと思った。クレイジーなのは先輩ではなく田無土の街のほうなのだ。俺はこの人についていこう。と硬く誓った。

コーヒーを飲み終わると、先輩と別れ帰宅した。

父は仕事が忙しくて帰ってこなかったので、その日はポテトチップを一袋食べた切り、何も食べずに寝た。

次の日、不良達も先輩も俺も全員高熱を出して寝込み欠席した。併せて俺の顔はボコボコだった。

クラスでは同級生が色々なうわさ話をしていたが、腫れ物には誰も触らず話しかけてこなかった。

しばらくすると、担任の先生が入ってきてHRが始まった。

俺の腫れた顔をちらりと見たが担任は何も聞かなかった。自身が学校の腫れ物である事を再認識できた。

授業が終わり通学路を通り家に帰ろうとすると、児童公園の車止めに腰掛けている人が居るのが見えた。その人物は俺を見つけると軽く手を振った。近づいて見ると顔をパンパンに腫らした先輩だとわかったので、そこに駆け寄った。

「こんにちは、あ、もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫にみえる?」

先輩はシャツをめくり、赤黒く染まった腹のあざを指差して二ヒルに笑った。

「見えません」

「そう、大丈夫じゃないんや!」

そう、先輩がいうと、なんだかおかしくて2人で顔を合わせて、ははははと笑った。

「俺の家来んか?見せたいものがある。」

先輩は自分の家の方向をクイっと親指示した。

「是非!行かせてください」

といって通学路を逆方向に歩き先輩の家に向かった。

先輩の家に行くには想像以上に歩かなければならなかった。住宅街に住んでいるのではなく、採掘場のエリアに住んでいた。築50年は軽く超えている4階建ての巨大な墓石みたいな長方形の形をしたアパートで、工場の関連施設のようだった。その305号室に先輩の家があった。

一階部分の共用ポストは全て一律に錆びていて、長年放置された古ぼけた三輪車に蜘蛛の巣が張っていた。

「ボロいやろ。昔の銅山が合ったときの工場の社宅だったんやね、家賃はたったの7000円。でも、こんなお化け屋敷、住んでるのは、うちと南米っぽい人が6人住んでるだけやがな。」

たしかに、いかにもお化けが出そうな物件で、とてもこんなところには住みたくないな。と、思いながら煤けた階段を昇って行った。先輩の家の前につくと、鉢植えの下から鍵を取り出し、2人で中に入った。

「あっ、おじゃましまーす。」と言いながら靴を脱いで玄関に揃えて上がった。

1LDKの狭い部屋だった。最初に目に入ったキッチン。作りが古臭いが、よく清掃されており食材と調理具が多いのが意外だった。リビングも清掃が行き届いており小綺麗な部屋と言う印象を受けた。

「こっちや!」

そして、リビング突っ切り奥の部屋に案内された。そこが先輩の部屋だった。

先輩の部屋というには家族共用の荷物が多く。小奇麗なリビングとは対照的に、雑然としていた。落書きやシールにより古参兵のようになった学習机が置いてあるのが印象的だった。

しかし、意外なことに学習机の上は、よく使い込まれた参考書や教科書やノートだらけで、一目しただけで先輩が真面目な人物だと俺は思った。

その他には、漫画やゲーム機、スポーツ用品などは何もなかった。古ぼけた赤いカーペットの上に、小さなアルミのテーブルが一つ。そして洋服ダンスの上に20型ぐらいのテレビ一つあるだけだった。

窓の外には工場後の殺風景な景色が広がっていた。部屋は蒸し暑かったので先輩は窓を開けた。クーラーはないみたいだった。

「まあ、座ってや。」と先輩が押入れから座布団を2つ出した。俺はそのうちのひとつに腰掛けるものだと思ったが、そのまま2枚重ねて、彼はぞんざいに座ったので、俺はそのままカーペット上に腰をかけた。

