お姫様の憂鬱

子供の頃、小学何年生だったか定かではない。物が多い散らかった六畳間でゴロゴロとしながらテレビを観ていた。

ガンジス川の夕日、いや朝陽かもしれない。埃っぽい川沿いの街並み、大勢の人々がテレビに映った。私は一目で心を奪われた。ゴロゴロと寝そべっていた私は、上半身を起こしてテレビにかじりついた。

私はその時、近くに居た母親に

「私は結婚したくない。ずっと寝ていたい。どこかの国のお姫様みたいに、横たわってのんびりしていたい」

と云うようなことを言った。

「馬鹿なこと言わないでよ。いつか1人で、自分で生きて行くんだよ」

呆れたような、面白がるような口調で母親はそう言い返してきた。



いまだに、日常生活の中で数日に一度、突如として私の頭の中なのか、心の中なのか、目の前なのかは分からないが、それは表れる。


「結婚」

それが文字なのか、音で聴こえるのか、全く表現のしようがないのだが、兎に角「結婚」と現れる。

あの時からずっと。

例えばお風呂に入っているとき、ボーッとしているとき、洗濯をしているとき、本を読んでいるとき、それはいつだって突如として登場し、私はその度にその言葉に悩まされる。

「結婚」


あの時の私は、どうしても子供が欲しくて仕方なかった。

どうしても妊娠して、自分でお腹の赤ちゃんを育ててみたかった。

計画妊娠でもないし、ふとした拍子に妊娠が発覚したわけだが、その時の赤ん坊は既に9歳になった。


たくさんの出会いや学びの日々、うんざりしたりイライラすることもあるが、それでも子供は可愛く、愛おしく、私のよき仲間として一緒に生きている。


それでもなお、日常のとある瞬間に

「結婚」

というモノがあらわれ、私はその度に、この言葉は何故浮かんでくるのだろう。

何故聴こえてくるのだろう。

と、いまだに謎がとけない。


何か隠されたそれに翻弄されたくはないが、これだけ引っ掛かるのであれば、少し紐解いていかなければならないような気がする。



オレンジ色にいまでもハッとさせられる。鮮やかではない、深く、少し濁ったようなオレンジ色に。



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