はじめての部屋探し
東京に来ている。
今まではどこか他所者気分だった。そもそも目的が買い物だったり、学校に通うためだったりと、「帰ること」前提だったのだ。
人混みの中を歩いていても、視界に入る人達を「これが東京の人かー」と、口をぽかんと開けながら見ていた。
でも、今回は違う。
来月に控えた転職のため物件探しに来ているのだ。
僕も来月からは、すれ違っていく人達の中の1人になる。そう考えると、複雑な気持ちになった。ずっと憧れていた東京に住めるという嬉しさもあるけど、本当に来ることになっちゃったよ、、本当に大丈夫なのか……という怖さもある。最終的には「お前が決めたことなのに今更ビビんなよ」という気持ちに辿り着くのが自分らしくて笑える。
でも、やっぱり楽しみだ。自分が憧れていた場所で、どこまで通用するのか、どんな壁にぶつかって、それをどう乗り越えるのか。自分のことなのに、他人のことみたいに楽しみでいる。不思議な気持ちだ。
そんな気持ちで不動産屋に向かった。
「どのような物件が宜しいですか?」
「家賃7万以内で、風呂トイレ別で、駅から徒歩15分以内で、ロフト付きの物件がいいです!」
「かしこまりました」
カタカタとパソコンに向かう店員さん。数分後、席を立ち、コピー機から数枚の紙を取り出し、僕に渡す。
「お客さまのご希望される条件ですと、このような物件がございます」
それから30分くらいだろうか。長い間悩んで決められずにいるとその店員さんは次々に物件を紹介してくれた。
「少々予算はオーバーしますが、こちらの物件は駅近で築年数も浅くて……」
「こちらは駅からは遠いですけど、部屋も広いし家賃も若干お安くなってます」
「ただ、どちらもロフトは無いんですけど……」
どちらも魅力的だけど、イマイチピンと来ない。
「やっぱ、ロフト欲しいっす」
「承知しました」
それからまた30分程度、店員さんの提案と僕の検討が続き、入店から1時間半程度が経った。
「よし! この3件の内見お願いします!」
「承知しました!」
結局、十数件の案から3件に絞り、内見に行くことに決めた。
1軒目は駅から徒歩15分の物件。築年数は20年程度だけど、外観は綺麗だ。1階にある部屋で6畳の部屋と4畳のロフト。それに広めのテラスまで付いている。
2軒目は駅から5分。それ以外は1軒目と同等の部屋。それなのに家賃は5000円ほど安い。僕の中では第一候補だった。けど、到着前に、
「お客さま。この物件なんですが、いわゆる事故物件でして……」
「事故物件って……」
詳細を聞き、部屋に入る前から候補から外した。
そして最後の3軒目。駅から徒歩5分。2畳程度のロフトに、4畳程度の部屋。それに築年数は1年。魅力的だと思っていたが、実際に見ると想像以上の狭さだった。
こうして内見を終えた。
3軒とも僕の提示した希望はクリアしている。けど、2軒目は無し。
残ったのは2軒。
駅から少し遠いけど広めの部屋か、駅から近くて狭い部屋。
迷う……簡単には決められない……。
結局、今日は決断できずに保留することにした。
でも、東京に滞在予定の今週中に決断しなければならない。
また明日ゆっくりと考えよう。今日は部屋の中しか見てないけど、周辺を散歩してみるのもいいかもしれない。来月から住むことを想像しながら。
***
物件探しに疲れた後、バトンズの学校の同期と居酒屋で飲んだ。
東京に友達(仲間?)が居るのって、幸せだ。疲れてたけど、ホッピー飲んで笑ってたら、元気になった。
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