見出し画像

「うつくしい」を愛おしむ食卓|なくならないでほしいホテル Vol.6

「HOTEL SHE,」などを運営するL&G GLOBAL BUSINESSで働くスタッフや、いつも応援してくださる皆様と一緒に「なくならないでほしいホテル」という連載をはじめました。絶対になくなってほしくない推しのホテルを主観たっぷりでお届けします。

その宿に着いたのは、暑い夏の午後だった。
ひんやりした土間を抜け、靴を脱いで部屋にあがる。

勧められるままに、入ってすぐの大きなテーブルを囲む椅子に腰掛けながら、部屋に置いてあるもの、一つ一つが気になってしまって、目はあちらへこちらへと動きを止めない。
きょろきょろしていると「はるばる、ようこそ」とわたしの前に小さなお菓子とお茶が置かれた。

画像1

見ているだけで涼しい器に注がれたそのお茶は、じっくり時間をかけて、水で淹れたものだという。
「普通のお茶と思って飲むと、驚かれるかもしれません」と言われて一口飲むと、口のなかから身体中に香りがふわっと広がって、思わず目をつむる。お茶の爽やかな香りと、出汁のような旨味がどんどんわたしを元気にする。

ここは、古い武家屋敷に10年の時をかけて息を吹き込み、宿となった場所。
全3部屋で、今日のお客は私たち4人と、連泊されているという女性が1人。

画像2

画像3

屋敷を案内してもらって、最後に到着したのは蔵を改装したシアタールーム。夜はバーになるというその部屋で、珈琲を頂きながらこの宿がどんな風に今の姿となったのか、宿主がこの建物に出会った頃からの歴史を映像で観させて頂いた。
「人が暮らすことで家は息をふきかえす」という考えのもと、本当にここに暮らしながら屋敷に手を入れていったという話には驚きを隠せない。

画像4

この宿では、夕飯は宿泊者全員で食卓を囲む。もちろん、1人でいらしていた女性も一緒に。
そして、宿主である登美さんと、この日は登美さんの起こした会社で働くみなさんも一緒に。

今回、わたしをこの場所に連れてきてくれたのは、智惠子さん。
わたしは衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境やそこで働く人びとと服がどんな関係にあるのか、ということに強い興味を抱いていて、そのことについて学び伝えることを仕事としているが、智惠子さんはひときわ強い哲学を持ってものづくりを行っており、長らく憧れの人だった。初めてお仕事をご一緒した時には、緊張して数日前からドキドキしていたのを覚えている。

そんな智惠子さんが「あなたが絶対訪ねた方がいい場所がある」と、今回一緒に旅をすることになったのだった。
実は、登美さんの会社もものづくりを行っている。というより、衣服をはじめとするものづくりが起点となって始まった会社で、宿はその過程で自然と生まれたものだった。会社を起こした時期が近いこともあり、登美さんと智惠子さんは古くからの友人だった。

画像8

野菜やお魚、土地の恵みが溢れんばかりに並ぶ食卓を囲みながら、みんなでいろんな話をする。
普段どんなことをしているのか、何に興味があるのか、そしてこの宿のこと、そのほかたくさんのこと、他愛のない話も。

メインディッシュの「おむすび」を食べ終えたあとも、しばらく話は止まらなかった。わたしは途中から、登美さんと智惠子さんのやりとりに聞き入ってしまった。ぽろっと話す言葉の端々に2人の生きる姿勢がにじみ出ていて、この会話に立ち会うことができたのが、この旅の1番の財産になるのだろうな、とその瞬間をしみじみ噛み締めるように過ごした。

画像5

大切な話がたくさんあったのだけれど、わたしが最も印象に残っている言葉がある。
それは、智惠子さんがお手洗いから戻った時のこと、ストックしてあるトイレットペーパーに一つ一つ芋版でデザインされた紙が巻かれてあるのがきれいだね、と言った時のこと。
登美さんが少し間を置いて「うつくしいってことは、大切だと思うんです」と、ゆっくり静かに言った。

文字にすると、なんてことのない言葉に見える。
けれど、あの空間で、居心地良さそうに屋敷に収まるものたちに囲まれて、この言葉を登美さんの口から聞くと、あぁ、本当に、うつくしさを手放さないことが大切なんだ、と思った。
良いか悪いか、好きか嫌いか、いろんな判断基準があるけれど、わたしはそれをうつくしいと思うのか否か。
何かを選ぶ時、決める時、「うつくしいかどうか」を自分に問うことで、本当に大切にすべきものを大切にできるのかもしれない。

画像8

食事の後に和ろうそくの光の中で入ったお風呂も、どっしりとした梁のあるお部屋のベッドで眠ったことも、朝の散歩も朝食も、すべてが素晴らしかった。けれど、この宿を心に浮かべるとき、まず思い出すのは、かけてもらったいろんな言葉たち、そしてあの食卓。

宿というのは、そこでしか生まれない人と人とのやりとりを与えてくれる場所なのだ。

画像7

文・写真:鎌田安里紗(モデル、エシカルファッションプランナー)


【過去の連載一覧】


【👼HOTEL SOMEWHERE 編集部より】
H&Mさん×未来に泊まれる宿泊券
プレゼントキャンペーンを開催中

SNS、始めました!
TwitterFacebookInstagramLINE@

よろしければ、ぜひサポートをお願いします💘いただいたサポートはホテルのさらなる満足度向上のために活用させていただきます🙇🙇