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【楽曲解析】サビ前5音と歌詞から紐解くaccess『SCANDALOUS BLUE』

accessの代表曲であり、1期accessを締めくくる3部作の1つである『SCANDALOUS BLUE』。
今回はこの曲のサビ前にある5音のメロディと全体の歌詞から、この曲が表すもの、そしてテーマである『純粋な感情』とは何か、ということに切りこんでいこう、というお話です。

この曲を含むaccess1期最後のシングルである3部作のテーマは『純粋な感情』。
公式は『同性愛』という表現を積極的にしていたけれど、この曲に限って言うと『罪悪感を抱く恋』がテーマとして見えます。
インタビューでは同性愛だけでなく不倫とか…、と具体例を出していたようですが、この曲は他の人を不幸にするような恋の歌とは私は思えないです。
この辺は歌詞の考察になるので、また後ほど。

まずはメロディの性質・響きから、何を描いているのか考察していきます。


※メロディとベース音は聞き取りましたが、間に入る和音(コード)については自信がなかったので公式のピアノ譜を参考にしています

基本的にメロディは主人公の主な感情や行動を表します。
それを彩るベースや和音(コード)は、自分の中で葛藤するもう1つの心の有り様だったり、恋の相手であったり、情景だったり、ということになるかと思います。

まずこの5音のメロディとベース音の動きを見ると、2つは上と下に音が離れていくことから、ここは決別・離れる・分かれるといったものの表現であると解釈します。

興味深いのは最初は別々の方向に離れていったメロディとベース音が、5音目の最後はオクターブ離れていても同じ音だということ。つまり、別れるように離れていったのに最後は一緒になっているわけです。
けれど、一緒になったといってもこれがハッピーエンドではない…というのは曲調からも歌詞からも何となく感じられるかと思います。

では一体主人公がどんな心情の変化を辿ったのか、1音1音の響きから考察していきます。


【1音目】
ベース音に対してメロディは溶け合う響きを持っている音。
全く一緒ではなく適度な距離がありながら最も響き合う位置関係から、最初の二つの関係は穏やかで綺麗なものから始まっています。
ただ、メロディは主役たる音だけど暗さの力強さであり、それを彩るベースも少し浮ついた暗めの響き。
全体的に関係が明るいものでは無い、秘密めいたものを感じさせます。

【2音目】
響きとしては明るさと暗さの両方を持つ音。
1音目とは反対にメロディが不安定、ベースが安定音。

音の明暗、安定・不安定感が混ざった状態ではあるけど、大きな不安定さはありません。これはベース音が明るさの中心的な音で、かなり強い安定感がある為。

表向きは何も起きてないようだけど、内面の感情は複雑な思いを抱いてる状態、と言えるかな。

【3音目】
決定的に事件が起こったのはこの音。

メロディは明るさの中心的な音なので、2音目にあった不安から一歩踏み出しています。

ところが、ベース音はAメロBメロが主として使う音階から外れた異質な音で、浮ついてふわふわした、落ち着かない感覚を生みやすいです。
(ちなみにこの浮ついたベース音が、以前NHKの清塚さんの番組に出た際に話題になった"黒鍵は何かが起きている"という状態かと思います)

この二つの音の関係は、メロディは安定的な音ではあるけれどベース音から見ると緊張感のある音で、ここはフワフワな気持ちの表現ではありません。
ベース本来の自然な位置よりも半音上にズレたと解釈すると、離れていこうと進み出したのに足元がふわりと浮いてバランスを崩した状態、と捉えるとしっくり来るかな。

【4音目】
主人公であるメロディは少し浮ついている状態。1つ前のベース音で浮いた状態が継続していると言えます。

メロディはその後、最後の5音目まで連続してしっかりと上に向かっているところから、主人公自身は勢いがついて止まれない感じ。

ベース音とその和音は響きとしては若干の不安定・浮ついた感じで、ベース音はこの4音目まで順に下がってきている為、下向きへの勢いを増している音と言えます。
3音目までは均等に下がっていたのに、4音目で落ち幅が増えているので、滑らかに落ちるというより急にふわっと落ちた感じ。
ただ、そこまでの落ち幅ではないので大きく転ぶというより、3音目でバランスを崩して落ち、加速度がつき始めた、くらいの感覚。

