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(6)感傷旅行
東京都八王子市という立地が自分には性に合っていた。クラクションが鳴り止むことなんてない都会でも、コンビニエンスストアが街の中心になっているような田舎でもない、言ってしまうならば中途半端な環境にいる方が楽だった。
もう会うこともない人もいるだろう。後悔はない。最後に皆の顔を一度だけ見たい。顔を見るだけでいい。そのためには、できるだけ早くファッションショーを終わらせて、歩いて二十分弱もかかる成城学園前を発車する唐木田行きの多摩急行に乗り込まなければならない。
大事な人から居なくなってしまうのが人生というものらしい。そんな人生とやらも四分の一くらいは全うできた。卒業するのと卒業はしないとで生活はそう変わらないだろう。また、いつものように沢山の「本当の」自分を演じながら愛想笑いをし続けるだけだ。
果たして、この4年間で感じることのできた気持ちって、何種類くらいあったんだろうか。1460日。モラトリアムにしては長すぎだが、感傷旅行だとすれば問題ないだろう。考えても仕方がないようなことを考え続ける私を置いて、今ごろ皆は退屈な卒業式典に参列しているはずである。今日だけはヤケに似合っているセットアップのスーツを着て。
多摩川が見えてきた。いつもより水面が輝いている、そんな気さえする。
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