耳嚢齧書

痳病妙薬の事

 かる石を満願寺などの上酒にひたし、焼き候てまた酒にひたし、再篇致し候得ば粉に成くだけ候を、細末にして呑に甚奇妙なるよし。様したる人の物がたり也。

 著者根岸鎮衛は、江戸時代に奉行などを長年にわたって勤め上げた人で、これからも常識の備わった人物だったと思われる。どの時代であろうと、人間的に欠陥のある人物は、そうそう長くは続かないのである。どう云う訳だか世情に明るい人で、色々な人から話を聞いたようである。これは出自も関係するようであるが、それはまた他日の話題とする。勝海舟なんかもそうだが、御家人株を買い取った、所謂庶民階級からしか人物が出なかったのは歴史の面白い所である。

 さて、『耳袋』に収録される話柄の中には、病気の治療法も多いのだがそのうちの一つ、痳病の治療法。今では、いとも簡単な治療法のある尿道炎だが、昔は難儀したであろうことは容易に想像の付くところである。治療法はいたって眉唾だが、摂州池田の満願寺屋という上酒があったという情報の方が要。

 現代では、池田と言えば「呉春」ばかりが有名だが、地酒ブームに乗って「満願寺」なんかも復刻すればよかろうと思うのだが、権利関係なんかが今でもあって、そんな簡単なものでもないのかも知れない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?