令和3年度中小企業診断士2次試験 事例Ⅰ 回答例
【要約】
首都圏を拠点とする従業員15 名の印刷・広告制作会社
1960 年に家族経営の印刷会社として創業
1990年より長男が2代目社長
2020年より3代目が事業を承継
創業時は、事務用品メーカーの印刷下請と特殊なビジネスフォームの印刷加工が主な業務
自社で印刷工場と、専門的な技能・技術を持つ印刷職人を持つ
職人手作業による活版印刷
製版から印刷、加工まで、社内外の職人による分業体制
1970年代からオフセット印刷機が普及
専門化された複数の工程を社内外の職人で分業する体制が崩壊
印刷職人の手作業によって行われてきた工程が大幅に省略化
大量・安価な印刷が可能
2000年頃より情報通信技術の進化で印刷のデジタル化が加速
オンデマンド機が普及し、オフィスや広告需要の多くがより安価な小ロット印刷のサービスに置き換わった。
とりわけ一般的な事務用印刷の分野で技術革新によって高度な専門的技術や知識が不要
印刷業ではない他分野からの新規参入が容易になり、さらに印刷単価が低下
こうした一連の技術革新に伴う経営環境の変化の中、多くの印刷会社が新しい印刷機を導入
対してA社は、2代目が社長に就任し、保有していた印刷機、印刷工場を順次売却、印刷機を持たない事業へと転換
制作物のデザイン、製版、印刷、製本までの工程を一括受注
製版や印刷工程を専門特化された協力企業に依頼
外部にサプライチェーンのネットワークを構築
顧客の細かいニーズに対応できるような分業体制に注力
A社で印刷仕様を決定
各印刷工程において協力企業を手配して指示することが主な業務
当時、新技術に置き換わりつつあった事務用印刷などの事業を大幅縮小
多工程にわたり高品質、高精度な印刷を必要とする美術印刷の分野にのみ需要を絞る
高度で手間のかかる小ロットの印刷、出版における事業を幅広く展開
その結果、イベントや展示の紙媒体の印刷物、見本や写真、図録、画集、アルバムなど
高精度な仕上がりが求められる分野の需要を獲得
1990年代から行われた事業転換で長期にわたって組織内部のあり方も大きく変えた。
印刷機を社内で保有していた時は、製版を専門とする職人を抱えていた
定年を迎えるごとに版下制作工程、印刷工程を縮小し、それらの工程は協力企業に依頼
そして、図案の作成と顧客との接点となるコンサルティングの工程のみを社内に残した。
顧客と版下職人、印刷工場を仲介し、印刷の段取りを決定して協力企業に対して指示
各工程間の調整を専門に行うディレクション業務へと特化
他方で2000年代に入ると、同社はデザインと印刷コンテンツのデジタル化に経営資源を投入
とりわけ高精細画像のデータ化においてプログラミングの専門知識を持つ人材を採用
社内では、複数の事業案件に対してそれぞれプロジェクトチームを編成して対応
アートディレクターがプロジェクトを統括して事業の進捗を管理
外部の協力企業を束ねる形で、制作工程を調整しディレクションする体制
広告代理店に勤務していた3代目が入社
2代目は図案制作の工程を版下制作から独立
新たにデザイン部門を社内に発足させ、3代目が部門を統括
3代目は、前職でデザイナー、アーティストとの共同プロジェクトに参画していた人脈によりウェブデザイナーを2名採用
こうした社内の人材の変化を受けて、紙媒体に依存しない分野にも事業を広げた
ウェブ制作、コンテンツ制作を通じて、地域内の中小企業が大半を占める既存の顧客に向けた広告制作へと 業務を拡大
しかし、新たな事業の案件を獲得は難しい
新事業を既存の顧客に訴求するために新規の需要創造が必要
中小企業向け広告制作の分野では既に数多くの競合他社があり、非常に厳しい競争環境
新規市場開拓の営業に資源を投入も難しく
印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労
新規のデザイン部門と既存の印刷部門はともに、サプライチェーンの管理を担当
デザインの一部と、製版、印刷、加工に至る全ての工程におけるオペレーションは外部に依存
必要に応じて外部のフォトグラファーやイラストレーター、 コピーライター、製版業者、印刷職人との協力関係を構築
事業案件に合わせてプロジェクトチームが社内に形成
2代目経営者の事業変革によって、印刷部門5名とデザイン部門10名の2部門体制
正社員は15名のまま
3代目は特に営業活動を行わない
主に初代、2代目の経営者が開拓した地場的な市場を引き継ぐ
既存顧客からの紹介や口コミを通じて新たな顧客を取り込んできた
売り上げにおいて目立った回復のないまま現在に至る。
第1問(配点 20 点) 2代目経営者は、なぜ印刷工場を持たないファブレス化を行ったと考えられるか、 100 字以内で述べよ。
第1問 回答例
ここから先は
¥ 1,000
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?