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星野リゾート星野代表 × 龍崎翔子 「ホテルコンセプトの源泉と30年後の夢」

4月に行われたNIKKEIとnoteによる会員制コミュニティー「Nサロン」での星野佳路・星野リゾート代表との対談の様子をまとめてお届けします。

星野佳路・星野リゾート代表|1960年、長野県生まれ。1983年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院へ留学。1991年に大正3年から続く星野リゾートの3代目社長に就任。ホテルを所有せず運営するという事業スタンスで「星のや」「界」「リゾナーレ」などを展開。最近では新業態「OMO5」やミレニアル世代の向けの新ブランド「BEB5」などをオープン。

青木:訪日外国人向けのMATCHAというサイトをやっている青木と申します。本日はモデレーターを務めさせていただきます。星野さんとは一年半前くらいに当社の株主になっていただいたことをきっかけに仲良くなり、今では東京よりもスキー場で会うことの方が多くて(笑)、経営の相談もリフトの上でやるような感じです。龍崎さんとは1年半くらい前にお会いしましたね。本日はどうぞよろしくお願いします。(自己紹介を経て)まずは、お二人のホテル作りにかける思いについて教えてください。

龍崎:私が大切にしているのは「ホテルはメディアである」ということです。ホテルは寝る場所だと考える人が多い中で、もっとホテルには余白があるんじゃないかなと考えてきた中で見つけた答えなんですが、ホテルはゲストと街、人、文化をつなぐものだと思うんです。旅行に使うお金の大半が交通費と宿泊費で、街に落ちるお金はほとんどが宿泊費です。だとすれば、顧客満足度を上げるためにもホテル自体が街をプレゼンするべきだし、宿泊費をきちんと街に還元すべきだなと。また、ホテルはカフェなどとは違って、世界中の多様な方が同じ空間に集まる特徴的な箱で、いわばライフスタイルを試着できる場所なんじゃないかと思います。雑誌とは違ってホテルをメディアと捉えれば、4次元的な体験ができるメディアになるんじゃないかなと。私はこれらにもとづいてホテル作りをしています。

星野:今の話を聞いて、すごく真剣にホテルを見てくれているのが嬉しいと思いました。そして、自分に照らし合わせると、僕は実家が温泉旅館だったからという理由で、あまり深く考えてこの世界に入ったわけじゃないなと。僕は年間のうち60日は滑走をしていて、(モデレーターの)青木さんも一緒にニュージーランドの山頂までスキーに行きました(笑)。仕事にも一生懸命ですが、スキーも一生懸命にやっていて、それでも年間残りの305日は仕事をしているので社員に許してもらっているという状況です(笑)。よろしくお願いします。


ホテル激動の時代の競争力はどうやって身につける?

青木:さっそくですが、まず、ホテル業界の現状について聞けたら思うのですが、日本のホテル市場の変遷についてざっくりと教えていただけますか。

星野:すごくざっくり言うと、日本のホテル業界の栄光の時代は1980年代前半なんですね。日本のホテルが世界のランキングでトップを獲った。日本のホテルが世界を極めた時代です。ちょうど所有から運営にホテルのあり方が変わったタイミングで、日本のホテル会社は世界に出ていくも、ことごとく失敗して戻ってきます。私としては失敗の原因は「なぜ日本のホテル会社がわざわざ西洋に来てホテルをやるのか」に答えられなかったことだと思うんです。ここが世界の人にしっくり来なかったんですね。そうして日本のホテル業界は低迷し始めます。今や世界のホテルといえば欧米の運営会社ばかりで、日本企業は日本にとどまっている。さて、これからどうしようかというのがざっくりした変遷ですね。

青木:ありがとうございます。龍崎さんはいつからホテル経営を?

