マガジンのカバー画像

おいしいエッセイ

72
おいしいお店を紹介。平野紗季子さんに憧れた“パクリスペクト”な文章たち。
運営しているクリエイター

#フード

圧倒的にうまいポッサムはここ #青松

 個人的に韓国の肉料理と言えばサムギョプサル、ではなくポッサムがまず最初に頭に浮かぶ。韓国で初めて食べて以来、その衝撃を求めて東京を歩き回っていた。  なんとなく、美味しい韓国料理は新大久保ではなくコリアンタウンではない街にポツンとある印象を受け、今までの暫定1位は神田にあるヌナの家だった。  私のポッサムランキングを久々に動かしたのが赤坂にある청솔(青松)。赤坂は韓国総領事館に近く、舌の肥えた要人が多いせいか美味しいお店が多い。すぐそばにある赤坂一龍別館はソルロンタン専

止まらないナンとラッシーのリズム #ザ・タンドール

 大手町と神田の間には明らかな境界線がある。都会の緊張が解けない大手町から、気楽に歩ける神田の街並み。2駅の中間に位置する内神田は飲食店が多く、ふらっと入れるお店も、行列のできる人気店もあるハイブリッドランチタウン。昼休憩を少しずらして、お店も決めず、その瞬間の気分に従って何を食べるか選ぶのも楽しい。  今日はなんとなくインドカレーの店に決めた。昼から匂いの強いカレーを食べるのは気が引けるが、お腹が空いてるのだから仕方ない。そんな一瞬の葛藤を抱えながら入店するも、漂うスパイ

まぐろに強いお店の秘密のネタ #海鮮三崎港

 回転寿司の楽しみがレーンに帰ってきた。タッチパネルと"新幹線"の登場で回っているお皿の需要が減り始め、今ではコロナの影響で外気に触れ続けるレーンを使う人はほとんどいなくなったようなもの。  私がタッチパネルを使う理由は2つ、「鮮度」と「衛生面」。ICチップでの時間管理や、カバーを用いた飛沫対策はよく見るものの、だからといってレーンからお皿を取る気にはならない。  マルハニチロが毎年出している「回転寿司に関する消費者実態調査」でも回転寿司の“新幹線シフト”が表れている。注

深夜のハイカロリーアドレナリン #らーめん雷豚

 深夜11時。夜ごはんを食べ損ねて車を走らせても、街に残るのは黄色のMかオレンジの牛丼チェーンばかり。お腹が空いているので何を食べても美味しいと思うのだろうが、脳ミソよりも先に、身体がハイカロリーを求めている。  深夜に輝くギラギラな看板。深夜の街灯に虫が集まるように、深夜のラーメン屋に人も集まる。  先に届いたセットの小丼は思ったより具が乗っていなかったが、空腹状態に米を流し込めるだけで合格点。ラーメンが届くまでに食べ切ろうと、味わう暇もなくスプーンを動かし続ける。今は

こだわり抜いた素材の純粋無垢なチョコレート #green bean to bar CHOCOLATE

 カカオ豆の選別から丁寧に行う中目黒のbean to barチョコレート専門店。ダークチョコレートだけでなくエクレアやドリンクも用意しているので、チョコレートにあまり興味がない人でも十分楽しめるのも魅力的。  ダークチョコレートは王道のカカオ含有率70%と85%の2種類がメインで、カカオと砂糖のみで構成された純粋な味。2000円前後といい値段がするのは、砂糖もオーガニックシュガーにこだわっているからだろうか。和紙で包装しているのもさりげなくて素敵なポイント。  今回はベネ

ちょっといいパスタランチを食べたくなったら #IL FURLO

 同僚の皆は気付いているのだろうか。大手町にはジェノベーゼを食べられる場所が圧倒的に少ないことを。定期的に通っているリトル小岩井には「醤油ジェノバ」という惜しい名前のパスタがあるが味は程遠く、某イタリアンTのジェノベーゼはあまり評判が良くない。大手町を諦めかけていた私に、神田という選択肢が急上昇してきた。  東京から大手町一帯は巨大な地下通路で繋がっていて、昼になると蟻の巣のように人がビルから降りてくる。それに比べて神田方面には地下道が繋がっていないので、大手町で働く人の選