あと、和音の構成音を見ると各音があまり密集出来ないので、分離感があります。
ベースから離れていくメロディと合わせて、理性でどうにもならない気持ちの解離、みたいなのが表れているかも。

【5音目】
決着。最初に言った通り、最終的にメロディとベース音はオクターブ違いの同じ音の為、巡り巡って結局離れられない、戻ってきてしまった、ということになります。

メロディとベースは同じ音だけど、決着した!スッキリした!という感覚がないのは、終着したメロディ音が音階の中では少し思わせぶりな、解決を焦らす音だということ。
加えて和音の響きも4音目と同じく若干の不安定な響きで、解決感のある音に動きたいという性質を持ってます。

(※ちなみに、音の解決とは、お辞儀の和音で2音目から3音目に行った時、人は『曲が終わったな!スッキリした!』と感じます。
これを"音の解決"と呼びます)

Bメロはこの『焦らし』が大事で、この焦らしがあるからサビ1音目にきた時に、開放感とかスッキリしたーとかサビキター!、という気持ちよさに繋がります。
もちろん、他曲ではBメロでスッキリした上で落ち着いてサビに行くパターンもあります。
それは曲で表現したいものに応じて使い分ける、というわけですね。

ということで、単純にメロディはしっかりと上へ、プラス方向・前向きに向かっているように見えて、その土台となるもの(ベース音)は安定だったり不安定だったりしながら、落ちる・揺らぐという現象が起きているわけです。
何かとても…主人公が真っ直ぐに想う心がありながらも、してはいけない恋心を止められず、戸惑い、抗えない気持ちに崩れていく、そんなストーリーが見えてきませんか。

ちょっと無理やりなこじつけじゃないの?と思われるかもしれませんが、響きの性質については一応私なりにしっかりと理論的に説明をつけた感じです。
それだけ説明付けが出来る説得力のあるメロディだと思うんですよね。


で。
これを踏まえた上で歌詞を見ていきます。

先程のメロディ解説では、悩んで不安になりながらも、止められない気持ち、恋に落ちていく様、と説明したんですが…。
歌詞から見えてくる主人公像からは、あまり悩んだり迷ったりしている様子が見えてきません。
どちらかと言うと、相手を"誘惑している側"なんですよね。

1番の歌詞をピックアップして見ていきます。

渦巻く視線を かわすX・Play
"今夜逢いたい"と 目で呼ぶ

ちなみに、この歌詞の"二人の関係"って何だと思います?

私、まずこの歌詞の主人公は"アイドル"的な存在だと思うんですよ。
公式が出した小説とイメージリンクしてるから、とかではなく、純粋に歌詞からの予想です。

まず、渦巻く視線。これは凄くたくさんの視線があることを思わせます。
『渦巻く』という言葉の意味には『感情・思考が激しく入り乱れる様』ともあるので、たくさんの視線が様々な感情を抱いて集まる場所…、それはライブ会場、ということです。
そしてスポーツ用語であるクロスプレイ、という言葉が使われているので、その渦巻く視線も凄く"攻撃的"なわけです。
そんな視線をかき分けてかわして、ただ一人の"君"に視線を送り『今夜、逢いたい』と目で誘っているのです。
"逢う"の漢字からして、二人きりでって事だからこれはもう完全なお誘いです。
大胆極まりない。

さあ、視線を送られた"君"とは誰でしょうか?
もうお分かりでしょう。

この曲が描くのは、主人公であるアイドルと"君"(要はこの曲を聴いているあなた自身)との秘密の恋の物語という…、夢女子大歓喜シチュエーションなんです。

非常階段で 奪うKISSが
尚更君を駄目にさせる

非常階段という所から、この二人がひとけを避けての逢瀬、また隠れて逢うにしても改まってというよりは、急いで逢っている感じがあります。
そして『君を駄目にさせる』と言っているのがポイントで、主人公が恋焦がれるのではなく、主人公が自分の行為によって"君"を駄目にしてる、と言ってしまってます。
なんかもうこの辺に主人公の自信とか、大胆さを感じさせます。