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龍崎:2015年5月からです。私は中学くらいの頃に金沢とか仙台に行くと、マジで選択肢がないなと思っていたんです。富裕層のためのラグジュアリーホテルとリーズナブルなビジネスホテルという二極化で、後者は特に価格とか駅からの距離とか、定量的な違いでしか勝負をしていない。これはあくまで私の目線から見た日本のホテルなのですが、大きな転機は2011年くらいにゲストハウスが急激におしゃれ化した頃だと思うんです。泊まれるカフェみたいなのが急増した。SNSが発達し始めたので、バックパッカーたちが質の高いゲストハウスを共有できるようになったんですね。これに目をつけて不動産系のゲストハウスが2015年くらいから急増しました。最近では「ライフスタイル系ホテル」と言われるものが増えています。日本にはもともと「CLASKA」とか「HOTEL ANTEROOM KYOTO」のようなブティックホテルがあったんですが、ここ数年で一気に増えて、さらにディベロッパー的なホテルが増えたなというのが私の思う最近のホテル業界です。

星野:結局、ホテルは真似しやすいんですよね。どこかがやっているとなれば、みんな同じようなものを作る。競争力のあるものは、表面的なデザインじゃないということがいつも私の中にはあって、源泉がどこにあるかを見極めないとすぐに古くなるし、みんな真似し始める。そんな中で、どうやって10年も15年も投資回収をするのか。それは、表面的なこと以外に競争力を身につけないとやっていけないなと思うわけです。

青木:星野リゾートの競争力の源泉はなんなんでしょうか。

星野:僕らの場合は生産性ですね。私はホテルの栄光の時期から衰退が長びく中で、再び日本の会社が世界に出て行くシナリオをつねに考えています。今更ながら世界に出ていくために勝ちうるパターンを踏襲していくこと。これまでの外資系ホテルとは違った運営をする。その違った運営の中身にこそ生産性の秘けつがある。だから投資家たちは私たちを採用する。こう言う流れを作らなければ今更海外に出ていって競争する意味がないですから。生産性に競争力を持つということ。生産性を高めて、利益率を高めていく。これしかないと思っています。

龍崎:生活者視点で、星野リゾートが選ばれる強みはどこにあるんですか?

星野:つねに新しい競争力を持つことです。ホテルは舞台でしかなくて、そこで演じる役者は社員だと思っています。だから、モチベーションの高いスタッフが新しい魅力を作っていく土台を作る。もちろん、その部分でさえも、真似されるという覚悟をしています。つねに新しい舞台を作るソフト力こそ必要なんだと思います。

龍崎:商品開発力みたいな。

星野:そうそう。そして、その売り上げからどのくらいの利益を残すのか。そこにこそ真の競争力があるんです。

青木:龍崎さんは?

龍崎:まさに同じことを言おうと思っていたんですが、どうやって人が集めるのかは、顧客のインサイトをつかんだ商品企画力にあると思っていて。例えば、湯河原(THE RYOKAN TOKYO YUGAWARA)は赤字2000万円の状態で運営を引き継いだんですが、運営する中で「原稿執筆パック」という企画が生まれました。学生さんが卒論を家で書くのも大変だろうから、温泉に缶詰になって書きましょうというプランをかなりお買い得な価格で作ったんですね。温泉側が何かをするのではなくて、お客さんが家ではできてないことを持ってきてください、というスタンスでやったらすごくバズって。そこに“缶詰需要”があるんだというインサイトを発見して「大人の原稿執筆パック」を作ったら、思った以上の反響を得られて。お客さんの視点に立って、潜在的なニーズを掘り起こすことで稼働率を高め、V字型回復を実現できました。

あと、私たちはSNSが得意で、UGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)というお客さんが投稿してくれたコンテンツの活用が強みだと思っています。人ってなかなか言語化能力がないので、写真一枚で体験がよかったと伝えられることが、宿泊体験を完成させる最後のワンピースだと思っています。インスタ映えすることが私たちの源泉ではないんですが、壁とか背景とかキーホルダーとか、写真を撮りやすいスポットを作ったりお客様が周りの人に魅力を伝えたくなるような仕掛け作りに強みがあると思います。


