男性の生きづらさのケアに「男同士のつながり」は有効なのか?
日本の未婚男性は世界一幸福度が低い
日本は先進国で最も男性よりも女性の方が幸福な国であることは、比較的周知されている(注1)。しかし、男性と女性を、未婚と有配偶に分けてみると、日本の未婚男性の幸福度は先進国で最も低く、未婚女性の幸福度は先進国で最も高いことがわかる。
注1:なぜ日本男子は世界で唯一、女性より幸福度が低くなるのか?
日本の未婚男性の幸福度が低い理由
では、どうして日本の未婚男性はこれほど幸福度が低いのだろう。まずは文化的背景、時代的背景から考えてみる。
理由①:女性が男性を経済力で選ぶ→未婚男性に経済弱者が集まる
女性が結婚相手を決めるときに経済力を重視する。特に日本では他の国よりもその傾向が強いと考える。なぜなら、日本では先進国の中で未婚者と有配偶者の年収の格差が大きいからである。
また、男性の年収別未婚率が10年前と比べて、”低年収ほど未婚率が高まる傾向”が強まっており、この傾向は弱まるどころか加速していると考えられる。
女性が結婚相手を決めるときに経済力を重視すると、未婚者の中に、男性集団の中の収入の低い者が多く含まれることになる。収入の低い者は、その他の要素(外向性(コミュ力、人への関心など)、開放性(例えば趣味の関心の広さなど)など)の弱者性も強いと考えられる。
理由②:弱者ほどつながりにくい時代
現代社会においては弱者は人との関係を築きにくい。しがらみがなくなり、代替娯楽があり、人とつながる方法(SNSなど)が増えたことで、わざわざコストをかけてまで特定の人と関わる必要がなくなった。そうなると、付き合う人を選ぶのに市場原理が働くようになる。魅力のある人はよりつながりやすくなりそうではない人はよりつながりにくくなる。未婚男性は、性的に魅力のない男性であることに加え、収入も低く、コミュニケーション能力も低い(=付き合うメリットが少ない)。
理由③:性役割分担が強い国→セルフケア能力の低い男性が多い
弱者性要因以外にも、日本では他国よりも性役割分担が強い(男性が稼ぎ、女性が家庭のことをする)ため、未婚となった男性が、食事・健康の管理などが不十分であるという要因も考えられる。
(これは日本人全体に関わることだが、次のようなことも孤立を促進する。日本では身内以外の他者を簡単に信用しないという文化的要因がある。リスクを嫌う国民性があるからだと考えられる(注2)。また宗教性が弱く、宗教コミュニティで人と関わる機会がない。)
(注2)
・山岸俊男「安心社会から信頼社会へ」
・「レガタム繁栄指数」の「ソーシャルキャピタル」の日本の順位
・世界価値観調査の「Q61.- Trust: People you meet for the first time」
日本の未婚男性と未婚女性の幸福度の構造の違い
つぎに、日本の未婚男性の幸福度の低さを、女性との比較で考えてみる。
すもも「男女のつらさとフェミニズムに関するインターネット調査」(2020年7月)のデータを活用して分析する。この調査はクロス・マーケティングという調査会社を通じて行い、全国の20~59歳の男女を性別年代別の人口構成比に合わせて回収している(合計1600名)。
幸福度を従属変数として重回帰分析をおこなった。この分析では幸福度に影響を与えると考えられる各要素が、それぞれどの程度、幸福度に影響を与えているのかを知ることができる。
平均値
幸福度および各変数の平均値は以下の通りである。
各種満足度では「友人関係満足度」で男女差が大きい。(女性が高い)
重回帰分析
男女ともに、「心身の健康状態満足度」、「世帯の経済的な暮らし向き満足度」、「交際している異性がいる」が幸福度に有意に関連している。
男女で違いがあるものでは、男性は「仕事満足度」、女性は「趣味満足度」が幸福度に有意に関連している。
友人関係満足度の幸福度への影響は、男女ともに有意ではないが、数値上は女性の方が影響が強い。
各要素の幸福度への貢献の差
未婚男性と未婚女性の各要素の幸福度への貢献をみると、男性よりも女性において、趣味満足度と友人関係満足度が幸福度に貢献していることがわかる。
"友人関係満足度"の"幸福度"への貢献度の性差が大きい要因
量的な要因
日本の未婚男性は先進国の中で「親しい友人と月に1回以上接する比率」が最も低く、男性と女性の間の性差が最も大きい。そもそも親しい友人関係が少ない(人数の少なさ、接触頻度の少なさ)という量的な問題がある。
質的な要因
また、男性において女性よりも友人関係満足度が幸福度につながっていないのは、友人とのかかわり方に問題があるかもしれない。仮説としては、男性よりも女性の方が精神的なケアにつながるような情緒的なかかわり方をしているかもしれない。
女性たちから吹き上がる「男同士でケアしろ」論
未婚男性の孤立の改善策として、女性たちから「男同士でケアしろ」という提案がなされることが多い。その代表的な事例が著名なフェミニストである澁谷知美の「男同士でバーベキューをしたら?」という旨のツイートである。
また、澁谷知美は、国際ジェンダー学会誌においても同様の主張をしている。こちらでは、未婚男性の生きづらさのケアを「汚れ仕事」と表現し、男性同士がケアし合うことを推奨している。
