20220319_深みより

「ダメだー、なんにも分からん!」

季節は終業式を迎えわずかな春休みに突入した頃。
アクアエレメンツフェスまでは残り一週間。
そんな中、私はまだ深みにはまっていたのだった。

「ふわぁ……サニ、どうしたの……?」
「あ、ごめんぽぽふ。起こしちゃった」
「だいじょーぶ。サニのワッチャ、流れてきたから、ちょっと元気」
「そのワッチャあんまいいものじゃないと思うけど……」
「ワッチャに、いいも悪いもないよ。あれば、僕は起きられる」
「そ、そう?」

ぷにゃ曰く。
ぽぽふは不完全な形でこっちの世界にきてしまっているから活動するためにワッチャがたくさん必要らしい。

「サニは、お悩み中?」
「そうだねぇ。どうすれば、になやむらさきに勝てるプリマジができるか……」

そもそもエレメンツフェスの評価基準がよく分かってない。
歌、ステージ、コーデ、イリュージョン。プリマジに必要なものはたくさんあるが、どれをどんな風にしたらいい評価がもらえるのだろうか。

「誰かに勝つ、のが、サニのマジ?」
「えっ?」

マジ、というのは。向こうの世界での魔法みたいなものらしいけど、ぷにゃやぽぽふの使い方にはやりたいことや目標みたいなイメージも感じる。

「んー、そういう訳じゃない、かな」

とは言いつつ。じゃあ何が私の目標なのか。
勢いでプリマジスタになったはいいが、未だに何をしたらいいかはよく分かっていない。いつぞやのにな先輩の講座でも結局ステージやりたいしか見つからなかったのにな~。

「じゃあ、見つけに行こう」
「見つけにって、どこに?」
「プリマジのことは、プリマジで見つかる……はず……」

ぷわぷわ。上下の揺れが大きくなってきた。そろそろおネムかな。
ぽぽふをフードに招き入れ、とりあえず私はプリマジを見に行くことにした。

………………
…………
……

家からは徒歩とバスとで20分くらい。
大きな公園にはいろんなスポーツコートがあり、休日である今日は人で賑わっている。
外周のマラソントラックを歩きながら、奥の広場にあるプリマジ会場に向かう。
同じように会場に向かう人の中に、どれくらいプリマジスタがいるのだろうか。
メイクによって結構別人みたいになる人も多いから、それなりに詳しいと思ってる私でも普段の顔はよく分からない。
逆に、私なんかは普段とステージであまり変わらないから分かる人にはばれてるんだと思う。
マスクとかはしてるけど、身長って隠せないし。

そういえば、プリマジをする人の想像はしたことあったけど、自分以外のプリマジを見に行く人ってあんま意識したことなかったかも。
同じくらいのペースで歩く後ろの老夫婦、さっき足早に抜いていったぶっちょう面のおじさん、会場前で集まって話し込んでる大学生くらいの集団。
これからプリマジを見に行く人たち、なんだろう。
まだ少し寒いこの季節に、頬を少し赤らめながら。

普段は何をしているんだろう。
老夫婦は仕入れがどうとか言っていたから、お店をやっているのかも。
ぶっちょう面のおじさんは、姿勢はよかったし会社員とか、かな。
大学生は大学生してるんだろう、けど、この辺大学なかったよね、
どこからかわざわざ集まってきたのかな、サークルとかだろうか。

私も見ているだけの頃は、たまにこの会場にくるのが本当に楽しみだった。
小学生の間は一人じゃ来られなかったし。
中学で定期通いになって、圏内で行けるのは本当に助かる。
特別推しとかがいたわけじゃなかった、はず、だけど。
プリマジを見ると、元気がもらえた。
いろんな歌を聴いて、すごいコーデやきらきらのステージを見て、
個性的なイリュージョンが飛び交って。
ここには夢が詰まっていて、たくさんの笑顔をもらった。

そう。
プリマジって、競技じゃないんだ。
見ている時は分かっていたはずなのに。
勝ち負けのための小細工が見たいんじゃない。
いやまぁ、それに固執して工夫してる人を見るのはそれもまた面白いんだけど。
この人はどんなプリマジをするんだろうって。
そういう、個性みたいな、その人の頑張りが伝わってくると、ぐっとくるんじゃない、かな。
私は、そうだった。だから。

『今日もみんな楽しんでくれたのにな~?』

になは笑顔を絶やさない。ステージではそういうキャラを貫いている。
普段は、正直それだけの子じゃない。
になにな言いながら愚痴るになのことは、
この会場では私とぷにゃくらいしか知らないだろう。
それがプラスかマイナスかは知らないけど。

『ありがとうございました!』

むらさきは、ステージでの口数はあまり多くない。
クールでスタイリッシュなキャラを通し、曲もかっこいいものを中心に選んでいる。
そんなパフォーマンスに魅せられた後、あの砕けた笑顔であいさつなんかはしっかりする。
そりゃ黄色い声援も飛びますよ。
くっ、いちファンという立場だけで見たかった。

とにかく。少し分かったかもしれない。
私がやるべきことは、そう。
私のやりたいことだ。

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