ホテルコンセプトを作る企画力の磨き方

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青木:今回お二人の共通点として、ホテルのコンセプト作りとか、言葉作りがすごいなと思ったんですね。星野さんが以前「スキー場経営の肝は駐車場経営だ」と言われてて、めちゃくちゃキャッチーじゃないですか。雪の中では駐車線が見えなくなるので、止め方が雑になって、お客様の満足度が下がって、運営コストも上がってしまうということだそうですが、こんなにキャッチーに伝えられるのはすごいなと。龍崎さんもそうなんですが、どうやって言葉の感性を磨いているのか、聞いてみたいのですが。

星野:自分の表現力を磨こうなんて思ったことはないですが、僕の場合は31歳で代表に就任してからのキャリアが長いんですよね。最初リクルーティングをやっていたのですが、どうやってうちの会社に入ってもらうかを考えて続けた結果、投資家や銀行の説得もそうですが、いかにコンパクトに記憶に残る表現で語りかけるかが重要だと気づいたんです。そうした経験の積み重ねが今の表現力のもとになっているんじゃないですかね。

青木:ちなみに銀行はどうやって説得をするんですか?

星野:銀行には「必ず儲かります」と言うしかないですね(笑)。自分が思っている以上に自信があるということを言わなきゃいけない。演じなきゃいけない。これは経営者がやるべきことなんです。そして、言った以上はそれを実現すること。再生事業というのはそういうものですよね。

青木:なるほど。龍崎さんは?

龍崎:今の話を聞いて、私は感性と言葉のルーツが別だなと感じていて。感性については、自分がセンスいいとは思ってないです。消費者としての自分を認識することが大事で、社訓でも“Stay Street”と言っているんですが、こういうのいけてるとか、何がほしいということを解像度が高くなるまで突き詰めるんです。わかりやすい方法論としてはPinterestを使って、ひたすら画像をいっぱい見る。Pinterestって抽象検索に向いていて、「プール」って検索するといけてるプールが無限に出てくるんです。それをずっと見ることで、鍛えられていくのかなと。

言葉については、小中一貫校で生徒会をしていたんですが、全校生徒の前で小学生でもわかりやすく喋るという必要があって、いかにパンチのある言葉で伝えるかは工夫していましたね。自分が伝えたいことを誰かに対して言語化する機会ってあんまりなくて、私はインタビューされることで、考える機会が多かったというのもあると思います。

青木:星野さんもたくさんインタビューされていますよね。

星野:数をこなす。自分で磨こうと思ったわけではないですが、結果的にそうなりましたね(笑)。


「まずはまわりがやっていることに反対してみる」

青木:今日は龍崎さんからも聞きたいことがあるとか。

龍崎:はい。星野さんのホテルはどれも普通であろうとしていないと思うのですが、新しくホテルを作るときに、拾い上げたコンセプトをどのように実装しているのか、すごく興味があります。

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星野:新しいホテルはもちろんですが、同じホテルを来年どう進化させるのかをつねに考えていて、いろんなアイデア出てくるんですけど、最後は数字ですね。私は天邪鬼なので、逆から入るんです。まずはまわりがやっていることに反対してみる。熱海って男性の温泉地という印象なんですが、そこに子供連れて行ける施設を作るとか、常識に対して真逆でやってみる。そして、そこからスタートするといろんなアイデアが出てくるんですが、最後にピックアップするのは数字なんですよね。じゃあどこで差別化するかといえば、最初のコンセプトなんです。最初にめいっぱいぶっ飛んだものを作って、どう王道にはめていくのか。

龍崎:従業員のアイデアでもいいもの、微妙なものがあると思いますが、どう折り合いつけるんでしょうか。

星野:プロセスがしっかりしているかどうかを重視しています。僕は、実は最終うまくいくかのジャッジに自信がなくて。たとえば奥入瀬渓流ホテルでは「苔」が大ヒットしたんですが、僕はずっと疑ってたんです。でもあれはプロセスが非常に良くて、渓流といえば紅葉と国立公園とかのイメージなのに、そこに反発している。そして、奥入瀬は日本で一番いろんな苔が繁殖する場所という背景もちゃんとある。背景がちゃんとしていないものは本物だと思わないし、長続きしない。