男性の生きづらさに対する女性たちのリアクションとして「男同士でケアしろ」論はフェミニストに限らず広くみられる。以下、女性たちが「男同士でケアしろ」論を支持しやすい理由を考察した。
①類推:女同士がケアできているから男性もすべきだと思う
②負担:女性がケアを求められるのがコストor搾取だと感じられる
③美化:BL的な美しさ(性的不可能→純愛)を感じる
④誠実:女好きではないと思えるから(女性嫌悪ホモソ)
⑤排除:気持ち悪い男性を女性から遠ざけるための方便
⑥選別:女性に飢えていないという強者シグナルになる
⑦選別:男同士でつるむ人には強者が多いから
⑧選別:女性に向かう前に男性集団での競争をしてほしい
「男同士のケア」が難しい理由
女性たちが「男同士でケアしろ」論を支持する一方で、それに対する男性たちのリアクションは否定的である。
第一に、女性たちが④、⑤のように男性の生きづらさという社会問題に対して冷たい態度を示していることへの感情的な反発があるからだろう。
また、そもそも異性の恋人や配偶者がいることによって得られるケアと、同性の同士で得られるケアを同一次元で語るのには無理がある。(接触頻度、関係の安定性、関係性の深さ、恋愛感情の有無、性行為の有無のなどの違いが大きい)
確かに女性と比べて男性同士のケアが不足している。それに関しても、男性同士のケアが女性たちが考えるよりも実際的に難しいという側面がある。その点に関してはDavitRice氏のまとめた「「男性同士のケア」が難しい理由」が参考になる。
理由①:男性にケアしてもらうのに生理的嫌悪感がある
男性が男性にケアしてもらうことの生理的な難しさについては、社会学者の山田昌弘も言及している。
筆者は、相席という他人が身体的に接近するというシチュエーションを用いて、男性と女性の生理的嫌悪感を推測する調査を実施した。その結果、女性よりも男性において相席が嫌われる傾向が明らかになった。
理由②:男性は他者にケアを求めることに抵抗感がある
「男らしさの呪縛」という解釈には注意が必要である。男性のケア不足を男性自身の心の問題として切り捨ててしまう側面があるからだ。心の問題としてしまうと、その解決策として自己啓発的な有効性の低いものになりがちである。「男らしさの呪縛」と呼ばれるものは、実際は「男性が他者にケアを求めると、不利な扱いを受ける」という実利的な側面を反映している可能性が高い。他人にケアを求めるような弱い男性を女性はパートナーとして選ばないだろうし、男性からも敬遠される。
理由③:ケア的コミュニケーション能力がない
以下の統計における「人とのコミュニケーションで重視すること」「誰かと話して不快に感じること」ことの性差からも、男性が、人間関係の構築よりも、言葉遣いや論理的な伝達などに重きを置いているのがわかる。
また、友人関係への期待の性差を検証した論文もある。こちらにおいても、女性の方がコミュニケーションにおいて人間そのものに関心が向いていることがうかがえる。
理由④:自分にケア的コミュニケーション能力があっても他の多くの男性にない
男性のケアは女性がすべき
重回帰分析の結果でも明らかなように、現状では、未婚男性は友人関係満足度を高めることでは幸福度はほとんどあがらないし、恋人ができることの方が幸福度が高まることが明らかである。それに加え、「男同士のケア」が難しい理由があるなど、現状では女性にケアしてもらうのが効果的である。
それならば、男性の生きづらさを改善する方策として、女性が男性をケアする方向で公的支援すべきだろう。
女性の悩みに女性相談員が対応することがあるので、ケア要因を特定の性別に求めることには問題がないだろう。
一つは、男性の恋活・婚活への公的支援である。男性にとって恋人・配偶者を持つことは最も一般的な女性からのケアの獲得方法である。男性の恋活・婚活への支援は大きくは「出会いの提供」と「魅力向上」である。
「出会い提供」では、AIマッチングの後押しが重要である。マッチングの成立の阻害要因として大きいのは女性の高望みである。しかし選択の自由があるので人気のない未婚男性に無理やり女性をあてがうのはよくない。したがって、例えば、年収や容姿を隠して、性格的な相性がよい男女がマッチングするようにして、人気のない未婚男性でも気が付いたら女性が選んでいる形にもっていけばよいと思う。
「出会い提供」に関するもう一つの支援は、マッチングアプリ料金の男女不平等の是正、是正が難しい場合は男性のマッチングの利用料金を支援をするべきだ。
「魅力向上」に関しては、恋愛スキル教育(性教育実技含む)、ファッション代に対して公的に支援すべきだ。
また、もう一つの公的支援の方法は、女性との関わりの少ない未婚男性にレンタル彼女を無料で提供することである(政府が税金でレンタル彼女料金を支払う)。レンタル彼女の利用は、ケアだけでなく、女性慣れも含めた恋愛スキルの向上にもつながる。ケアのための支援に世論の反発があるならば、ソーシャルスキル教育という名目にしてもよい。
男性が女性からケアされたい場合の必殺技:「僕、さみしいねん」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?