クラシカルな江戸前の仕事が光る #松野寿司

 半年に1回のペースで通っているお気に入りのお店。普段は握りのおまかせ(5000円前後)だが、今回はつまみから握りまでの一通りを頼んでみた。「おまかせ全部レビュー」は以前に書いているので、今回はクラシカルな江戸前の技術を感じられるネタとつまみをいくつか紹介することにする。  軽く酢で締めているようで、しっかりした質感の身が咀嚼を誘う。脂をしっかりと感じさせながらもしつこくないメリハリのある味わいが、これから始まるコースへの期待を高める。  煮鮑の身と肝を一片ずつ。むちっと

田園風景を思わせる異国焼酎 #DEDESUKE SAIGON KITCHEN

 ベトナムと言えばフォー、フォーと言えばパクチーとばかり考えてしまうが、現地を想像すると一面の田園風景が頭に浮かぶ。広大な緑の中にたたずむ三角の帽子(「ノンラー」と言うらしい)を被った一人の農民、そんなシーンを想起させる米焼酎に出会った。  ルアモイとネップモイはベトナムの米焼酎。うるち米(普通のお米)を使ったルアモイは、クセのほとんどない透き通った味わい。焼酎という響きから感じる重さはなく、軽やかに飲める水の上位互換のような口当たり。  私のお気に入りはもち米を使ったネ

懐かしく、愛おしい味 #登治うどん

 うどんはあまり好きではない。ただ、好き嫌いを超えた味が数年ぶりに私を呼び戻した。これは懐かしの味、高校の部活終わりによく食べていた青春の一部。昔は窓際の座敷で食べていたな、と回想しながら空いているテーブルに座る。  メニューを見渡す。親からの小遣いでやりくりしていたあの頃は一番安い「もり」ばかりを食べていたが、数年経った今はお金を気にせず注文できる。成長した私はちくわ天うどんにランクアップし、更にはミニかき揚げ丼を追加するまでに成長した。  合わせて1000円足らずのか

キッシュで始める朝 #DEAN & DELUCA CAFES 丸の内

 同僚から朝活に誘われ、何も食べずに向かった朝7時の東京駅。待ち合わせのカフェに一足早く着き、ショーケースを眺める。DEAN & DELUCAは食の「美しさ」を中心に据えた"マーケットストア"。パンの香ばしい茶色に玉子の光る黄色、アボカドの爽やかな緑にマフィンの柔らかいオレンジ。早朝から人が集う朝市の活気がショーケースの向こうに。  空っぽのお腹を優しく温めたい気分がアボカドのキッシュを選んだ。奥の台所に覗く大量のフレッシュアボカドが味の想像を膨らませる。ケースのキッシュは

鶏を極めたらこうなる #三歩一

 「ラーメンのことをそばと呼ぶ店は美味しい」。この概念を形成するに至った鶏そばのお店がここ。ラーメン激戦区の高田馬場ではどんなお店を出しても大抵競合他社が存在していて、実際に鶏白湯ラーメンのお店が近くにある。そんな中でも大学時代に食べた味を覚えていたので久しぶりに訪問してみた。  馬場のロータリーから漏れ出る不穏な空気から路地へと逃げ込む。お店はすぐそこ。数年前に来た時よりも年季が入っている気がする。学生時代を過ごした街なので、鼻高々に歴史を語ってしまう。  濃厚鶏そば(

美味しい油そばを考えてみた #油や 大手町ビル店

 学生時代を早稲田で過ごした私の根底には常に油そばが根を張っている。年を取るにつれ身体が油を受け付けなくなったと言いつつ、定期的に食べているのがその証拠。久しぶりに湧き上がる油への欲求を感じたので、職場近くのお店を新規開拓してみる。  大手町のパリッとした空気感から、あの学生街を思い出させるきちっと詰まったタイトな距離感で構成された店内。「丼を上げて下さる貴方は神様です。」は油そば界のお決まり。店の回転率は客の協力あってこそ。  混ぜて、食べて、途中で酢とラー油を混ぜるの

お昼休みのマレーシア気分 #ゼロツー ナシカンダール トーキョー

 少し早いお昼休みを取り、大手町のビルから颯爽と歩き出す。人はまだまばら。イメージ通りの春を体現したような快晴と陽気。足取り軽やかに、今年2月にオープンしたばかりのマレーシア料理へと向かう。    そもそもナシカンダールって何だ?と言えば、ごはんの上にカレーや惣菜を乗せたワンプレート料理らしい。ここは嬉しいビュッフェ形式で、ベースを決めた後に惣菜3種類とカレー2種類を選べる。  ベースをラム(羊)、カレーをダック(鴨)と海老とイカにしたため、動物性たんぱく質を限界まで盛り込