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あおい淡い思い出

あおいと初めて会ったのもこんな雨の日だった。梅田に集合な!という大阪知らずの決め方によりお互いに混乱したあげく、ヨドバシカメラが待ち合わせ場所の着陸地点と相成った。履き慣れたデニムにざっくりしたTシャツのスッとしたシルエットで大きなテレビ画面のスポーツシーンを眺めていた彼女はこちらを見つけると「よお」と声をかけてきた。10年来の知り合いかのように。声質はとてもハスキーでジャニスジョップリンを彷彿とさせた。ブルースが服を着て歩いている。
そこから食べて飲んで話した内容については仔細に記すこともできないけれど、正直なところぼんやりとしか覚えていない。仕事の話、男の話、女の話、酒の話、どれもたわいもないことだが、冗談と真面目がワンツーパンチのように繰り出されるテンポの良さがとても心地よかったことだけは強く覚えている。知り合いの子供と全力で遊び、すべり台で尻ポケットの携帯の画面を削るような人でもあり、ぼんやりと運転して信号無視することもある人でもあり、ボールを投げても投げても返ってくるそんなゲームをしているようだった。
あっという間に時間は過ぎ、駅に帰る道すがら冗談で手をつないで改札まで見送った。堂々とした風格に不似合いな細くて冷たい指。「またな」と言って彼女は家路につく。「またね」と言って僕も帰る。まだ雨は降り続いていたけれど、僕の心には小さな虹がかかっていた。その反対側が彼女にかかっていたかは、まだ聞けてはいない。

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