パンクロックと箱根駅伝 40話

第三集団から、石原、小林兄が徐々に加速し始めると集団は緩やかに縦長になっていった伸びきった餅が弾性を失ってプツリとちぎれるよな形で、第三集団は2つに別れた。石原と小林兄の二人が先行組になり、そこから離せれた白井さんを含む6名が第四集団になった。第四集団のペースでは、29分15秒に届かないが、全員に余裕が無くもがいている。

白井さんがメンバーに選ばれるにはこの集団で3番目までに入らないときっと難しいだろう。

ところが、白井さんの肩が次第に上がってきてから、何度か苦しそうに顎を挙げるのが見えた。白井さんの上体は忙しく左右にぶれてき始めて徐々に集団から離れそうになってきている。いや、離れた!ズルズルと差が開き始めた!と思ったその時。

「白井!!てめぇそれで良いんか!!おめぇココで頑張れなかったら一生後悔すんぞ!!」

普段は大人しい浜さんが急に怒鳴ったので俺はびっくりした!

浜さんは目を血ばらせながら叫ぶ。

「いいのか!てめぇ!今年が最後だろ!この先どんな悔しい事があってもな、今日頑張れない方が何倍も悔しいだろうが!!」

浜さんの激を受けて白井さんのペースが徐々に戻ってきた!

「一生だぞ!この一瞬は、お前の一生の全部だぞ!だったらお前の全部出せよ!!」

白井さんは首を大きく横に振った!

「ああああぁ!!!くっそたれぇ!!」

白井さんは、獣のように叫びながら、全身をハリケーンのようにクネらせて、ガムシャラに一気に加速して再び集団に追いついた。あと、残り2km

白井さんが追いついたのに気が付いた、集団最後尾ので呼吸を荒げている飯島が嫌そうな顔をする。飯島も苦しいのだ。きっとここまでくればみんな苦しいに違いない。もはやこれは、練習ではない。試練なのだ。

次の瞬間、少しペースが上がり、飯島の前を走っていた。年生の望月と高槻の2名がずるっと集団から離れていった。白井さんは歯を食いしばり集団に残る、集団は4人になった。白井さんは、あと1人を抜けば箱根駅伝の可能性が出てくる。

浜さんがボソッとつぶやく。

「先頭の2人はラストスパート用に少しバネ残してるな。」

確かに、先頭を走る、村瀬と安藤は顔こそキツそうだが、白井さんと比べると、まだ動きがよさそうに見える。さっき嫌そうな顔をした飯島も前の2名が脱落したのを確認したからか元気が少し戻ったように見える。

白井さんは、もうラストスパートをする余裕もないだろう。しかし、諦めない。大学生に見えない老け顔をジジイみたいにクシャクシャにさせながら必死にもがいて走り続ける。口回りは粘っとした涎が引っ付いていた。

「白井さん!頑張って下さい!あと1km!そこを右に曲がったらあと1km!」

梶原さんがコース脇に立って必死に応援しているのが見えた!!

白井さんは梶原さんの分まで頑張ろうと力再び振り絞る。しかし、集団がラストスパートでペースアップして白井さんは応援も空しく前の3人から離されてしまった。

浜さんは前を走る選手のタイムを取るために先行したので、俺は白井さんの後ろにそのままついていく。

「くそぉ。はぁ、ヒュー、はぁ。。くそぉ!!うぅゔぁぁ。はぁ、ヒュー、はぁ。ヒュー。」

白井さんは、呻き苦しみながら必死に体を動かす。それは素人の俺でも限界を超えた動きである事がよく分かった。彼は自分の限界を超えて動いている。そう、自分以外の誰かの為に。

なんだろう。俺はもがき苦しむ白井さんの姿に、ステージの上で熱く叫ぶ先輩の姿を重ねた。そう、白井さんのよくわからない、不条理立ち向かって真っ向から挑んで苦しみもがく姿はパンクロックではないか!

俺は気が付いたら大声で応援していた。

「白井さん!!ラストです頑張ってくださーい!!」

マネージャーになってから一度だって心の底から応援したことはなかった。ただ、業務を淡々とこなしていくばかりだった。しかし、俺は今心の底から魂を揺さぶられている。不器用で言葉にできない何かを探し求めて魂を燃やしながら駆け抜ける姿がパンクロックでなくて何なのだろうか!!あんたは卑怯な事に負けちゃいけない!!

白井さんがラストの直線に入る左カーブを曲がった瞬間に前に、前方に1名、追いつけそうな選手が見えた。

あれは誰だ、、?あっ、あれは第二集団で先行していた、大和さんだ。途中で大ブレーキして落ちてきたんだ!

「白井さん!!ラストですよ!!」

白井さんは最後の力を振り絞って必死でついていく、それをに気づいた大和さんも最後の力を振り絞る。ラスト200M、二人ともいつ倒れてもおかしくないほど必死にもがいてゴールに向けて駆けていく。

あと30秒もない、それはあまりな濃密な時間だった。

ゴール地点の先では、伊達監督が腕をガッシリ組んで仁王立ちして選手たちを凝視している。その横ではナメクジがストップウォッチを持ってタイムを読み上げていた。

その、そばでは先にゴールした選手たちがいるのがよく見えてきた。

「29分14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、」

結果は、ほぼ同着だった。

「大和さん、白井さん。29分25秒です。」

白井さんはゴールするとフラフラっと公園と道路の境になっている柵に持たれかかった。

それからまもなく、遅れていた選手もゴールしてきた。

項垂れてる白井さんの所へ浜さんがタオルと給水を持って駆け付けた。白井さんから沸騰したような湯気が立ちあがっている。

「よくやったな、早く汗ふいて着替えろ。ここで風邪ひいいたらだめだからな。」

浜さんが、優しく声をかけるが白井さんは首を振る。

「すまん。はぁ。設定きれなかった。」

浜さんはタオル越しに白井さんとガッシリ肩を組んだ。

「何言ってるんだよ。100点だよ。希望が繋がった。」

うーん。ドッスン