奥入瀬では冬がどうしても赤字になるからクローズしていたんだけど、現場がどうしても冬もやりたいというので、今は冬も運営をすることにしました。冬を開けて2年経ちますが、まだ赤字ですよ。でも1年目より2年目はかなり良くなっていて、もしかすると長期的にはいけるかもしれない。プロセスがしっかりしていれば、こうした挑戦もやってみる価値がありますよね。僕が一番嫌なのは「この場所はこれが売りだ」という世の中の常識とか旅行会社の期待とか。そういうのに反発したいんです。

龍崎:めっちゃわかります。こすられていることやっても意味ないですからね。

青木:龍崎さんのホテル運営における原理・原則ってなんですか。

龍崎:街の空気感を盛り込むことです。その街を解釈することは絶対にどこでもやっています。ただ「その街らしさ」をどのように表現するか?は個性的だと思います。京都だから「和」みたいなことはしたくないですね。「HOTEL SHE, KYOTO」の最終コンセプトは“最果ての旅のオアシス”なんですけど、これは東九条という(ホテルのある)街の歴史と今後がどうなるかを考えた結果で、それは自分の中では京都っぽさだったんです。

もう一つ、ブランド力のある場所ではやらないこと。たとえば、私が代官山でホテルをやったら、それは代官山らしさにただ乗っかってるだけになってしまう。ブランド力のある場所は、過去に頑張ってきた人がいるからこそじゃないですか。そこに乗っかるよりは、新しいところでお店を始めることで、街の評価を高めるような事業をやりたいんです。

星野:率直な質問何ですが、今やっている5軒というの利益は出ている?

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龍崎:それが、出てるんですよ。

星野:それはすごいですね。このパターンは新しくて面白いけど、利益を出す構造が大変だなと思っていて。どういう構造になっているかが一番気になってます。「原稿執筆パック」の料金体系なんかすごく厳しいでしょう。

龍崎:利益率は高くはないですが、閑散期や平日の連泊などで稼働率が高くなり、全体的な売り上げの底上げになっているんです。

星野:直接予約はどのくらい?

龍崎:湯河原だと80%くらいですね。

星野:それは、すごいですね。

青木:さすが、プロ目線の質問ですね(笑)。


ホテルの従業員はみな支配人を目指すべきなのか?

青木:続いて、組織としてのインセンティブ設計やキャリアパスについて伺いたいと思います。星野リゾートでは「リゾート運営の達人になれ」という目標を掲げていますが、10年くらい星野リゾートで働いた友人に実際のところを聞いたら「達人なりました」と言っていて、20〜30人くらいのホテルなら回せますと。会社が目指したい方向性と個人のキャリア像が合致しているのはすごいなと思ったんですが、お二人は会社としてどのように個人のインセンティブ設計をしているのでしょうか。

龍崎:ホテルでは一般的に支配人を目指したり、運が良ければフリーランスの支配人のようなポジションになるというのが通常のキャリアパスですが、私たちは社員を接客業の人としては育てていなくて。ホテルは衣食住が関わる産業だし、制度設計や企画など多様な職種によって作られる総合芸術的なビジネスだと思っていて。接客以外のその人の職能を掛け合わせることを重要視にしていて、最終的には接客とともに何らかの職能が極められることを目指しています。

星野:私はちょっと古い時代の概念かもしれませんが、やっぱりみんなに総支配人を目指してほしいんですね。僕にとって総支配人は目指すべきスーパーマン。なぜかというと、総支配人になれるということは、どこの国に行っても食えるだけのスキルだと思っているんです。もし定年まで星野リゾートにいなくても、星野リゾートにいてよかったと言ってくれることが大切で、私たちはいろんな価値観を許容しつつも、こうしたキャリアをしっかりサポートできる体制を整えているんです。


うまくいかない案件の見極め方

青木:なるほど。ありがとうございました。最後に、質疑応答の時間を設けたいと思います。

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会場:ホテルではインバウンドが伸びているということですが、いろんな国のいろんな文化に直接触れられるということに対する大変さ、運営の中で得られた、組織としての複雑性に対する知見はあるんでしょうか。

