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大阪朝高ラグビー部の躍進から見えるもの

 大阪朝鮮高級学校ラグビー部が花園の全国大会でベスト4という快挙を成し遂げた。部員数はわずか41人(マネージャー含む)。そもそも、大阪朝鮮高級学校の全生徒数は210人であり、全国大会に出場する強豪校とはその母数で圧倒的な差がある。そんな劣勢的な背景があるなかで繰り広げられる力強いラグビーに、ラグビーファンはもちろんのこと、ラグビーファンでない人も感動をおぼえた。
   
 しかし、この素晴らしい結果を一過性のものとして、水に流させてはいけない。このベスト4という結果を一つのキッカケとし、そこに至るまでの経緯や問題点に別角度から着目することが重要だ。
 スポーツには感動を伝える能力がある。言葉や文字だけでは行き届かない範囲まで、スポーツは人に入り込むことが出来る。だからこそ、その特殊能力を活用し、スポーツの力を最大活用すべきなのだ。
   
わずか41人で全国ベスト4
    
 在日スポーツ界に従事する人ならばこういった類の話は何度もしたことがあるかとも思う。それは朝鮮学校は日本学校に比べて人数が少ないのにも関わらず、スポーツや文化活動において、比較的優秀な成績を収めるからであり、「この人数の割にたいしたものだ」と、曖昧に語られることが多いが、それには確実な根拠があるのではないだろうか。
   
 スペインのプロサッカーリーグ1部にアスレティックビルバオという古豪クラブが存在する。そのクラブは世界的名門クラブであるバルセロナやレアルマドリードと並ぶ「2部降格経験の無い名門クラブ」だ。
 しかし、名高い実績を誇るビルバオには伝統的な“制限”がある。それは、「バスク民族以外は獲得しない」という【純血主義】だ。クラブ創設以来100年以上も守られているこのクラブポリシーによって、ビルバオは多大な制限を受けている。バスク民族、バスクに縁のある選手でなければ、外国人はおろか、スペイン人すら獲得することが出来ない。
 では何故、バルセロナやレアルマドリードに次ぐ名門で在り続けられるのだろうか。
   
アイデンティティの体現
   
 ビルバオはクラブが持つアイデンティティをサッカーをもって表現している。かつてビルバオは小さな町からスタートした。イングランドの労働階級者達と、スペインの小さな町の労働階級者とで手を組み、クラブを作り上げた。この歴史にビルバオは誇りを感じ、自分たちは特別なクラブなのだと、強く自覚している。
 
 傍から見れば獲得出来る選手が限定されているということは、大きなハンデに映るだろう。しかしビルバオはまったく違う理解をしている。限定されているという弱みを、強みに変えているのだ。課題を背負っているからこそ、自分たちに対する誇りを高く持ち、【ビルバオらしさ】を確立させた。その【ビルバオらしさ】を基準に下部組織選手を育成し、トップチームはこの【ビルバオらしさ】を基準に選手をスカウトしている。
 だからビルバオは団結できる。
   
全国朝鮮学校の想いを背負った大阪朝高ラグビー部
   
 部員数わずか41人の大阪朝高ラグビー部は、全国朝鮮学校の想いを背負ってモールを組んだ。それが最後の“粘り”となり、相手に脅威を与えた。全国朝鮮学校の想いとは、彼ら自身のアイデンティティであり、そのアイデンティティが確立されているからこそ、【大阪朝高らしさ】が確立されてきたのだ。
    
 ラグビーだけではない。各競技種目で【コリアン純血主義】を貫きながらも、確かな実績を残し続けている。そしてその根底には課題を背負う事によって生まれてくる【アイデンティティ】がある。
   
そもそも何故、学生数の減少が進んでいるのか
   
 「わずか41人の大阪朝高ラグビー部がベスト4の快挙」と各メディアが取り上げ、まるで美談のような語り口調で伝えられることがあるが、そもそも何故、「わずか41人なのか」ということに着目すべきだ。
   
 その原因は様々。多くの原因が考えられる。しかし、そこから目を背けてはいけない。スポーツとは、世間から見れば「されどスポーツ、たかがスポーツ」。いま目の前に置かれている情勢や社会動向を多角的に捉え、強く自覚しない限りそこにアイデンティティは生まれない。
 スポーツが持つ可能性は大きいはずだ。
   

 
 

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