愛欲の果てに…(その二)

 寺院にもいろいろあって、食うや食わずの逼塞した寺から、方や将軍家の菩提寺ともなるほどの寺で、色々な収入が入ってくる豊かな寺まで色々なのはいつの時代も同じこと。因みに経済的に豊かな寺を、皮肉を込めて肉山と呼ぶようでございます。

 さて、先ほどの寛永寺の坊さんです。冠者を養子に出すのに誂えた着物の出来などは大抵は目利きも付くと言うものですが、こと太刀の出来についてはさっぱり分からんのは無理もありません。そこで、出入りの御徒組の組頭小野寺英明らと言う武士と世間話のついでに身体をにじり寄せて「実はご相談が…」と打ち明けます。

 「実は、養子に出す冠者に持たせる腰の大小を伝手を使って贖いましたが、実のところその値打ちが本当にあるのかいささか疑っております。そこでどうでしょう、あなた様にこの太刀の目利きをしていただきとう存じますのじゃが」

 いとも易いことと小野寺は暫く太刀を鞘から抜いて実検して、「実によい太刀とお見受けしました。お買いになった金額をお聞きしましたが、恥ずかしくないお品と見えました。ただ、太刀と言うのは実際に腰に身に着けて使うものですから、佩いてみた感じも実に肝要です。」「それならば、暫く実際に佩いては頂けませぬか。」という事になって、小野寺が暫く預かるという事になりました。

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