「あ、このまえはありがとうございました。助けてくれて。」

先日のお礼をいい忘れてのに気がついて、改めて感謝の意を伝えた。

「そんなのええで!当たり前のことをしたまでや!」

そうは言いながらも、先輩はまんざらでもんない表情だった。

「あの、もう一回聞かせてください。なんで、俺のこと助けてくれたんですか?」

「まあ、おちつけや!まあ、茶でものんでから話そうや!」

先輩は腰をスッとあげて隣の部屋の冷蔵庫から麦茶を二つ持ってきてくれた。

「すみません、ありがとうございます。」

のどが渇いていたので、勢いよく麦茶を飲み干した。

「のど乾いてたんか、じゃあ、もっと飲んでええで!」

といったので冷蔵庫に行ってクーラーから2杯目を注ぎありがたくいただき、それを飲み干すと。

「そんでな、うち見てのとおり貧乏やろ?」

と先輩は聞いてきた。

「そんなことありませんよ。」

と謙遜して言ったのだが。

「いや、そんなんいらん。実際貧乏やから。な。」

先輩は、壁紙のはがれている箇所や、ボロボロになったん網戸を、指で指してニヤリと笑った。

「うちな、片親なんよ。おふくろしかおらんでな。親父の顔なんて覚えてないんだわ。小さいころぼやーっとした記憶、車で海に行った記憶しかないねん。でな、親父が借金作って逃げたかなんかしらんけど、うちの母親は身よりもなんもなく、この町に逃げるようにやってきたんだわ。このなんもない街は、逃げるのはうってつけだったのかもしれんな。だから父親はもちろん。爺さんの顔も、婆さんの顔もしらん。小さいころからずっと一人ぼっちやった。母さんは毎日仕事でな。ずっと一人や。」

「大変なんですね。うちも実は、片親ですがそんなにひどくはありません。」

「牧田もそうやったんか?大変やな?」

「ええ、でも大分受け入れてきました。」

「そうか、まあ、わしは自分の過去が分からないから親譲りの関西弁だけは大切にしとった。なんか、これを失ったら、本当にいろいろ失う気がしてな。でも、わし友達ぜんぜんできなかった。世捨て人!関西弁!とか馬鹿にされてな!大都市じゃあ世捨て人なんて言葉はないけど、このクソみたいな街では世捨て人は許されんらしい。おふくろはいつも仕事が遅くてな、一人で11時過ぎまでずっと一人でテレビ見てたわ。わしがこんな寂しい思いしてるのに、同級生の家は何処へ行っても暖かくて楽しそうで。それが、なんかすごくチグハグな気がして辛かったわ。いつしか、わしは気に食わん奴とは、喧嘩するようになって、街の不良にも喰って掛かったわ!いつしかクレイジー街田とか呼ばれてな。おふくろはそんな俺を心配してくれた。わしは内心それが辛かった。だからな。この街に嫌われても、将来的にはおふくろに迷惑かけたくなし楽させたいから勉強だけはきっちりやってたんやな。」

先輩の心が籠った母への思いにジーンとすると同時に意外性を感じた。

「いい話ですね。感動しました。確かに参考書いっぱいありますね、進学校に行くんっすか?」

「まあ、県北高めざしてるわ!、滑り止めで田無高やね。」

先輩は右の空に目線を移してさらっと話した、俺はびっくりしてすっとんきょうな声を上げた。

「県北!上から二番目じゃないですか!?めっちゃ頭いいじゃないですか!いや、受験前に喧嘩なんかしてよかったんですか?」

先輩は右手の握った右手に親指を立て、自分の顎にに当てた。

「たしかに、母さんを安心させたいだけならそれでええわ!ただ、俺の中のパンクの魂がそれをゆるさないんや!。」

今度は右手でピストルの形を作り、俺に向けて突きつけてききた。

「おれには!やりたいことがあるんや!いや、自分がやりたいことを見つけてしまった!」

そういうと学習机の一番大きな引き出しからCDを一枚取り出した。

そのCDは灰色の4人の写真が男の写真が写されたジャケットだった。

「これはブルーハーツや!日本最高のパンクバンドのCDや!」

「あっ、バンドやりたいんですか!」

「そうや!俺の2つの夢を叶えたいんや?」

「2つの夢?」

俺はは首をかしげた。

「まず1つ、おふくろに親父の事を何回聞いても、いつも何にも教えてくれんかった。(貴方が大人になったら全てをきっと話すから待ってね。お願い。)としか常に言われんかった。いつも悲しげなおふくろを見ていると自分をこんな惨めな暮らしをした親父をぶん殴ってやりたい気持ちがいつからか芽生えてきたんや。で、ある日、うちの車に乗っている時、パンクバンドの曲が流れてきてな、自分のムシャクシャした気持ちにスッとしみ込んだんよ。で。わしはすぐ、おふくろに頼んでレンタルCD屋に連れてってもらい、さっきの曲のCDを借りてきた。」

