見出し画像

第14回:砂子塾長の熱血ドラテク持論

情報の取捨選択

国内レースで数々のチャンピオン、ルマン24時間、日本人初のNASCARドライバーなどなど、文字どおり、日本のトップドライバーとして活躍した福山英朗大先輩。

彼の面白い話から始めよう。福山さんは鈴鹿サーキットへ向かい、クルマを走らせていた。バス停の前を通り掛かり、「お!」そこに美人がバスを待っていた。福山さんはとっさの判断で急ブレーキ!

ギアをすぐさまリバースに入れて、ホイールスピンの鬼バックでバス停前へ…。

ウインドウを開け、

「あの~バス待ってますよね?」

「だいぶ向こうでバス、パンクして修理してますよ~」(笑)

この突然の情報に、その美人はとまどう。

「もしよかったら~会社までお送りしましょ~か?」

腕時計をちらちら見ながら困った顔の彼女は、

「すいません…では、お言葉に甘えて…」

 ナンパ大成功!もちろん、バスはパンクなどしてない。バックミラーで後方を見ながら「バスよ!来るな!」と念じながらの瞬時の判断力!(笑)

皆さんも経験ありありのシーン。後姿の美人と思われる女性をクルマで追い越しながらのミラー確認。何がいいたいって?そう!これこそ情報の取捨選択なわけだ。

ドライバーは走りながら、自分が必要と思うものを見てしまう。また、必要に感じなく見逃す危険も多々潜んでいるのだ。

AIによる自動運転は人間とは大違い。360度にわたってクルマの周りを監視する。そりゃあ、前を歩くのが美人であろうが、そうでなかろうが、一切関係ない(笑)。公道でのモニタリング情報は膨大で安全性は人間の比ではないのがおわかりだろう。

ことサーキットに関しては、その情報は一般行動より極端に少なくて済むのだが、『認知』→『決定』→『判断』、そして『アクション』のスピードは当然早く、そして現在のドライビングを解析し、プランを組み立てるためにも「先を見ること」が最も重要になってくる。

筑波サーキットのヘアピンなどは、あえて首を回して出口側に向けることで意識と視点を先へ先へと促す。先を見れば、考える時間をつくることができる。視点が近ければ思考時間を奪って自らを追い込むことになる。

前述のAIに人間が現在勝っているものが予測であろう。レース後のドライバーのいいわけで、よくあるのが、「前のクルマが突然スピンしちゃ
って……」など。いやいや、突然スピンしないだろう。その兆候をそいつは見逃しているのである。

反射行動はドライビングにおいてNG。予測反応であるべきだ。反射が起きたときは予測が遅れたか見積もりの相違である。確かにAIのモニタリングセンサーは人間などおよびもつかない。しかし、見たものの1秒後、5秒後を予測し、行動に反映させるのは、人間の経験値が成せる技である。

サーキットでは路面、フラッグ、ピットサイン、信号、そして周りのクルマの動きを観察しながら、自らの具体的な動作プランを構築する。不必要なものを見てしまう人間。見なければならないものの選択からドライビングは始まる。

ちなみに…、福山さんは影山正彦アニィとルマン24時間レースを終え、ニースからモナコに移動中にもこの手法で日本人観光客2名をクルマに乗せることに成功している。もちろん、そのときもフルブレーキング後の鬼バックだった(笑)。もっとも、フルブレーキや鬼バックは本人が盛った話で、反射行動には属さない。見つけるのも、判断するのも、行動するのも、凡人より早いということだ。

取捨選択。街を歩く美人を見逃すようではプロフェッショナルドライバーになどなれない。そして、フルブレーキングはミラーで後続車をちゃんと確認してからね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?