菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール 「戦前と戦後」

菊地成孔の音楽にある「官能と憂鬱」を一番体現しているのが、このジャズオーケストラ(彼の言葉を借りると、オルケスタ、か)だ。

かつて、歌舞伎町にあったキャバレー、クラブハイツでの公演(2008年)ではその場所のアウラをすいとった演奏(即興~京マチコの夜の流れ)は、そのあまりのシンクロぶりにめまいを覚えたけれど、今回リリースされたアルバムは少し毛色が違って、菊地成孔のウタモノを中心にラップあり、オペラあり(ラッパーとオペラ歌手が同居しているアルバム、というのはなかなかないだろうな)、カバー曲も薬師丸ひろ子からフランク・オーシャンまで幅広いようでいて、ペペの演奏、という芯があるからこそのまとまりのある不思議なアルバムに仕上がっている。

オープニングチューンである「退行」こそこれまでのぺぺの色が濃いが、薬師丸ひろ子「Woman-Wの悲劇」のカヴァー、KipHanrahanの楽曲にポエトリーリーディングとラップがのった「Michelangelo/CARAVAGGIO A QUICK BALANCE」はポップスでも、ヒップホップでもジャズでもない無国籍性、雑多な空気からにおい立つダルさがたまらない。中盤、序盤と打って変わった軽快な空気に一瞬戸惑っているところを「Super Rich Kids」のカバーが上手に〆る。(ラストのデザートは口直しなんだろうな)

 この、悪趣味な軽快なポップスとちょっと本気のJazz,ヒップホップ、憂鬱な音がぎりぎりのバランスで混在し、均衡を保っているから面白い、そんなアルバム。




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