「それでどうなったんです?」

「もう、すごいわ!自分を捨てた親父はむかつくが、こんな脳みそがとろけそうになるほどかっこいい音楽があるんか!と衝撃をうけた!なんか自分の生まれを恨んでる自分がばかばかしくなってきたんや。」

「そんなカッコいいんですか?」

「そりゃ!カッコよすぎるわ!で、わしは思った!わしはパンクロッカーになろう!って、それで、そしていつか本当の親父に会ったとき。わしはそいつの前で歌ってやるんや!俺と母親の生き様を!激しいパンクのメロディーに合わせてな。そして、泣き崩れさせてやるんだ!泣かなかったらぶん殴ればいい!それが1つ目。」

「カッコいいっすね!」

「そんでな!わしは思った!俺は。自分のためだけじゃなく、自分と同じ用に惨めで鬱屈したすべての青春の為に歌おう!ってな!パンクで世界は返られないが、誰かの世界を変えられるはずだ!そして、そこにお前がいたんや!」

「自分ですか?」

「そうや!あんなとこで虐められて。このクズみたいな街で一生クソみたいな青春の記憶しかつくれず死んでいくためのお前の人生をわしが変えたいやりたい。そう思ったんや!まだ楽器はない。歌もない。メンバーもいない。ただ情熱はある!俺の胸の熱い熱い情熱が!」

先輩は熱弁してきて涙が出てきそうな勢いだった。俺は街猛烈に感動し震えて言葉が出なかった、そして涙が出てきた。

「壊してやるんや!自分に与えられたクソみたいな人生繰り返しを!そのためにはクソみたいな人生を送ってるやつを助けたい!この腐った街をぶっ壊したい!それが俺のパンクや!それが2つ目の夢や!」

あまりの先輩のかっこよさに俺は震え上がった。この人は只者ではない。彼は、どこまでの男になるのかついていつまでも行きたい衝動が胸を駆け巡った。

「わしと組まんか!」

先輩は手をさし伸べた。俺は、その手をギュっと強く握り返した。

「よし、わしとついてくるな!」

「はい!しかし、どうすればいいですか?」

「そうやな、わし思たんや。このまま何もしなかったらどんな大人になるだろう?ってな。きっと捨てた親が憎いだの、いじめられたのが悔しいだの理不尽だの。そんなこと延々と思いながら年を取って、つまらないオッサンになっていくんや。どこかであんときチャンスがあればなぁ。なんてことグチグチ言い続けるようなそんな人間にな。そうおもわんか!?この街におって誰も助けてくれなかったんだから、これからも誰も助けてはくれんとおもわん?」

俺は先輩の力強いまなざしを見つめながら頷いた。

「そうや、わしは気づいたんや!人生は全て自分が決定しなあかんねん。戦うのも自分やし、勝つのも自分、負けるのも自分。そして、普通にやってもダメなら普通って物自体を、ぶっこわせばいい。だれもやらんこと勝負しないこと。俺たちがそれに挑めばええんや!おまえもこのままやったら悔しいやろ?」

「悔しいです?でも具体的には何をすればいいんです?」

「パンクや、わしとパンクバンドやるねん!でな、俺とお前で死ぬほど練習してなゲリラライブやるんよ!市民コンサートのいちばん来客が多い時間帯にな。」

「はぇあ!?」

先輩が感動的な事を言った矢先に不思議な事を言ったのですっとんきょうな声が出てしまった。

「いや、いってる意味がわかりませんが?」

「いいか。よく聞け!この街ことや!おまえが地獄へ落ちて、そしてわしの母親が流れ着いたこの街。四方は山に囲まれ、小便みたいな商店街しかなく、廃墟が立ち並び、町外れの農地の肥溜めを埋め立てたところに立てられた大型ショッピングセンターに老若男女あつまって後生ありがたがってるような、退屈な街。そして公害問題で恨み辛みがあふれ、学校では死神みたいな教師どもが、出来そこないの不良を大量生産している。それがこの街!そうやろ?」

