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夕陽が太平洋に沈むとき

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2023年7月発投稿 最初の連載小説
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#夜の海

夕陽が太平洋に沈む時 【第9話】

 夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】  10年前に自分がコニーに向かって唐突に切り出したその一言が、その朝、一晩を一緒に過ごしただけの男の口から発せられていた。  麻衣は、コニーに求婚した時、彼に関しては何の知識も無かった。しかし、あの時は彼が運命の男だと信じ込んでいた。彼しか目に入らなかったのだ。自制が効かないほど彼に触れたかった。  今の剛史の心境は、あの時の私と同じなのだろうか。  剛史は冷静沈着を維持したまま麻衣を見つめていた。麻衣の返事を不安そうに待っている、

夕陽が太平洋に沈む時 【第7話】

夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】 「いいわ、どんな分野だって初めての時がある。とりあえず原文に忠実に訳して、特許特有の言い回しはあとで直してもらえばいい」    麻衣は翻訳を始めた。  しかし特許明細の翻訳はそう単純にはいかなかった。何回読んでも何通りにも取れるような文章が多かった。それでもようやく1枚目の翻訳を終えた時、PCの時計は午後8時を示していた。  外資系企業であることもあり、クリスマスイブのその晩には、家族のある社員、あるいは若い女性はすでに退社していた。苦

夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】

  本文  日中は、クリスタルの欠片を散りばめたかのごとく輝いている太平洋も、夜のとばりが下りたあとは、闇の中で時おり波音を立てているだけである。  麻衣は、漆黒の中に目を凝らして何かを探してみようとするが、そこからは一糸の灯りでさえ浮かんで来ない。  背後からは50年代の音楽が流れて来る。エルヴィス・プレスリーのlove me tenderである。ホテルの部屋のサイドテーブルから流れて来ている。  麻衣はバルコニーの椅子に腰を降ろした。ルームサービスから届けてもらっ

夕陽が太平洋に沈む時  【第2話】

 夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】    二人は叶のホテルの部屋に着いた。  叶はドアを開いて麻衣を中へ促す。部屋の奥にはベッドの端が見える。  麻衣は、仕事においては叶を尊敬し信頼している。  とは言え、叶も男である。夜間に男の部屋へ誘われる、ということの意味を麻衣は知り過ぎるほど知っている。南国のリゾートホテルの一部屋で一緒にワインクーラーを飲んで、「また明日」、と帰してくれるであろうか。強引に誘いを振り払って、気まずくなっても困る。明日も撮影があるのだ。  こ