文章デッサン(3)
ここに1枚の写真がある。
9個の石が積み上げられ、1つの塔になっている。それぞれの石が1mmでもズレれば崩れ落ちてしまいそうだ。石の大きさ、形状、全てがこの塔のために存在していたかのようだ。
9個ある石のうち、下から数えて2個は”土台”の役割をしている。台形で、横に大きく、平たい石だ。大人が鷲掴みしてギリギリ掴めるくらいのサイズである。上に積む石のバランスがとりやすいように、地面に対してほぼ水平に置かれている。
3番目は一旦飛ばし、4個目の石はこの塔のメインともいえる石だ。塔に使われている石の中で1番大きく、角の取れた二等辺三角形の石だ。1辺が土台の石の上に乗っている。三角形の中で1番角度の小さな部分が塔の上を向いている。石の表面をよく見ると、人が叫んでいるようにも見える凹みがある。目と鼻と口がぼんやりと浮かび上がっていて、少し気味が悪い。
(下から数えて)5番目と6番目の石は、土台に比べると、とても小さく、カントリーマアムくらいの大きさだ。メインである4番目の石との接地面積が極端に小さいため、見ているだけで「今にも崩れるのではないか」と心配になる。4番目までは面で置かれていたが、この2つは点で支えている。吐息がかかっただけで崩れ落ちそうだ。
7番目と8番目の石は、大きさは5,6番目と変わらないが、少し安定を取り戻している。フルマラソンの選手が、折り返し地点でペースを落としたものの、ゴール付近で最後の力を振り絞り、ゴールテープのある競技場に戻ってきた時のようだ。
そして、頂上である9番目。10円玉くらいのサイズで、パッと見ただけでは気付かないかもしれない。無くても成立するけど、あるのと無いのとでは大違いだ。寿司でいうワサビのような。
忘れてはいけないのが、3番めの石だ。土台の石とメインの石の僅かな隙間を、この石が埋めている。頂上の石と同じく、パッと見ただけでは気付かないくらいのサイズだが、この石なしでは塔自体が成立しない。そう断言できるほど、重要な石だ。これこそ、縁の下の力持ちだ。
―塔の周りは、青々とした木々たちが生い茂っている。太陽の光が木々を照らしているが、そこだけを避けたかのように、石の塔はちょうど影の中にある。
近くに川があるのだろう。地面には大量の石が散りばめられており、多くの人が石の塔を作ろうとした形跡も残っている。ただ、目立つものはない。如何にこの石の塔を作るのが困難であるかを分からせてくれる。
きっと、今この場所に行っても、同じものは絶対に残っていない。
この日、この場所でしか撮れない、奇跡の写真だ。
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ちなみにこれは、いつかの宮崎旅行の時に天安河原にて撮影。パワースポットで撮っただけあって、写真からもパワーを感じる。
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