「恋愛強者3割の法則」という俗説について

皆様、荒川和久さんという方をご存じでしょうか。

荒川 和久(あらかわ かずひさ)独身研究家、コラムニスト
ソロ社会とソロ文化及び独身男女の行動や消費を研究する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書に『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー携書)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)など。
東洋経済オンライン荒川和久プロフィールページ

独身生活者研究をされている方で出版やメディアでの発信も多数されている著名な方です。

私もツイッターで恋愛や結婚について調べているので時々荒川さんの意見を見ることがあったのですが「恋愛強者3割の法則」という主張を見て、自分が見てきた恋愛や結婚のデータと反することをおっしゃっていると思ったので疑問に思ってこの記事で検証してみようと思いました。

まず荒川さんのおっしゃる「恋愛強者3割の法則」がどのようなものかまとめました。

荒川さんの主張する「恋愛強者3割の法則」とは…
・恋愛力のある男女はいつの時代も3割程度しかいない
・恋愛力とは「誰かと恋愛関係を作れる能力」のこと
・恋愛力は「未婚者における現在恋人がいる割合」で測れる
・過去経験の指標を用いないのは現在の恋愛力を担保するものではないから
・「未婚者における現在恋人がいる割合」は1982年~2021年の約40年間で大体3割前後で推移(出生動向基本調査/18~34歳/独身)
・2000年代前半の割合が高いのは「異常値」(2002年女性:37.1%)
・上位3割の恋愛力のある男性が結婚すると、女性の狙いは次の未婚上位3割の恋愛力のある男性に変わる

大雑把に言うと男性も女性も恋愛力がある強者は3割しかおらず残りの7割は恋愛の機会が持てない弱者であるというものです。

以下、荒川さんの主張する「恋愛強者3割の法則」が本当に正しいものであるのかを検証してみました。

「恋愛強者」を「現在恋人がいる率」だけで説明しようとしている

荒川さんは「恋愛強者」(=「恋愛力がある人」=「誰かと恋愛関係を作れる能力をもつ人」)を「未婚者における現在恋人がいる人」だと操作的に定義しています。

確かに「未婚者における現在恋人がいる人」は一定の恋愛強者性を持ちうるでしょうが、「恋愛強者」という抽象度の高い概念を説明するにはそれだけでは不十分でしょう。

実際に恋愛強者であっても現在たまたま恋人がいない人も多くいるはずです。これまでに告白された人数やこれまの恋人の人数など他にも恋愛強者を示す重要な指標があります。

荒川さんの定義では、過去の恋愛経験や、それに伴う学びや成長が恋愛力に影響することが考慮されていません。荒川さんは「過去経験の指標を用いないのは現在の恋愛力を担保するものではないから」と過去の恋愛経験を恋愛強者の指標に含めることを意図的に避けています。

荒川さんのように多数のメディアで活躍する立場の人の影響力を考えるならば「恋愛強者3割の法則」という一般性のある主張を不十分な分析で流布するのは極めて問題があると言わざるを得ません。丁寧な分析が求められます。

事実として3割ではないものも3割と言っている

これが一番大きい問題です。

荒川さんは「恋愛強者3割の法則」の根拠として「未婚者における現在恋人がいる割合」が1982年~2021年の約40年間で大体3割前後で推移(出生動向基本調査/18~34歳/独身)していると主張しています。

【荒川さんの言説】
「恋愛相手がいる率というのは大体3割前後でほぼ一定」
「統計調査を見ると、恋愛力のある人間は、男女ともに3割程度しかおらず、大多数の残り7割は恋愛弱者」
・「1982年~2015年までおよそ30年間に渡る男性の「彼女いる率」…30年間一度たりとも30%を超えたことなどありません。いつの時代も7割の男には彼女なんかいませんでした。つまり、彼女ができて恋愛を謳歌できる「恋愛強者」はいつも3割という法則があるのです

しかし実際の数字をみると…3割ではない時期も多々あります…。

男性では1982年の21.9%、1987年の22.3%、2015年の21.3%、2021年の21.1%は、四捨五入するとどうみても「2割」であり、どのようにひいき目で見ても「3割」だとみなすことはできません。

また、女性に関しても1992年から2005年までは四捨五入すると「4割」であり、どのようにひいき目で見ても「3割」だとみなすことはできません。

つまり、「恋愛力のある男女(=「未婚者における現在恋人がいる人」)はいつの時代も3割程度しかいない」という「恋愛強者3割の法則」は事実ではないということです

どうしてグラフや数字で読み取れないことを主張するのでしょうか…。

都合のよくないデータを主観的に異常値とみなして切り捨てている

荒川さんは次のように主張しています。

「2015年男性の恋愛率が直近ではもっとも低いため、マスコミは「恋愛離れだ」と騒ぎ立てるのだが、そういう論調の記事の場合、それを際立たせるために始点が2005年からの切り取りだったりする。が、40年間の長期的に見れば、大きな変化はないし、むしろ2000年代前半が少し異常値だったという見方をする方が適切である
https://news.yahoo.co.jp/byline/arakawakazuhisa/20210918-00258826

2000年代前半が「少し異常値だった」という見方は荒川さんの主観であり学問的なコンセンサスはありません。

一般的には2000年前半が恋愛が活発な時期であり、そこから草食化という言葉とともに恋愛離れが進んでいったと見方が普通です。

「現時点では2005年前後をピークとして「若者の性行動は不活発化している」と結論づけることができます」(筒井淳也・立命館大学教授)
https://president.jp/articles/-/59430

荒川さんがこのように思ってしまうのは、もしかしたら荒川さんが「時代によって恋愛できる人たちの比率が変化しないものだ」という思い込みがあるからではないでしょうか。

私たちの暮らす社会の状況はその時代その時代で変化するものです。その影響を受けた人々の恋愛の価値観、恋愛への関心が変わるのは当たり前のことです。その結果、恋愛力、交際できる人の比率が変化していきます。

社会変化について「異常値」だという見方をするにはそれなりに理由が必要です。例えば東日本大震災の直後の時期の防災意識などは「異常値」だと言えるかもしれませんが、2000年前半の恋愛・結婚に影響を与えるインパクトのある出来事はないです。自然に変化していっています。

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