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魅了

『魅了』
一人用声劇台本(女 1)
声劇台本置き場…https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/2072

《登場人物》
・私…絵画。
・彼…人間。
※絵画は女性を想定して書いていますが、役の性別変更OKです。その場合はご連絡ください。


《本編》

私はずっとここにいる。いつからいたのか覚えていないくらい前から…ずっと。

繰り返される毎日に不満はある。でも動くことができない私にはどうすることもできない。

ただ大人しく、ここにいるだけ。

今日も沢山の人が私を見にやってくる。

『綺麗だ』とか『素敵だ』とかそんなことばかり…。私はそんなんじゃないのに。

人の流れが途絶えて静かになった。すると、ずっと後ろから見ていた男性が私に近づいてきた。あぁ、どうせこの人も今までの人と同じなんだろう。そう思っていたけど…違った。

「え…?」

彼は私を見つめたまま涙を流し始めた。突然のことで私は頭が真っ白になる。

「どうしたの?大丈夫?」

私の言葉は彼には届かない。

静かに私を見つめる彼の目に、胸が締め付けられた。

「何故そんなに寂しそうなの?」

彼はその日から毎日私に会いに来てくれた。

何か話をするわけでもなく、ただ見つめ合っていた。

彼は人が沢山いるときは遠くからじっと見ているけれど、人がいなくなると近くに来てくれる。

私のために、こんなにも時間を使ってくれる人なんて今までいなかったから、嬉しいような恥ずかしいような…初めての感覚。


そんな日が続き出会ったときと同じ季節が近づいてきた頃…私は買われた。

私は丁寧に箱にしまわれ、布に包まれた。

もう彼に会うことができないんだと思うと、寂しさが込み上げてくる。

「最後に彼に会いたかった。声が聞きいてみたかった。」

私はどこに連れて行かれるんだろう…不安な気持ちは、箱から出された眩しさと共に消えた。

光に慣れはじめた私の目の前には、会いたいと思っていた彼がいた。

突然のことで夢でも見ているのかと自分の目を疑ってしまう。

彼は私を部屋のどこからでも見える場所に案内して、飾った。

これから毎日彼と二人きりの時間を過ごせることに幸せな気持ちになる。

私を見つめる彼の目は今までと変わらなくて、嬉しい。

「ありがとう。」

呟いた私に彼は驚いた表情を向けた。

そこで初めて、私は頬をつたっているものに気がついた。

命の宿っていないはずの『絵』から涙が出ていたら、驚くのも無理はない。

普通なら怖がりそうなのに、彼は愛おしそうに私の涙を拭った。

END

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