(R6・予備) 経済法再現答案
第1 設問(1)
1.X社が、特定の店舗販売業者に対してのみ、協力金の提供を行った行為は、取引条件等の差別取扱い(一般指定4項)に該当し、独占禁止法(以下、「独禁法」という)に違反するか(独禁法2条9項6号イ、19条)。
2.(1)X社は、福祉用具を製造・販売する「事業者」(独禁法2条1項)にあたる。
(2)そして、X社は、X社が指示する方法・内容に基づく販売教育を実施して、来店した消費者にX社製甲製品を適切に説明販売を行った店舗販売事業者に対してのみ、協力金の提供を行っている。当該行為は、X社とX社製甲製品の販売事業者間の契約の「実施ついて」、上記店舗販売事業者に対してのみ、「有利」な「取扱い」を行っているといえる(一般指定4項)。
3.(1)「不当に」とは公正競争阻害性(独禁法2条9項6号柱書)をいう。取引条件等の差別取扱いの公正競争阻害性は、競争排除による自由競争減殺をいい、市場閉鎖効果が生じる場合に肯定される。そして、市場閉鎖効果の有無は、新規参入が困難になるおそれや、取引機会の減少を通じて既存の競争者が排除されるおそれが生じるか否かで決する。
そして、市場閉鎖効果が生じるか否かを検討するための範囲として分析市場を画定する。市場画定は、取引の対象・地域・態様などに応じて、基本的に需要者にとっての代替性の観点から判断する。
(2)甲製品に代替する福祉用具は想定されないため、商品範囲は甲商品と画定される。また、甲商品は、実店舗及びインターネットを通じて、国内で取引されているため、地理的範囲は日本国内と画定される。そして、X社の上記行為は、甲製品の販売業者に対する甲製品の製造販売市場を対象とするものであるが、当該行為により影響を受ける市場は、甲製品の消費者向け販売市場である。
以上より、分析市場は、国内における甲製品の消費者向け販売市場と画定される。
(3)X社は、上記の条件を備えた店舗販売業者に対してのみ協力金の提供を行っており、それ以外の店舗販売業者及びネット販売業者は協力金の提供を受けていない。しかし、X社が提供する協力金は、販売業者が説明販売を行った場合に要する実費相当費用を補填するものである。また、X社製甲製品の卸売価格の約5%に過ぎず、協力金を提供した販売事業者の事業活動をことさら有利にするものではない。したがって、協力金の提供を受けない販売事業者の活動を困難にするものでもなく、既存の競争者が排除されるおそれは生じない。しがって、市場閉鎖効果は生じない。
(4)以上から、X社の上記行為に公正競争阻害性は認められない。
4.(1)形式的に不公正な取引方法の行為要件に該当する行為であっても、目的が正当で、かつ手段が相当といえる場合には、正当化事由が認められる。
(2)X社は、X社製甲製品の販売額が近年伸び悩んでいる理由を、店舗販売業者の販売員が適切な説明をできておらず、当該商品の機能の特徴を十分訴求できていない点にあると考えている。そして、説明販売を行う販売業者に協力金を提供することで、当該商品の競争力を促進させることは、目的が正当といえる。また、実費相当費用の補填にとどまっており、手段も相当といえる。
(3)したがって、正当化理由も認められる。
5.以上より、X社の上記行為は、独禁法に違反するものではない。
第2 設問(2)
1.X社が、X社製甲製品の「小売定価」を定めて、すべての販売業者に当該価格で販売するよう求めた行為について、再販売価格の拘束(独禁法2条9項4号)に該当し、独禁法に違反しないか(独禁法19条)。
2.(1)X社は、X社製甲製品(「自己の供給する商品」)を購入するすべての販売事業者(「相手方」)に対して、X社が定めた「小売定価」(「販売価格」)で販売する条件を付けている。
(2)「拘束する」とは、取引条件が契約等による法的な義務と定められていることまでは要せず、経済上の不利益によって取引条件に従うことが余儀なくされていることで足りる。
X社製甲製品は消費者から高い評価を得ており、甲製品の販売業者にとって、X社甲製品を取り扱うことは、営業上不可欠となっている。そして、X社は、すべての販売業者に対し、「小売定価」どおりに販売しない場合は、X社甲製品の出荷を停止する旨を通知しており、販売業者は、販売停止を回避するため、「小売定価」での販売を余儀なくされている。したがって、「拘束する」に該当する。
3.(1)「正当な理由がないのに」とは、公正競争阻害性をいう。再販売価格の拘束の公正競争阻害性は、競争回避による自由競争減殺をいい、価格維持効果が生じる場合に肯定される。もっとも、再販売価格の拘束は、重要な競争手段である販売価格の決定の自由を奪うものであり、ブランド内競争を直接に減殺する反競争的な行為であるため、原則、違法である。
(2)もっとも、ブランド間競争が維持される場合は、市場を画定して、価格維持効果があるか否かによって、公正競争阻害性を判断する。そして、価格維持効果は、違反行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し得る状態が生じるおそれがある場合をいう。
X社の行為によって、消費者向けのX社製甲製品の販売価格について、すべての販売業者間で価格競争は消滅するものの、甲製品のブランド間競争は依然として残る。そこで、第1と同様、国内における甲製品の消費者向け販売市場を検討市場として、価格維持効果の有無を検討する。
(3)甲製品に占めるX社製甲製品の国内販売シェアは、総販売額ベースで約35%であり、国内1位である。甲製品の他のメーカーのシェアは約65%あり、X社製甲製品の販売価格が統一されても、他社製甲製品の価格設定や甲製品の価格競争に直ちに影響がないとも思える。しかし、X社製甲製品を取り扱うことが甲製品の販売事業者にとって営業上不可欠であり、すべての販売業者は「小売定価」で販売するようになった。そして、販売事業者は、X社製以外の甲製品については自由に価格を決定できるのであるから、他社製品に価格を転嫁することも可能である。さらに、仮に、店舗販売業者よりも安価に販売できるネット販売業者のすべてがX社製甲製品の取扱いをやめたとしても、甲製品の販売経路の約8割を占める店舗販売業者は、説明販売を実施してX社製甲製品の機能性を訴求できる強みを有するため、X社製製品を「小売定価」で販売することを選択すると考えられる。したがって、甲製品の販売事業者の意思で甲製品の価格をある程度自由に左右し得る状態が生じるおそれがあるといえる。
(4)以上から、X社の上記行為に公正競争阻害性は認められる。
4.X社の行為は、ネット販売業者への顧客流出を阻止する目的にあり、正当ではなく、かつ、手段も相当といえないため、正当化理由はない。
5.以上より、X社の行為は独禁法上違法である。
※約3.5枚、70分
(コメント)
・昨年度と比較して取り組みやすかったが、書くことが多く、時間がいっぱいいっぱいであった。
・最初、設問(2)の「X社の令和 6年9月1日以降の行為について、」を見落としており、大事故をやらかすところだった。
・そのため、ブランド間競争を思いつく前は、設問(2)は書くことが少なく、サブ的に取引拒絶でも書こうかと思っていたため、閃いたときは、しょっぱなの公法系のやらかしを帳消しにできるかも、とアドレナリンが大放出した。
・設問(1)の行為類型は、取引条件等の差別取扱いでよいと考えているが、再現答案では割と少数派で予備校の答案例もないため、やや心細い。
自己評価:A〜B
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