20211009_ぷわぷわな出会い
プリマジ。
それは時代の最先端を行くエンターテイメント。
真直祥寺のとある会社が主催となって興している事業であるが
日本各地にその会場となるプリズムストーンが存在する。
キラキラのステージ、熱い曲にダンス、種々様々なコーデ。
それらは魔法のように混ざり合い、
観客は心の底から高まる感情を日々昇華していた。
そしてここに一人。
「いやぁ、今日も最高のプリマジだったなぁ」
秋も深まってきた10月の夕方。
プリマジを楽しんだ帰り道、熱冷ましにと公園を歩く黒髪の少女がいた。
時折端末をいじりながら、今日のプリマジを反復し浸っている。
「うひゃっ!?」
と、頭にひんやりした柔らかい何かがぶつかった。
少しぴりっとしたような感覚もある。静電気だろうか。
「すいません、よそ見しちゃってまして……あれ?」
何に、は分からなくても誰かにぶつかったものと思うも、
しかし周囲には誰もいない。はて。
「あーっと。足元、足元を見るのにな~」
きょろきょろしていると、別の声がそう促してきた。
甘く少し間延びした感じのある声の方を向けば、
その声の主であろう少女の姿はすぐに見つかった。
さて、彼女が指さす足元に目をやると。
そこには水色の丸いのが転がっていた。
なんだ、ボールとぶつかっただけか。
「このボール、あなたのですかー?」
「違うのにな~」
とりあえず拾おうとすると、思った以上に柔らかくてひんやり気持ちいい。
持ち上げて見てみると、ぐるぐる回る目と目があった。
……目?
わずかに思考停止している間に、少女が近づいてきた。
「その子ボールじゃないのにな~」
「えっと、じゃあ何なんですか、これは」
「たぶんマナマナじゃな」
「ぷわぷわ浮いてるのを見つけた時には、
あなたがぶつかっちゃったのにな~」
今また違う声しなかった?
そういう表情を読み取ってくれたのか、少女は抱きかかえた橙色の
クッションみたいなものを強調してきた。
よく見なくても、それにも目みたいな光が宿っている。
「この子はぷにゃ、私のパートナーなのにな~」
「我の紹介など今はよい。それに、こやつプリマジスタか?」
「プリマジスタ?」
よく分からない生き物?ばかりで思考がついていかない中に、
聞きなれた単語が現れてつい反応する。
プリマジスタといえば、プリマジのステージを彩る主役、いわばアイドル。
「えっ、君プリマジスタじゃないのにな?」
「ち、違いますよ! 見るのは好きですけど、私なんかが……」
「えぇ~かわいいのにな~メッシュも決まってるのにな~」
そういうこの子はプリマジスタなんだろうか。
んん、この声の感じに見た目は、あれ、さっき見たような?
「私はにな、プリマジスタなのにな~」
「にな、ちゃん。つまり、今をときめく新人ラブリーっ娘として
名を馳せるあの……」
「なんじゃその説明口調は」
「えへへ~ご存知なのにな~嬉しいのにな~」
ついさっきプリマジ見た子じゃん。
いろいろあって冷え固まったかと思った感情が熱くなってくる。
と、手のひんやりしたものがぷるぷると震えだした。
「うぅーん……」
ぐるぐるしていた目の焦点が定まり、改めてちゃんと目があった。
半分しか開いていなかったそれが、みるみる大きく見開いていく。
「あ、あわわ、あわわわわわ」
「目が覚めたみたいなのにな~」
「えっと、ぶつかっちゃったみたいなんだけど、大丈夫?」
この際この生き物がなんなのかは一度置いておこう。
そう思って身を案じたのだが、次の瞬間その柔らかいボールは手から
弾け飛んだ。
「ごごごごごめんなさいぃぃぃ……!」
そう言いながら遠ざかっていく姿と声。
声の雰囲気から言っても小さな子供という感じだが、大丈夫だろうか。
「本当に野良マナマナであったか。珍しいものもいたものじゃ。
それよりおぬし、ちょっといいか?」
こっちの橙色のボール、というよりはスライムみたいだ。
ややくたびれた老人を感じる声の主に話しかけられる。
「あ、えっと、私はサニって言います」
「じゃあサニ。おぬし、そのメッシュはどうやって入れた?」
「えっ?」
そういえばさっきになちゃんも言ってたけど、メッシュってなんだろう。
そういう顔をしていたら、になちゃんが手鏡を向けてくれる。
うん、見慣れた自分の顔が映って。
黒髪に混じる、見慣れぬ黄色い線も映った。
「……えぇっ、なにこれ!?」
「自分で入れたんじゃなかったのにな」
「うむ。たぶん最初に感じたマジの爆発みたいなのの結果がそれであろう。
おぬし、あのマナマナとぶつかったらしいがたぶんその時に、じゃな」
「ど、どういうことですか? マナマナとか、マジ? とか」
状況が分からないサニに、になとぷにゃは順に説明してくれた。
マジとは、いわゆる魔法のようなもののこと。
それを使えるのが、このぷにゃやさっきの子みたいなマナマナ。
つまりは魔法使いである不思議な生き物。
彼らはプリマジスタのパートナーとして異世界から来ており、
そのマジによってプリマジのステージを飾っているのだと。
「プリマジは本当に魔法だった……?」
「そういうことなのにな~」
「で、さっきの子もマナマナで、私とぶつかったときに」
「マジが暴発でもしておぬしにメッシュが走ったという訳じゃろうな」
「……ぷにゃさん、これ直せたりします?」
「いや、まったく原理の分からんマジじゃ、直せんよ」
「そんな~!?」
「ぷにゃ、原理が分かってもマジは苦手だから
直せない気がするのにな~?」
「そういうことは言わんでよろしい」
頼りになるようで元からならなかった……!
「戻したければ、さっきの飛ぶクラゲのようなマナマナを
見つけて直してもらうのじゃな」
「えっと、そういう人探しみたいな魔法が使えたりしませんか?」
「じゃから我はマジは苦手故、そういうのはできん」
やっぱりダメなんだ。
になちゃんのプリマジはそれはもうキラキラで魔法のようだった。
魔法が使えないなら、あれはどうやって?
「ぷにゃはマジはあれだけど頭はいいのにな~
なんかいい感じにやってくれてるのにな~」
んー、分からない。
辺りが本格的に暗くなってきたこともあり、
とりあえず私たちはそれぞれの帰路についた。
幸い、お母さんは私の髪をそういう年頃なのねと流してくれたし、
確かうちの校則的に、多少の髪染めはセーフだったはず。
ひとまず、ファッションで押し通そう。
そう心に決め、もうひとつあのクラゲを見つけるぞとも誓い、
その日のサニは眠りについた。
この偶然から、いまいち始まってない気はするが、始まったのだ。
私たちのプリマジの物語が。