前へ…

『前へ…』
一人用声劇台本(不問1)

声劇台本置き場…https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/2989

《登場人物》
・最愛の人をなくした女性
※役性別の変更 OK。一人称の変更 OK。
※一言だけ最愛の人の台詞があります。

《本編》

ふとした瞬間に感じる貴方のぬくもり。もうそこに貴方はいないとわかっているはずなのに…。

「貴方がそばにいないこの世界はこんなに色がなかったんだね。」

貴方の墓石に花を添えながらポツリと呟いた。

「えっ…?」

辺りが明るくなったかと思えば、そこには天に続く階段があった。

不思議な光景なのに、私は迷いなくその階段に足をかけた。

貴方がいた頃の色鮮やかな空間に佇んでいたからかもしれない。

「綺麗。」

無意識に口から出た言葉。

そして、寂しさに溢れていた心が次第にぽかぽかしていることに気がついた。

「どこに繋がっているのだろう?貴方にもう一度会えたりするのだろうか。」

そんなことあるわけないと思いつつ、この階段を登るたびに貴方と過ごしてきた日々が巡る。

貴方がいなくなってしまってから、私は今までどうやって過ごしていたのかも、どうやって息をしていたのかも…わからなくなってしまっていた。

上に広がる素敵な色に吸い込まれるように私は足を動かす。

『行っちゃだめ!』

突然頭に声が響いた気がした…。聞き間違えるはずがない。

どうして?貴方といたあの世界の色をまた一緒に見たいだけだよ。

ふと上を見るとどす黒い塊がゆっくり階段を降りてきていた。

「えっ?!何あれ!!!」

私は夢中で来た道を引き返した。

地面に足がついたとき、階段とどす黒い何かは砂のようにはらはらと消えていった。

「あれは一体何だったんだろう…。」

墓石に目を向けると私が供えた花の花びらが 2 枚重なっていた。

よく見ると、自然に落ちたものではなく誰かが千切ったような跡があった。

「大好きだよ。今もこれからもずっと。」

墓石に記された愛の印は風にさらわれ遠くに飛んでいった。


END

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