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夕陽が太平洋に沈むとき

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2023年7月発投稿 最初の連載小説
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#マウイ島

夕陽が太平洋に沈む時  【第6話】

 夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】  ベッドは乱れ、招かれざる客の匂いが染み付いている。  麻衣はひたすら、叶の存在、声、匂い、手の感触、窪んだ瞳、麻衣の下半身で繰り広げられた行為を、拭って、洗い流して、擦り取って、記憶の中から抹消したかった。  叶を訴えるべきか。  答えは簡単には出ない。  外に立っているのが誰かを確認せずにドアを開けたことが、再度悔やまれる。    麻衣はベッドからシーツを剥がし、丸めてクローゼットの奥に押し込み、ベッドには香水を多少過剰に振り

夕陽が太平洋に沈む時  【第4話】

 夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】 「結婚したからって何も複雑に考えることはないよ。君は、今までの仕事やライフスタイルを続けたければ続ければいい。僕よりも早く起きて飯を炊いて待っていろなんて言わないよ」 「わかってるわ。そんな人だったら結婚しなかった」 「その代わり僕が浮気をしてもガタガタ言うなよ、とも言わないよ。浮気したくなるほど僕達の気持ちが離れてしまったら別れよう」 「ハネムーンなのにもう別れ話?」  麻衣は軽く苦笑する。  剛史が本気でそう言っているのか否

夕陽が太平洋に沈む時  【第3話】

夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】  麻衣は即座に言葉が出ない。  この期に及んで、再び嘘をついてみても、この男にはおそらく見透かされてしまう。素直に肯定してしまえば、何らかの結果が出るかもしれない。でも、その結果が必ずしも望ましいものになるとは限らない。  麻衣は立ち止まって再考する。  そもそも、私の望むような結果ってどんなこと?叶さんに指摘された通りだわ。なりゆきで生きて来た私は、望むべきものもわからない。  麻衣は、自身の心情を可能な限り真摯に描写しようと試み

夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】

  本文  日中は、クリスタルの欠片を散りばめたかのごとく輝いている太平洋も、夜のとばりが下りたあとは、闇の中で時おり波音を立てているだけである。  麻衣は、漆黒の中に目を凝らして何かを探してみようとするが、そこからは一糸の灯りでさえ浮かんで来ない。  背後からは50年代の音楽が流れて来る。エルヴィス・プレスリーのlove me tenderである。ホテルの部屋のサイドテーブルから流れて来ている。  麻衣はバルコニーの椅子に腰を降ろした。ルームサービスから届けてもらっ

夕陽が太平洋に沈む時  【第2話】

 夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】    二人は叶のホテルの部屋に着いた。  叶はドアを開いて麻衣を中へ促す。部屋の奥にはベッドの端が見える。  麻衣は、仕事においては叶を尊敬し信頼している。  とは言え、叶も男である。夜間に男の部屋へ誘われる、ということの意味を麻衣は知り過ぎるほど知っている。南国のリゾートホテルの一部屋で一緒にワインクーラーを飲んで、「また明日」、と帰してくれるであろうか。強引に誘いを振り払って、気まずくなっても困る。明日も撮影があるのだ。  こ