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母になった今だからこそ。八丈島で夢叶える女将の覚悟|偏愛、わたしのホテル #10

L&Gで働くスタッフや、いつも応援してくださる皆様と一緒にお届けしてきた「なくならないでほしいホテル」から派生して、新連載をスタート。ホテルの中の人を執筆者に迎えた「偏愛、わたしのホテル」をどうぞお楽しみください。


東京から南へ約300キロ。
道路にはビロウヤシが立ち並びハイビスカスが咲き誇る島。
海と山に囲まれた都会に近い南国、伊豆諸島八丈島。

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昔も今も観光地として観光業を中心に、農業、漁業に力を注ぎ、田舎過ぎず都会過ぎない丁度よさが魅力的で、適度に自然に触れられ交通の便も良いことから利便性が高く、移住者に好まれる島。

名産は、今日摘んでも明日には芽が生えるほど生命力が強いといわれる明日葉。伊豆七島ならではの独特の香り漂うクサヤ。10種類以上ある島の焼酎、そして海の幸。少しシャイだけど人情味にあふれ、仲良くなったらめちゃくちゃ世話を焼いちゃうという特性を持つ島人。

ダイビングにシュノーケリング、トレッキング、ホエールウォッチング、温泉、満天の星空の下でお散歩と、アクティビティには事欠かない“THE南の島”。

そんな島で私は、民宿の娘として生まれ育ちました。

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かつて観光地としてにぎわった八丈島

我が家は祖父母の代から「ささお荘」という民宿を営んでいました。季節の食材をふんだんに使った食事が美味しく、心のこもったおもてなし、お仕事の人やダイバー、たくさんの観光客に愛されとても人気の宿でした。

記憶に残る子供のころのの我が家はいつもにぎやかで、宴会場から聞こえる笑い声や鍋の音、煙草の匂い。「お嬢ちゃん、ビール頂戴!」というおっちゃんの声。忙しく厨房を行き来する母と祖母。ビール瓶を運ぶアルバイトのお姉さん。

お布団の上げ下ろし。夜は床に雑巾をかけ、朝は玄関の掃き掃除。

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人見知りだった私は知らない人がいつも出入りする民宿が少し嫌で、お客さんに愛想をふりまくなんて、なかなか出来ない子でした。「また来ます!ありがとうございました!」そんなお客様の声もただの毎日の風景。その言葉に込められた思いなど幼い私にはわからないまま。苦労を重ねた母の顔を見ると、民宿を継ぐなんて嫌だな、と。そんな娘の気持ちを察してか知らずか、両親ともに私に民宿を継がせようという気はありませんでした。

早く島を出たい。東京に行きたい。

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時は流れ、時代と共に人口の減少、観光客の減少、家族の高齢化。私は巣立ち、反抗期を抱えたまま島を離れていきました。

そして、「ささお荘」は閉館。

「ささお荘」は私の成長とともにあった

それから10年、母になり二人の子供を連れ再び島に帰ってきた時には、民宿の箱だけ残された我が家がありました。箱だけの「ささお荘」を眺め、かつての賑わいを思い出すとふつふつと思いが込み上げてくる。母になった今だからこそ思い出す記憶がありました。

そこには、私の成長とともにお客さんがいた。お客さんが遊んでくれた。知らない土地のお話をしてくれた。本を読んでくれた。ゲームをして笑わせてくれた。大きな魚を釣ってきてびっくりさせてくれた。お掃除をしてる私を偉いねって褒めてくれた。

私を育ててくれたのは、両親だけじゃなかった。

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ああ。そんな場所をもう一度作りたい。子供たちにも見せてあげたい。出会うことの喜びと、出会うことの大切さを。気づくのが遅くなっちゃったけど、祖父母が残した「ささお荘」を、父母が作り上げた「ささお」を、もう一度やらせてもらいたい。お客様に会いたい。そして今度は心からありがとうを言いたい。

一念発起し、宿をやる決意を固めました。

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しかしそう簡単に宿を受け渡してもらえるはずもなく。。。観光最盛期の「ささお荘」を切り盛りし、走り抜けてきた商売人の両親は私の甘い考えに猛反対。猛反対どころか聞く耳持たず。お前に出来るわけがないと。そこを説得に説得を重ね、金も出さない手も出さない口も出さないという明言の元中で、なんとか了承を得られることに。この了承を得るために約1年間。

今思えば、苦労に苦労を重ね体を壊しながらも踏ん張ってきた昭和の団塊世代からこそ、私に同じ苦労をさせたくないという優しさの塊の明言。私はどうして、いつも気づくのがワンテンポ遅いのでしょう。

「Guest house sasaosou」としての再出発

八丈島の旅の出発点になりたい。いってらっしゃいとおかえりなさいの場所になりたい。思い立ってから1年半。築40年の箱をリノベーションし民宿の昭和感と新しいモダンを取り入れ、ゲストハウスとして、2020年3月に「Guest house sasaosou」は生まれました。

ここに至るまでに、島の人たちの協力なしではやりきることは出来ませんでした。島人、友人の思いがたくさん詰まった宿の完成です。

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満を持して迎えた2020年3月の3連休。素泊まりの形態で始めた「Guest house sasaosou」。

共有のキッチンでお鍋を作る旅慣れたお客様。小さい男の子を連れ何年かぶりに島を訪れた親子。一人旅を満喫し笑顔で戻られる男性。夜は共有スペースでお酒を飲み鍋をつつきながら楽しいおしゃべり。話していくとお客様同士で意外な共通点を見つけたり、先ほどカフェで会いましたねなんて会話に花が咲いたり。

忙しくて楽しくて嬉しくて、
「また来るね」
「頑張ってね」
「ありがとう」
の言葉に、今度は間違いなく心からのありがとうございましたを言い、さよならの時には涙をこらえるのが必死でした。それぞれの歩き出す旅にそっと添えられる手があれば、その旅はより一層色濃くなり、見える世界も変わってくるはず。

人見知りだった民宿の女の子は、人が大好きな女将へと変わっていき、この先の未来、ずっと旅人に寄り添いたいと覚悟を決めました。

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と、思ったらまさかのコロナによる世界的緊急事態。
開店休業。

八丈島は離島ということもあり、お年寄りも多く医療過疎な地域。
来島の自粛をお願いし、我が宿も休館。

ピンチはチャンスだ。
もっともっと居心地の良い空間づくりを作りあげていけばいい。

始まったばかりだけど、いやほぼ始まってもいないけど、
こんな時だからこそ、島に出来ることがある。
考えて、思い描いて、生み出すことが出来る。

未来に思いを巡らせながら、今はお客様にお会いできる日を心待ちにしたいと思います。

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ゆめをかなえる

小学生の息子の自主学習ノートにこんなことが書いてありました。

「ママのすごいところは、やりたいゆめをかなえるところ」

その言葉に何度助けられたか。
大丈夫。
諦めなければ夢は叶うよ。
ここに来るみんなが教えてくれるから。

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最後まで読んでくださいましてありがとうございました。ただいま「Guest house sasaosou」だけでなく全国のお宿が「未来に泊まれる宿泊券」を販売しています。


いつか、大好きな場所に自由に行けるその時のために、全国の宿泊施設をご支援頂けると幸いです。

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文・写真提供:沖山 理沙(Guest house sasaosou)


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偏愛、わたしのホテル|過去の連載一覧より


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