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夕陽が太平洋に沈むとき

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2023年7月発投稿 最初の連載小説
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#翻訳

夕陽が太平洋に沈む時 【第8話】

 夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】  剛史は、麻衣の問いに対して、数秒間考えを纏めているようであった。  私は彼を困惑させるような質問をしたのかしら。随分と返答に窮しているようだわ。  剛史は口を開いた。 「好みだ、好みじゃない、と単純に返答出来るような性分ならば楽なのだろうが」 「返答して下さらなくてもいいわ。貴方を困らせるつもりで言ったわけじゃないから」 「困っているわけではない。出来るだけ論理的に答えようとしているだけだ。そうだな、このような例がいいかな。こ

夕陽が太平洋に沈む時 【第7話】

夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】 「いいわ、どんな分野だって初めての時がある。とりあえず原文に忠実に訳して、特許特有の言い回しはあとで直してもらえばいい」    麻衣は翻訳を始めた。  しかし特許明細の翻訳はそう単純にはいかなかった。何回読んでも何通りにも取れるような文章が多かった。それでもようやく1枚目の翻訳を終えた時、PCの時計は午後8時を示していた。  外資系企業であることもあり、クリスマスイブのその晩には、家族のある社員、あるいは若い女性はすでに退社していた。苦

夕陽が太平洋に沈む時  【第6話】

 夕陽が太平洋に沈む時 【第1話】  ベッドは乱れ、招かれざる客の匂いが染み付いている。  麻衣はひたすら、叶の存在、声、匂い、手の感触、窪んだ瞳、麻衣の下半身で繰り広げられた行為を、拭って、洗い流して、擦り取って、記憶の中から抹消したかった。  叶を訴えるべきか。  答えは簡単には出ない。  外に立っているのが誰かを確認せずにドアを開けたことが、再度悔やまれる。    麻衣はベッドからシーツを剥がし、丸めてクローゼットの奥に押し込み、ベッドには香水を多少過剰に振り