金メダルを齧る

 TVもない、新聞も読まぬ生活をしていても、いい加減ながらラジオやネットはランダムに楽しんでいるから、世の中の大体のことは分かったつもりでいる。近頃は、名古屋の市長がオリンピックの金メダリストが表敬訪問してきた折に、選手から金メダルを首にかけてもらい、報道陣の前でおどけてその金メダルに歯を当てたのが大騒ぎになっているようである。全く平和な世の中である。

 TV全盛時代は、時代劇全盛時代であった。男の子は影響を受けて、棒切れを持って当然のように巷でチャンバラごっこが大流行していた。劇中、やりとりされる小判の真贋を確かめるべく、役者が小判に歯を当てているシーンがよくあった。本物の金貨は柔らかいから歯形が付くのだと周りの大人たちが言っているので、金(キン)の特性を自然と知るのであった。

 表彰で授与される金メダルが、歯形が付くほどの高純度で無いのは勿論のことながら、正夢かしらと自分で真贋を確かめてみたというほどの意味で、ご自分で金メダルの齧りつくのは謙虚で見ていて微笑ましいが、他人が齧りつけば、「君の受賞は本当かね?」と成果を疑う事にもことにもなるから失礼だという意味で、非難されるのならまだしも、表敬された政治家側がおどけて、選手のメダルに軽く嚙みついたことを世間が大騒ぎするなどは、余程に暇な時代だと知れるわけである。

 

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