先輩はは上半身をぐいぐい近づけながら俺に力説した。

「そうだと思います!」

俺は全力でうなずいた。

「そこで、わしらが高校生になってこの街を去っていくときにはでかい風穴をあけてやろうってわけ。3分の爆弾を作るんや!?」

「3分の爆弾って?」

「まずな、僕らカーペンターズやります!と言いって市民コンサートに応募するんや。そんで、リハーサルでもひたすらカーペンターズを演奏する。いやー、僕らカーペンターズ死ぬほど好きなんっすよーとか言いながら。多分、おっさんおばはんはカーペンターズを後生有り難く思っとるからカーペンターズやらしてくれるやろう。それが、いざ本番になって、この街がどんだけ腐ってるか歌い上げるんや!実は去年から市民コンサートはネットで生放送がはじまったんやな。そんなん歌ったらネットで大問題になるで。そしたら、今まで隠し通した諸問題が色々な処から爆発して。いろんな人の首がポンポンとんで、小さな街はてんてこまいや!それが風穴!それができるのがパンクロック!そしてわしらは上京する!」

「すごいですね!パンクロック!なんだかわくわくしてきました。」

「せやろ!?すごいやろ!これがパンクロックや!音楽に魔法があるとすれば、破壊をつかさどるのがパンクや!ぶっ壊してやろうや!」

先輩は空に指を天高くさした。その先には白熱灯のヒモががぶら下がっていた。

「ちなみに、他のメンバーは?」

「おらん!」腕を組み渋い顔で左右に首を振った。

「へっ!」俺は当然他のメンバーもいるものだと思っていたから面食らった。

「今は俺とおまえだけけや!これから集めるんや!ちなみに楽器もないで!そんなもん後でいいやろ!大切なのは気持ちや!」

先輩は自分の胸をドンを叩いて「ごふっ」とむせた。

「大丈夫ですか?あの色々と、色々となんですが。」

「大丈夫や!そもそも、お前の最低な日々は昨日までや!わしがきた以上、あれ以上は酷くはならんわ!何も決まってはないけど。まず、バンド名決めようか?てか俺のなかじゃ決まってるんだが言ってももええか?」

「あのまだ、俺、パンクバンドやるって決めてないんですが?」

「うるさい!俺はもうやるって決めたんじゃ!おまえは今きめれ!チャンスは1回や」

先輩は俺の心臓の辺りを指で突いて。俺の胸はよくわからない高鳴りでバクバクしていた、それが先輩に伝わってるんじゃないかと思うほどだった。

「あっ、や、やります!パ、パパッパンク!パンクやってやりましょう!ぶっ壊しましょう!」

腹から自分でもびっくりするぐらい力強い声がでてきた。

「よし、今日から俺とおまえはTheアブラボウズや!」

「あっ。アブラボウズ?」

「そう。アブラボウズは深海に住む気持ち悪い魚じゃ、しかし、食べてみると半端じゃなくうまい!」 

「では、高級食材なんですか?」

「ところがそうじゃないんよ!やつは体中がアブラまみれでギットギト。しかもそれが、工業用のワックスと同じ成分でできてる。うまいからってバクバク食べるとケツから下痢便噴射し。次の日オムツをつけないといけなくなる。」

「つ、まり。それは。」

「そう、わしらは。この街の気持ち悪い存在や、しかし最高の音楽を作ろう!そして、聴いた奴をゲリまみれさせてやるんや!おまえはこの街に!俺は俺の親父に!ぶっこわしてやろうぜ!デストロイ!」

先輩は立ち上がって両手を広げた、彼は英雄、いや救世主かもしれない!

俺は立ち上がって先輩とハイタッチした。

「やってやりましょう。」

「きもち悪い深海魚の生き様みせつけんぞ!」

その日は、あとひたすらパンクロックを聞かされながら。夕飯に食パンを六枚くわされた。パン食う6だそうだ。腹がパンクしそうだった。

気がつくともう真っ暗で8時を過ぎていた。

「そろそろ、お前の親御さんが心配するやろ。今日はここまでや!」

「明日は?」

「それは明日きめようや。まずはメンバー集めやな!心あたりはあるで。」

「わかりました。」

「じゃあな!」

俺は、先輩の家をでて帰り道を進んだ。

動き出した自分の人生にわくわくしてきた。

俺たちは深海魚!気持ち悪いが味は美味い!

その日は自分でもびっくりするほど熟睡できた。

うーん。ドッスン