賤妓発明にて加護ある事(1)

 女と男とは不思議なもの。すべては相性で御座いましょう。

 この男、主人の命で大みそかに一日中集金に回って、やれやれ帰って酒の一杯でも飲んでめでたく正月を迎えようと考えておりましたが、どうやら口の方から杯へ向かうと言った根っからの酒好きですから、帰路に赤提灯で一杯だけと熱燗を飲み干します。一杯だけと言いながら一杯だけではすまぬ所は、江戸も令和も変わりはありません。

 人間と言うのは、明日が休みだと思うとどうやら気持ちが緩くなるもんで、その上すっかりほろ酔いで気持ちも大きくなっておりますから、「舟まんじゅう」という川船の中に足を踏み入れます。妓女が川船の中で春を鬻ぐ、いわゆる簡易で下級の売春屋と言うところです。

 帰路はすっかり上機嫌でしたが、流石に勤めるお店近くになりますと、浮かれた顔もしておられませんから、身なりを正して、頬に手を当て酒気が残っていないのを確かめて、さて懐に手をやってから顔がサッと青ざめます。今日一日集金して回ったお金と帳面が一切ないので御座います。

 体中あちこちを押さえたり叩いたりして確かめますが、何処をどうしたって無いものは無いのです。誠に血の気が引くとはこのことで御座いましょう。自分でも情けないことですが、足がわなわなと震え出すので御座います。

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