星野:インバウンド顧客が増える前から、掃除やフロント、飲食、マーケ、運転手など、ホテルには社会の中のいろんな階層の人が働いていて、ホテルそのものが異文化体験なんです。だから、インバウンドが増えたからといって問題意識はそれほどないんです。一番難しいのは、外国人スタッフが入ってくれたことですね。外国の方が日本に住んで仕事をしていると、たとえば礼儀に対する考え方も違うわけで、彼らを一員としてエンパワメントしていくことが大きなチャレンジなんです。私もそうでしたが、外国で仕事していると、ちょっとしたことでも疎外感を感じるんですよね。仕事をする上で、変な疎外感を感じないようにしていこういうことはつねに考えています。

会場:両者とも事業再生のスキルが非常に高いと思うのですが、どうしても立ちゆかない案件の見極め方、最後にやるかどうかを決める条件を知りたいです。

星野:たとえばホテルの再生をするときに、これは語弊を招く表現かもしれませんが、ダメなら最悪全部壊そう、みたいな覚悟が大事なんですね。引き継いで良くしていく中で、最後の覚悟を持っていくことは大切です。僕が一番気にしているのは違法建築ですね。これが地方旅館には意外と多くて、登記簿にない部屋があるとか(笑)。これはお断りするパターンです。あとは、星野グループとして日本のいろんなところに旅をしてほしいという思いがあるので、これまで進出していない場所の案件を優先することはあります。

龍崎:ちなみに、星野リゾートさんのレベルになると、今でも仕入れにお金かかるんですか?

星野:話は勝手に来ますけどね。これまで所有をせずに運営をするということを続けて来ましたが、投資家と話をしていると合意に時間のかかることが多くて、自分で買い取った物件を早く収益化して引き渡してしまうことも増えました。そうすると最初お金はかかるのですが、3年で引き渡すと決めることで運営もしやすいし、最初の資金も集めやすいんです。

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龍崎:もう一つ伺いたいのですが、ある程度その地域に商圏があって客層が見えていると予測は立てやすいと思うのですが、たとえば高知県の足摺岬のような途方のないところの案件だと、どうやって試算するんですか?

星野:来る理由を作るんです。僕らも最初は全然いいところの案件なんかなくて、竹富島とかトマムとか、需要を作ってきましたから。誰も来ていないところでもきっと何かいいところがあって、しかも、唯一いいことに競合がいない。そうなると自治体の協力も得やすいし、うまく組めば独壇場になれるという発想をしますね。もちろん、アイデアがあってもやっぱりやめよう、みたいなこともありますけどね。

龍崎:では、この案件はやはりやめよう、などと絞っていく基準はありますか?

星野:基準は、ないですね。最後はまわりに雪が降るかとか(笑)、その程度ですね。

青木:そしたらスキーができるわけですね(笑)。龍崎さんはの見極め方は?

龍崎:私たちも積極的に営業はしていなくて、案件ベースで来ることが多いんですが、たとえば湯河原では、うちらと同じような旅館って意外とないんですね。ある程度商圏がある中で熱海と比べると湯河原には20代の来客が少ない。ということは需要喚起の仕方次第で伸ばせるだろうと。ただ、まだサンプルが少ないので、これからですね。


これからのホテル業界で働くために必要なこと

会場:スタッフから出たアイデアを採用しても企画がフェードアウトしてしまうことがあって。社員が熱量を維持する秘けつはありますか。

龍崎:アイデアの責任者のモチベーション管理は店舗のマネージャーがやってくれていて。これは実際に運用している支配人の意見を聞きたいですね。(会場にいる湯河原の支配人に)どうやっているんですか。

和田(支配人):世に出してみないと反応がわからないということで、アイデアベースで最低限のルールを決めて、走り出してみて、ダメだったら改善していくことがほとんどですね。

