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【短歌】文語の定型短歌を詠む

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自作の文語定型短歌をまとめるためにマガジンを作りました。今までに創作したものから定期的に note に横書きしてマガジンに追加します。初出は『橄欖《かんらん》』誌ですが、一部を修…
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#文語短歌

【短歌】石垣島|文語の定型短歌を詠む 14

2012年5月 詠 子を連れて西へと逃げし俵万智をNHKテレビ遂に取り上ぐ 避難せし母の決意を称賛しみなも逃げよと暗に伝へる 逃げられぬ母子への配慮を滲ませて放射能汚染に一切触れず 仙台を捨つる辛苦を語るにも綺麗な言葉を歌人は選ぶ 原発の放射能から逃げし事がスローライフの物語と化す 俵万智の石垣島の子育ての映像の影に拡がる闇よ 初出:『橄欖』2012年8月号 見出し画像の出典:https://www.excite.co.jp/news/article/Jpri

【短歌】寄り添ひて|文語の定型短歌を詠む 13

2012年4月 詠 門前に少年と少女佇みて飽かず語りぬ黄昏れる間も 新しき制服ならむ少年と少女は我に立礼をする やや離れ顔を見合はせ立つふたり教室の中で語らふごとく 暮るるほど寄り添ひてゐたきかの想ひ自らにさへ伏しし春の日 外灯に浮かぶ桜の薄紅を頬に映して語らふ二人 初出:『橄欖』2012年7月号

【短歌】卒業式|文語の定型短歌を詠む 12

2012年3月 詠 もはや我みなのこと守る術無しと卒業式にて教師俯く 「先生より長生きして」と生徒らに言ふ福島市立中学教師 をとうとよ君死にたまふことなかれと詠みし晶子の悲痛のごとく 「おうちの人がきっと守ってくれるはず」親の情愛に望み託して 三・一一 すめらみことのお言葉の「放射能」削りし七時のニュース ご体調すぐれぬままに式典におほみづから出で宣らせたまひしに 初出:『橄欖』2012年6月号 一部を修正しています

【短歌】おおつもご |文語の定型短歌を詠む 10

学生時代に付き合い始めた人の妻になったが、結婚後も自分の仕事を続けた。 30代に入り、夫と私はそれぞれの道でプロフェッショナルになっていた。 二人とも多忙を極め、日付が変わる頃に帰宅、翌朝は出勤時間ぎりぎりまで寝る。朝食はとらなかった。 夫婦の会話の時間を作らなくては、という思いから、たまに渋谷で夕食デートをして、またそれぞれの職場に戻ることもした。 日本じゅうのビルで深夜まで残業の灯りが煌々としていた時代だった。 夫の出身地の愛知県にUターンすることを二人で話し合って