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XIV. ローズアブソリュートの女性性

香水に調香される前の原料ローズアブソリュートは
ローズを想起できないほどの濃厚さで
その重さを受け入れ扱えるようになるまでに時間を要した

重量感をもって揺れるシルクタフタのように
掴もうとすると反発して手の内に収まらない
力を加えれば予期しないところに撓みが生じ取り扱いがままならない
女性性を意味するところの香り

つよい女性は静かなものである
それは男性の強さと異なり、決して戦うことをしない
何をも威圧はしないし、攻撃することもない
絶対的な安心感と包容力を惜しみなく外へ向け
周囲から持ち込まれる不安すら吸収して解消しまう
輝きを伴う美しさが溢れ、零れている
その女性性の光に皆が惹きつけられる

何をも恐れていない
何があろうとも、失われることのない自分の感覚を知っているから
目に見え手に触れるものが減ろうとも増えようとも、気にも留めない

不可能を恐れない
未知を恐れない
それは母性のつよさ 
今この一瞬が何より尊いことを知っているつよさ

昨日は今に影を落とさない
光は今だけを照らし、明日がどの方向に向くかは問題にしない
自分の感覚で感じられる今だけが世界
それを知っている人の煌めき 
感覚が開いている人の豊かさ

調香香水は、感覚を今に向けるよう嗅覚を手掛かりに促す
感覚が実際に捉えたものではない物事は、自分の中で創り出した実体のない幻想であることを教えてくれる


黒い影は音もなく近づき、背から入り込もうとする
過去を向けば自分の闇
湧き出す後悔、怨み、怒り、残してきたものへの執着


今この身体が感じられることの尊さを知れば、それらは霧消する
香りを感じながらの深い呼吸が闇を消していく

ローズアブソリュートのちから


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