星野:上の真剣さが伝わっていないのかもしれないですね。しつこさは大事ですよ。マネジメント側の情熱は伝わるので、いかに大事にしているかを伝えることですね。あとは失敗作にあまり長くひきづられないことが大切だと思います。いくらでもトライすればいいですから。それから、投資家やオーナーなどには月ベースで状況を報告をするんですが、これはすごく危なくて。短期的なマイナスに奔走することは危険なんです。たとえば6月がまずいと思ったら、日本人は真面目だからそこをどうにかしようと頑張る。だけど、4月の時点で6月のことをやっても、そんなに変わらないんです。本来4月には夏以降のことをやるべきなのに、生産性の低い月の努力をしているわけです。6月にダメならダメだと早く割り切って先のことを考える。相撲じゃないですが、12カ月あるなら7勝5敗でいいんです。これは大事な発想だと思います。

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会場:実はもともと龍崎さんを知ってホテル業界に憧れて、いろいろと調べているうちに星野リゾートでどうしても働きたいと思うようになりまして(笑)、これからのホテル業界で働くために必要なことを知りたいのと、星野リゾートに入るためには今のうちに何をすればいいんでしょうか。

星野:もうね、合格(笑)。私たちが大事にしているのはダイバーシティなんです。だから、今の組織にない能力を大切にしています。卒業までにすることは、語学と旅。これは明確です。旅をすると顧客視点になれるので、顧客がどうされた時にどんな感動を得るのかを考えられるようになるんです。

龍崎:これはホテル業に限らない話ですが、他責思考だとダメだなと。自分がなにをしたいのかが明確にあって、そのために自分の力や他人の力を使って、実現できることが大事だと思っています。そもそも会社が社員を雇っているのは、何らかの課題解決のためなんですね。その課題を見つけて、見つけた時に自分が解決するためのロードマップを引けるかどうか。あと、これは個人的な予想なんですが、星野さんはこれから若者が行きたくなるホテルを作りたいと思うんですよね。

星野:ありがとうございます(笑)。

龍崎:だから若者の心理を理解すること。若者って自分のことだと思うので、自分の消費行動がどうなっているのか、それを解像度が高くなるまで言語化することじゃないでしょうか。


2人が描く30年後の夢

会場:仕事柄ホテルに泊まることが多いんですが、星野さんはたくさんの従業員を抱えていて、地方のスタッフにいたるまで、どうやっていい印象をお客さんに持って帰ってもらえるように設計をしているのですか。

星野:一言で言えば、スタッフの自由度を増すことだと思っています。ルールとかマニュアルからいかに解き放つか。ホテルで働いていたら、みんな自分の地域がいいところだと思ってほしいわけですよね。ヤン・カールソンが書いた「真実の瞬間」という本があるんですが、その気持ちを行動に移す方法が書いてあります。

龍崎:具体的にお客様に対して何をすればいいのかを考えるのって意外と難しいですよね。私たちは「カスタマージャーニーマップ」をみんなで作るんですが、どうやって予約をして何でここまで来たのか。チェックアウトをして帰宅するまでの一連の流れを細かく追っていくと、自分が旅する以上に顧客の気持ちがわかるし、これをチームでやることで組織としての意思統一もできるようになりました。

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会場:最後にお二人の10年後の夢を聞きたいです。

龍崎:これは30年後かもしれないですが、ホテルはいつか減ると思っています。自動運転が普及した時代には、泊まるだけのホテルは淘汰されていきますよね。ホテルがなくなる時に私たちは何を消費するのか。30年後の世界にとって欠かせない商品を作っていくことが夢で、今はその種まきをしています。

星野:僕は反対にホテルは増えると思っているんです。全世界でまだまだ旅をしたことない人が多いけれど、どんどん旅をしやすくなりますから。星野リゾートとしては、かつて日本のホテルが世界のトップに君臨した時代から30年近く悔しい思いをし続けているわけです。だから、ふたたび世界で通用するホテル会社になりたい。僕の時代にどこまでできるかわからないんですが、その足がかりになる案件をこれから10年のうちにやって、後に引き継ぐことが僕の仕事かなと思っています。

青木:なるほど。本日はありがとうございました!


(文・写真:角田貴広)

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