拒む腕を叛かせる

こんな関係はいけない、と拒んでいるのは君。そんなの構うものか、と腕を跳ね除ける主人公。なんという攻めの姿勢!!!!(されてみたぁーーい)

愛だから云えない

この"愛"はいわゆる恋愛の"好き"ではなく、ファンがファンとしてアイドルのことを好きと思う『愛』のことなんだと思います。
アイドルにとって、一人の人間との恋愛──つまりスキャンダルは、アイドルとしての地位を失う致命的なものです。
"アイドル"のことを"アイドル"として好きだからこそ、それを失う事になる恋愛関係にはなれない、誰にも云えない、アイドルからの『好きだ』という行為に応えられない。

そしてそんな思いを抱かせているとわかっていながら、でも『そんなことはどうでもいい!もう君しかいないんだ』と熱烈ラブコールする主人公。(そんなこと言われてみたぁーーい)

……改めて、タイトル「SCANDALOUS BLUE」を考えてみれば、「スキャンダルを引き起こしそうな(引き起こす) 青」。
……青………。
そう、青はボーカル貴水博之のメンバーカラーであるわけで、タイトルからこの曲の主人公は歌い手であるボーカルの貴水博之である、というのがわかるわけです。


ではさて。

メロディは抑えられない感情に揺れ動き、いけないとわかっていながら恋に堕ちていく様を表し、歌詞はアイドル自身である貴水博之が"君"を想う様を歌っている。

一見、メロディが表すものと歌詞が表すものが一致していなように見えます。


……


…音とは。響きとは。
人間の感情を揺るがすことの出来るものでして。

嫌な響きを聞いたら、嫌な気持ちになる。
綺麗な響きを聞いたら、気持ちいいと思う。
悲しい響きを聞いたら、悲しいと感じる。

つまり。

メロディを聞いたリスナーである私たちは、最初に解説した5音のメロディによって、恋に揺れ動く様を音によって疑似体験することが出来るのです。
そして、それに対して歌詞はあなたを恋に堕とす貴水博之からのすごく直接的な『愛の言葉』になっている。

リスナーがこのメロディを聴き、歌詞を"貴水博之"が歌うことで、この曲が完成するんです。

…よく出来てるでしょぉ……。
これぞ正にaccess貴水博之の為に作られた、最高に貴水博之を輝かせる為の歌なんですよ……。またこの曲に出てくる主人公が当時の貴水博之のキャラクターにもよく似合っているわけです。
そしてメロディの全体的な動きが非常に美しく綺麗で無駄がありません。その上で少し特殊な3音目の音で人の心に「引っかかり」を作り、それを違和感なく馴染ませているのです。
これぞプロの作曲家と作詞家による仕事です。
紅白歌合戦にこの曲で出たのも納得しかない。

素晴らしいでしょ…?!素晴らしすぎて私は涙が止まらん。


ではさて、改めて3部作のテーマである『純粋な感情』とは何か。

その答えは『ファンの気持ち』だったんじゃないか、と思うんです。

…なんか、そういうぐるっぐるの遠回しで表現するとこ、すーーーっっっっげぇ浅倉大介くさくて、これまた涙出る。

出典元はわからないんですが、3部作のMVにはaccessのメンバーとは違う櫻田くんというモデルの子が登場しているのですが、その櫻田くんのことをインタビューでは『純粋な感情の象徴』と言っていたようなのです。
つまり、櫻田くんは私たちファンの想いの象徴だった、というわけですかね。


3部作についてはセンセーショナルな同性愛の方ばかり取り沙汰される事が多いように思いますが、その本当の所はファンの様々な想いは全て『純粋な感情』であったとし、それを3部作の曲で表現して1期accessの活動を締めくくったんだと思います。

「TEAR'S LIBERATION」のMVで最後、櫻田くんと浅倉大介が重なったのは、浅倉大介自身もまた、全ての音楽を『純粋な感情』で作り上げてきたという表れなのかもしれません。


ここまで長く語っておいて何ですが、これはあくまで私の解釈に過ぎません。これが真実であるとは決めつけないでくださいね。
皆さんがそれぞれに思う解釈も大事にしてください。

ではまた!