わたしが主人公の旅をしよう｜HOTEL in HOTEL連載vol.1「DENIM HOSTEL float」

「HOTEL SOMEWHERE」にて、新しい連載を始めます。その名も「HOTEL in HOTEL」。「HOTEL SOMEWHERE」というオンラインのホテルへ、いろんなホテルが出向いていただこうという、そんな企画です。

ここでは、CHILLNNに掲載されているおすすめホテルの方々に、「HOTEL SOMEWHERE」へと来ていただき、「HOTEL in HOTEL」を実施します。と言っても実際に空間はないので、この記事こそが「HOTEL in HOTEL」。この記事の中だけはオンラインに存在する別のホテルなのです。「HOTEL SOMEWHERE」の中で語られる日本中の素敵なホテルの物語。是非ご堪能ください。

初回は岡山の海を眺める高台に佇む「DENIM HOSTEL float」が出張してくれました。

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2年前デニムのホステルをつくろうと思い立ったとき、走り書きのように記したメモは、どこに出ることもなくPCフォルダの奥に眠っていて、引っ張り出して眺めてみると、ああ、今と何も変わらないなあと、とても安心した。

海だ。
キャンピングカーで全国を旅した兄弟。
辿り着いた終着点は、岡山県倉敷市・児島。
ものづくりが盛んなこの街で、宿をやりたい。
体浮かび、想い浮かべ、心浮かれる海の宿、その名も「float」。
「浮」という言葉を大切に、過ごすことで自分だけの物語をつくっていく場所。
すなわち、海暮らしの舞台上。ここでは、みんなが主人公なんだ。
floatを通じて、私たちの心にこの雄大な海を宿せたら、どんなに良いだろうか。
自分らしく居ることの誇りを感じられたら、どんなに嬉しいだろうか。
確証はないけど、確信はある。
さあ、新たな暮らしの幕開けだ。ともに表現しよう。

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ここは岡山県倉敷市児島、海の街に佇むホステル「DENIM HOSTEL float」。

限りなくおだやかな海の景色が窓から広がり、たくさんの島と、遠く橋の向こう側には香川を望むことができる。

デニムを基調とした内装は、もともと昭和の保養所だったという趣を残しつつ、豪奢でも簡素でもなく、等身大を心掛けてつくられた。

どこか懐かしく新しく、触れるモノが手に馴染むだけでなく、全体の空気が心に馴染むことへ重きが置かれている。

毎日繰り返される出会いと別れの時には、瀬戸内の風が吹き、旅の確かな思い出を宿が記憶する。一人ひとりが、ここを訪れたという事実を、後から来る人はデニムに刻まれた堆積によって知ることになる。

用意された答えじゃなく、自分なりのモノの見方で発見をし、それを喜びとして他者と共有できる瞬間、分かち合える瞬間のことを幸せと呼ぶならば、この海の宿は幸せを生み出せる場所かもしれない。

floatに泊まる人はみな、それぞれの部屋で眼前に広がる海を眺め、ここに来た理由をゆっくり考え、束の間心に海を宿す。

おそらく海は何も教えてくれないだろう。ただ海は、自分にとって大切なことは自分で決めないといけない、と気づかせてくれる。

そしてまた、木々の声や波の音、水面のゆらぎの美しさに自分が心を震わせられる感性を持つと知るのだ。

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そうしてやさしさに包まれた後はきっと、自分の中から生まれた実感のある言葉を誰かに話したくなる。

部屋からラウンジに行くと、他の宿泊者と居合わせる。こうした人生の交差は、宿における重要な役割の一つだ。

同じ日に同じ場所を選んだという奇跡は、人と人が心を通い合わせるために要する途方もない時間を軽々と飛び越え、旧友のように彼らを繋ぎ合わせる。

温かな空間に人見知りは似合わない。不思議といつもより饒舌になって、会話に自信が生まれる。ここでの出会いは縁（ゆかり）となって、わたしをわたしたちへと結んでゆく。

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旅は良い。なぜなら旅をしている時の自分は紛れもなく主人公だからだ。

自分で行く日を決め、行き先を決め、行き方を決める。こうして未来の半分が決まる。

後の半分は、旅で起きたことのすべてのことだ。出会う人はみな自分に新鮮な関心を寄せてくれるし、地元では見向きもしなかった有り体な景色や些細なことにまで、旅の最中ならきっと意味を見出せる。

こうしてわたしが主人公の未来が完成する。

用意された道じゃなく、自分なりの道で未来をつくり、それを喜びとして他者と共有できる瞬間、分かち合える瞬間のことを幸せと呼ぶならば、この海の宿「DENIM HOSTEL float」は幸せを生み出せる場所だと思う。

自分が主人公の人生を生きよう。そのために旅はとても良い方法だ。

いつかでも、いつでも。

文：山脇 耀平（DENIM HOSTEL float）