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嚥下

果物が熟れていく様は男のオナニーのようだ。
初めは磨くと光ったリンゴがしばらくすると二度と同じようには光ってくれない。傷ついたバナナの皮は燃えて消えていく紙のように黒くなってしまう。年老いて枯れ死んでいく老婆のようにみかんの皮は柔く、不安な触り心地に変わっていることに嫌悪感を抱くことは冬の恒例行事だ。
今朝、朝食に並んだおかずの中にはソーセージが2つ添えられていた。私はそれをいつものように迷わず口に運ぶ。そして飲み込む。そのまま食事は終わりを迎え、最後にフルーツ入りのヨーグルトを食べた。幼少の頃から母にこれを毎日の必食とされて生きていたので、こうして一人朝食を作るとどうしても作らなくてはと強い義務感に駆り立てられてしまい、気づくと机に並んでいる。実に気味が悪く、不機嫌の始まりは決まってこれだ。白い泥をどかすと少し黄ばんだリンゴのカケラがあった。それをスプーンで泥と一緒にすくい、口に入れる。噛んだ瞬間にりんごはただのスポンジになる。噛めば噛むほどにその繊維の中には空気しか入っておらず、仙人の食事の擬似体験をしているかのようだ。それを細かく砕いて腹におさめる終わった時には実に苦い思いであった。
少し横になり、すぐに腹から何か大きなものが出てくるのを感じた。胃液の中からとてつもなく大きなものが、破裂するかのように飛び出してくる。白いラードに似たような物体が喉仏を這い上がり、舌を掴んだとき、体のうちに死んだ豚の匂いが広がり同時にフォアグラのような下の刻み込むかのような感触が広がった。私はきっと青白い顔をしていたに違いない。走り込んだトイレで勢いよく蓋を開けた。体には男の性衝動、動物本能に近い海が広がり、その中に海綿のようなものがお盆終わりのクラゲのように漂っている。もうあふれんばかりになったものが出よう、出ようとするのに対し、何故か食べ物を粗末にはできない精神が引き留めた。便器に溜まった水をしばらく見つめていると吐き気は収まり、終わったことに安堵し蓋を閉めた便座の蓋に体を垂らした。
この時から二度と某ソーセージと水気のないリンゴ食べないと決めた。そして一層熟れたくだものを嫌うことになったのは言わず他ない。


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