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日本海でまた会いましょう。

「灰色に濁った海、代わり映えしないな。」

この町には一際目立ったものがない。というか何もない町だ。昔何か注目を集めた名残が今の腐った街並みの基盤を担っている。平日の朝には大都市が若者を吸い取って、日が暮れると駅から何者でもないカスが町いっぱいにそまる。ベットタウンというよりもシンクの生ゴミ入れって言ったほうが正しい。それが母の実家だ。
私は正月になるといつも防波堤にきて、海と空を見る。ごま色のパンの間に蛍光イエロウのマーマレードが入っているような風景に生意気にも風流だなと思う。周りには2、3 釣り人と海猫の糞、そして小骨が落ちている。赤いダウンにミニスカ姿でくるには厳しいぐらいの寒さが出た肌と切り立ての髪を掻いて通り過ぎていく。
風呂から上がり、借りた布団の上に寝そべって空を見た。昼間の空とは違って晴天で月がよく見える。窓型の薄青色のかみが薄くのってきてもあまり気にならない。ボッーっと意識を飛ばす。空がだんだん近く、近く 水面が鼻頭に当たった瞬間、フッと思い出した。祖父のことだ。
祖父は若くして死んだ。死因は溺死。その日、趣味のダイビングに出かけた祖父がどんな会話したり、どんな行動をとったかは想像もつかないし、祖母も海の中でシャコガイに挟まれたんだよ多分という曖昧なことばかりだ。唯一正しい事実は見つけた瞬間、ぷかぷかと浮かんだ物体が祖父、ようはドザエモンだったいうことだけだ。それだけ。

次の日、朝防波堤に行くとぷかぷかと浮かぶものを見つけた。大きさは人ぐらいで死体っぽい。それはなぜか皺皺していてそのシワが人の顔のようだった。波に押されて近づいてくるとだんだん正体がわかった。ただのブイ。ブイだ。私は愕然とした。何か始まるんじゃないかと思って期待していた。私の悲鳴から淀んだ海が幾分か魅力的に感じられるようになる。正月スペ2時間サスペンスぐらいには広がると思っていた自分がただ小さく見えた。ブイはつゆ知らず居なくなって、荒れた海が私の前でウゴウウゴウとうねっている。風が昨日のように吹いてチラシが顔に勢いよく当たった。鈍い痛さに懐かしさを覚えた。

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