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138億年の時間の中で☆第15話☆ 「ホントはみんな、働きたい」             

長男が「働きたいんだ!」なんて言い出したのは去年の冬休み直前。

洗濯物干しやゴミ出しなんかは頼んでもいないのに自主的に、でも気まぐれに、それまでもしてくれていました。大人のマネをするのが楽しいんだなと思っていましたが、この時はどうやら、外で働きたいと言っている様子。おおっ!こんな日が来るなんて!と感動したはいいものの、一体どこで働けるんだろう?普通ならコンビニやファストフード店でアルバイトもできる年齢にはなっているけれど・・・と、彼はいつだって能天気に私に問いを投げかけてくれます。

 

働くことについて考えると、父の伯母だったおばあちゃんを思い出すします(生きていたら110歳くらい)。生前、会ったのは数回ほどだったけど、腰が90度に曲がっていて、亡くなる直前まで自宅の畑で作物の世話をしていたと聞きました。父も、まるで息をするように働くような人ですが、父はおばあちゃんから仕事とはどんなものか教わったなんて言ってました。

おばあちゃんは、誰かに雇われて、求められた仕事をこなし、賃金を受け取るという形態の仕事はしたことはないと聞いています。

 日中は農業に励み、子育てをして、夜は衣類や生活雑貨の製作に取り組み、保存食をつくり、明日への準備をしていたのかなあ、と想像しています。

 雇用契約を結んだことはなく、納税者になったことは無いけれど、間違いなく、それは働く姿。文字通り「食っていく為」の労働。

 しかし、都市部育ちの私は随分と長らく、働くとは「誰かに雇われて、求められるタスクをこなし、賃金を受け取る」ことという感覚がぬぐえませんでした。まして、主婦業は価値が低い(本当は驚くほど能力も体力も必要なんだけど)という認識が当たり前になっている世代。女性だからって働かなくていいなんて、既に過去の価値観となっていました。

その価値観は、雇用される為にどんなに努力しても家庭事情を整えることができない自分をたいそう苦しめましたし、息子の障がいに対しての不安を増幅させていました。

 

お金を稼ぐ。それ以外に労働の意義があるのだとしたら。

 

保育園の待機児童数が問題になっていた頃、入所まで2年はかかると言われて、がっくりと肩を落としながら息子を抱えて帰宅した日。あの時、私は何を求めていたんだろう。

お金はとりあえずは困っていないから、本当に必要な人の為に保育園枠は譲るべき?集団を見ると号泣するこの子を保育園に入れて後悔しない?それとも発達が遅いからこそ集団生活させるべき?パートでもいいから働きたいのは何の為?稼いだお金が多ければ私は自信が持てるの?介護はどうする?我が家はいつだって予測できないトラブルが頻発するし、対応できるのは私と夫しかいないのに、責任もって仕事ができる?子ども達を誰に預けるの?信用できる人は誰?女性でも働けって言われても、ウチのような事情はどうすればいいの?そもそも、ウチのようなケースは問われる遡上にもあがっていないんじゃ・・・。なんだか、すごく惨め・・・。

 

 この頃の息苦しさは、10年以上経過した今でも思い出すと、涙がにじんできますが、家庭の状況が少し落ち着いた今なら分かる気がします。

おばあちゃんは作った作物で家族を食べさせ、余った分は人に分けて、父に仕事を教えて、村の行事に参加し、労働を通して人と繋がっていたんだなあ。

私も、チームワークの中で、大したことない能力をつかって、誰かの役にたって、人と繋がりたかったんだなあ。

お金に困ったと事がない私の方がお金に執着していたという、なんと恥知らずなんろう。

納税も大切。自立するだけのお金を自分で稼ぐことも大切。

でも、どうしたってそれが難しい事情もある。

その事情は多くの場合、語られることがないから、知らない人が多いだけ。

 

長男が「働きたい」と言ったように、本当はみんな、働いて、誰かに喜んでもらいたいし、人の輪の中で自分の存在意義を感じたいのだと思います。

雇用や賃金の額と働く意義。あるいは雇用されない生き方だったとしても、両方のバランスが取れれば幸せなんじゃないかな、と長男が教えてくれました。

長男は、次の日、理解ある友人が運営する親子カフェでドリンクオーダーを受けたり、お皿洗いに取り組みました(友人はわざわざ彼が出来そうな仕事を残しておいてくれました)。また次の日は、次男の学校の大掃除お手伝いを頑張りました。みんなに、「来てくれてありがとう」と言ってもらって、恥ずかしそうにはにかむ長男のなんと愛しいこと。

賃金はもらえないけど、彼なりに身体を動かし、頭を使って、誰かに「ありがとう」と言ってもらえた喜び。

これは、彼が将来、働くことへの希望と意欲につながると思っています。

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