「名売人」第一話

第一話「舞い飛んだ天使」


ここは、歌舞伎町。
歓楽街とも言うらしい。
午前4時は始発を待っているのか何なのかよく分からないうらぶれた者達が時に一人で時にホストまがいが女を連れていたり目的を失って中途半端な空白の空間を共有する白けた幻想がウロついてる時間だ。
俺も何だか怪しい玩具を売ってる店の前でしゃがんで膝に片腕ずつ前方にダラーンと乗せたまま空を仰いでいた。
カラスが半透明の袋を啄んでいる。
興味のないもの同士共有しているのかしていないのか、「お前を飼ってやろうか?」なんて考えて薄ら笑いを浮かべてる俺はホームレスも同然と見られているのかそれが真実なのかカラスだけが知っているのかヤツはいつも全力で生きている。


「そういうガッツが欲しいよ」

呟くだけ虚しい言葉を吐いて相変わらずしゃがんでいると目の前を通り過ぎる黒服の男が俺の手元にぽーいと5百円玉を投げてついでに嘲笑も投げてきた。


「アタシと寝たいなら桁が4つ足らないわよ」


俺はオネエではないがそんな事この黒服にも興味はないだろうが受け止めない意を表した。


「一晩終わってるよ(笑)」


即答された。


「俺はまだ終わってない」

そう言いたかったがMCバトルなら既にクリティカルで俺が負けている。
お互いの位置的に元々圧倒的に差がついてるだろう。
生活力ってヤツか。

500円が生活の足しにされた。

若いというには甚だ勿体無い時間を浪費してきた。
夢を売る商売という意味では如何にもお似合いのこの街はそれ故俺には不似合いなのだなと思いながら傍から負けた馬券のような細切れの紙を取り出した。

馬券というには不似合いな分量のゴミだった。


それでも500円にも足りない。



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「君さあ、小説とか書いてないで将来設計描いた方が良くない?」


返答に困ったが困り慣れてる人生を振り返るのが悔しいのももう慣れたが正か目の前でそれをびりびりと破られるなんてドラマかなんかでしか見た事がなかったが現実は小説よりも奇なりという言葉を心の中で繰り返して冷静さを保とうとした。

それを見越したかの様にその巨像は間隔1ミリの距離まで顔面を寄せて言った。


「夢が欲しいなら他を当たりな」


これがプロ野球の日本シリーズの優勝パーティならビールかけが最高の演出をする様な紙吹雪が舞った。


俺は持ち込みの小説を執筆に喘いでいる小説家志望。
いや、自称の小説家志望。
いつか、夢を沢山の人に売る事を夢描いて結局駄作を連ねるのは世間のジャッジのせいだから世界を変える為に革命的な物を書いたのに目の前の木偶の坊、いや陶芸作品には分かるわけもない。

分かって貰おうとも思わない。


そういう言い訳の始末書を見るのもコイツの仕事だろうと、それがつまり俺の自己嫌悪でもありうだつが上がらない所為だと知ってれば済むのなら俺は今頃商社にでも勤めてるのだろう。
いや、掃除夫か。

ワイフが欲しい。


駄目だ俺。




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カラスがゴミの中から夢を見付けたかの様な歓心の声で鳴いた。

「その夢を俺に売ってくれ」

俺はカラスに今俺の物になってたらしい銀色の玉を投げて追っ払った。

「お先に行くよ」と言わんばかりに華やかに飛び立って行くカラスを見上げる俺の心はとても羽ばたかなった。


「帰るか」


どこに帰るんだろうな。

俺は25年間の年功行事の様にトボトボと歩き出した。

始発はとうに終点に着くくらいの時間が過ぎてるのが如何にも俺の人生を表してる現実から目を背けるかの様にどこまでもどこまでも歩くかの様に結局は戻るアパートであろう現実も、もううんざりだった。


ガタゴト言う列車の色がカラスみたいに真っ黒になっちまえばいいのに、
なんて夢を描くのが上手な自分が殆いやになった。


列車はとうに目的地を過ぎていた。


車掌が何て言ってんのかも分からねえ。



「…?歌舞伎町?」



どういう事だ。



俺の顔は寧ろ真っ青だった。




「御機嫌よう。レディース?いや、ジェントルマン」




ニコリとする、そいつは真っ白な列車その物だった。




そうだ。

俺はずっと止まったままだった列車の中に居た。



「お忘れ物だよ?」


「あ…ありがとう…」



俺は訳も分からず500円玉を受け取り、降りたくても降りれない電車の中で下着に粗相をしていた。



一体何の冗談か、それともゲームの世界か。



その白いカラスはずっとこの列車を引き止めてたのかどこから何が起きていたのか訳が分からないが眠りに落ちそうになっていた自分を恨んだ。

急に景色が歪んで俺は落ちていた。



この先、何が起きるかも分からずに。




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