衝動

「○○君は夏休みどっか旅行するの?」

1年前の夏、会社の社長にこう訊かれた。
特に予定も組まずにお盆休みを取った僕は「いえ、特にその予定はないですね」と答えた。

「○○君は出不精やな。実家に帰ったりしないの?」

その通りだからぐうの音も出ない。
インドアの自覚もあるし、そもそも昔から人混みが苦手だ。

世間一般の感覚として「休みを取ったら、どこかに出掛けるものだ」という風潮がある気がする。なぜ出掛けなければいけないのか、出掛ける理由がない。ずっと家にいてもまったく苦痛にならない。ずっとそう思っていた。

昨年の12月、名古屋でMERRY ROCK PARADEという音楽フェスがあった。当然ながらフェスなんて行ったことがないし、誘う相手もいない。でも僕がめちゃくちゃ好きなplentyというバンドが出ている。ちょうど仕事が休みの日だ。そのとき僕は「よし、行っちゃえ」と思い、満員電車の中でチケットの予約をし、会社の近くのコンビニで急いで支払いを済ませた。

年が明けて1月。昼休みにtwitterを見ていると、きのこ帝国とandropの対バンライブが名古屋で開催されるという情報が流れてきた。きのこ帝国も僕がめちゃくちゃ好きなバンドだ。ただ、まだライブは見たことがなかった。このときも急いで昼ごはんを食べ、昼休みの時間中にチケットの支払いを済ませた。

plentyが解散するということはnoteにも書いた。当然ながらラストツアーにも参加した。当初は大阪のなんばHatchのみに参加する予定だった。これも以前のnoteに書いたが、ツアーが終わりに向かっていくにつれて「今見ておかないと絶対に後悔する」と思い、急遽福岡まで行くことにした。

以前、母に電話で名古屋や福岡に行った話をすると、「あんたいつからそんな行動的になったん?」と言われた。確かにそうだ。昔から外に出るということに対して億劫に感じる自分がいた。もちろん外に出ることだけが休日の過ごし方ではないし、家でのんびり寛ぐことも有意義な過ごし方だと思う。7月の三連休だって僕はほとんど家にいるだろう。

ただ僕が以前と変わったなあと感じるのは、自分が本当に好きなものに対して躊躇せずに飛び込めるようになったことだ。しかも衝動的に。以前の自分ならそもそもライブに行くことすら二の足を踏んでいた。

なぜ自分が変われたのかを考えたときにやはり仕事の影響が大きいように思う。毎日夜遅くに帰ってきて、風呂に入って寝るだけ。寝るまでのほんの数十分をネットサーフィンに費やす。そんな日々が続き、「生きてる意味あるのかなあ」と感じずにはいられなかった。月並みだけれど、「自分が好きだと思えることには日常のめんどくさいこと、煩わしいことを忘れて没頭しよう」と決意した。

人によっては「何を大袈裟な」と思う人もいるだろうが、自分にとっては大きな一歩だ。しかもその大きな一歩がすべて「ライブを見たい」という感情が動機になっていることが自分でもただただ驚くばかりであるし、高校時代の閉塞感の中にいた僕に教えてあげたい。

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