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ホテルラバーたちが今、注目してるホテル会社ってどこだ?|ホテル妄想会議 vol.2
不定期新企画「ホテル妄想会議」のvol.2が実施されました。日々公私ともにホテル漬けのL&Gメンバーが集まり、思い思いのホテルトークを繰り広げるという当企画。今回は「今、このホテル会社が気になる」をテーマに座談会を実施しました。あいかわらずゆる〜い内容ですので、仕事に疲れた時の息抜きなどに是非ご活用ください。
-愉快な今宵の参加者たち-
龍崎翔子:ホテルプロデューサー、満を持して2回目より妄想座談会に登場。誰よりもホテルをこよなく愛し、息をするようにホテルリサーチをこなす弊社L&Gの代表。
谷本好:SNS運営などを統括するHOTEL SHE,のブランドディレクター。日本中のホテルを転々と飛び回る生粋のホテルラバー。通称、このみん。
田中幹人:HOTEL SHE, KYOTOで働くホテルマン。ブティックホテルとHIPHOPをこよなく愛し、SNSでのホテル情報発信に絶大な信頼を得ている。通称、串カツ田中さん。
角田貴広:HOTEL KUMOIやHOTEL SHE,の企画、HOTEL SOMEWHEREの編集などを担当。北海道での長期滞在を経て、気がつけば京都の冬を楽しんでいる今日この頃。
ILLUSTRATION BY あさぬ〜
※第一弾はこちらから
進化を続けるUDSという組織のパワー
(MUJI HOTEL GINZA / 写真提供:UDS)
龍崎:第2回妄想座談会のテーマは…そうですね、「今、このホテル会社が気になる!」なんてどうでしょう。
角田:いいですね。あれこれ語っていきましょう。
龍崎:では、私からお聞きしますね。皆さんがぱっと思いつく「すごい」と思うホテル会社ってありますか?
田中:そうだな〜、でもここはまず翔子さんからお願いします…!
龍崎:超王道ですけど、やっぱりまず思い浮かぶのは、星野リゾートですね。ホテルとしての品質と経営としての合理性のバランシングがものすごくいい。盤石というか足腰が強いというか…。個別のホテルとしてすごいなと思うところはたくさんあるけれど、それを安定的に持続的に展開する会社・企業として、星野はすごいなと思っています。
角田:まあ、星野はダントツですごいですよねぇ…。
一同:(笑)。
龍崎:そうなりますよね(笑)。私たちでなくても、みんなまず星野を出すと思う。ということで、今回はあえて星野からはちょっと離れましょう。他だったら、UDSとかBackpackers' Japanとかも、匹敵するくらいすごいと思ってます。
田中:でも、UDSが出てきても「ですよね〜」ってなりません?
谷本:「MUJI HOTEL」みたいな、UDSが経営してるホテル自体はみんな結構知ってるけど、UDSっていう名前は知られていないって感じじゃないですかね。
龍崎:そうかも。「ANTEROOM KYOTO」とかも、まだまだホテル通が知るホテルって感じじゃない?でも、たとえば、栃木県のパート勤務のお母さんとかでも、星野は知ってるじゃん。
谷本:そう思うと、やっぱり星野はすごいわ。
(CLASKA / 写真提供:UDS)
角田:じゃあUDSのすごいところってどこですか?
谷本:え〜!UDSはすごいですぅ〜!!!
田中:熱がこもってるねぇ(笑)。
角田:そのすごさを語ってよ(笑)。
谷本:でも、私のは経営的な観念ではないかも。
角田:全然いいんじゃない?
龍崎:うん、いいと思う。
谷本:個人的に、UDSはバランス感覚がめちゃめちゃいいなと思います。店舗によってクオリティが違うという課題って、ホテル会社のあるあるじゃないですか。UDSは、多少違いはあれど、どこも高いクオリティを保ってるなと。あとは、展開しているブランドによって出している色が違って、いろんなパターンの色があるんですよね。たとえば、「ONSEN RYOKAN 由縁」は、幅広い層のお客様を視野に入れてある程度万人受けするような内装や空気感をつくりつつ、各層の人が「ここが好き!」と思えるポイントをそれぞれ押さえてる感じがします。
角田:それでいうと、UDSって名前を表立って出してなくても、設計や運営にこっそり入ってるホテルもたくさんあるからすごいなあと思う。
谷本:それも思う!
龍崎:UDSは、結構昔から先進的な取組みに昔から力入れてやってきてるのがすごいと思います。ソーシャルアパートメントもそうだし、「コーポラティブハウス(複数の人が集まって共同で土地を購入し、設計・管理をしていく家づくりの仕組み)」とか、キッザニア東京もUDSの企画なんですよ。
田中:たしかに。
龍崎:「CLASKA」は日本のライフスタイルホテルの草分けだと思う。日本の他のプレーヤーがブティックホテル領域にばーっと参入するはるか前からそこに取り組んでいるんですよね。さらにすごいのは、その歴史を積み上げつつ、いつまで経っても古くならないってところ。UDSの作る空間を見ていると、一旦作って終わりじゃなくて常にしっかりアップデートされ続けているのが分かります。こだわりと美意識と愛を持った人が、空間をちょっとずつつねに良くし続けてきたその歴史の蓄積があるからこそ、今のUDS空間があるんだなぁと。
谷本:それ、めっちゃ分かります。
龍崎:「ホテル カンラ京都」も「ANTEROOM KYOTO」も「CLASKA」も、オープンして10年以上経つと思うけど、常にちょっとずつ進化していて。でもそれを「私たちは常に変わり続けているんです!」みたいな押し付けがましい見せ方にはせず、ちょっとずつちょっとずつ良くしていって、ホテルの質がずっと右肩上がりになっているという感じがまたいいですよね。
造船会社を親に持つ尾道屈指のホテル会社
(photo-Tetsuya Ito / Courtesy of ONOMICHI U2)
角田:他にはどこかありますか。
龍崎:そうですねえ、「ONOMICHI U2」とか「LOG」とかやってるTLBとか。
田中:どういう会社なんですか。
角田:もともと造船会社とか、色々な事業やっているところですよね。
龍崎:ですです。地域振興が土台にある会社って感じ。「ONOMICHI U2」みたいな一泊1万5000円くらいのホテルから、一泊5万円くらいの「LOG」、15万円くらいの「ベラビスタ」、そして「guntu」みたいな一泊100万円クラスのホテルまで、めっちゃ広い価格帯で経営してるんだけど、「瀬戸内の魅力を伝える」という一点フォーカスで、各価格帯における最高レベルのものを作ってるのがすごいんですよ。UDSだったら、基本どの宿でも一泊1万円〜3万円くらいのレンジだし、星野も差はあるけど強みは高級宿。その中で、そのどの価格帯においても、かなり品質の高いものを作っているというのは、すごいと思う。
角田:今、(親会社である)常石グループのサイトを見てるんだけど、ここびっくりするくらい規模が大きいね。グループ会社が50個くらいある。やってる事業もめっちゃ幅広いんだけど、その中の「ライフ&リゾート」って分野にホテル事業が入ってますね。他に、環境とかエネルギーとか農業とかの事業もある。
田中:会社の一部事業でもこんな幅広くやってるんだ、すごいな〜。
谷本:あらゆるグループで得た知見を全部つぎ込めるっていう強みもあるんでしょうね、きっと。なんだか、私たちの会社とはまた違う世界の会社って感じがするな。個人的に、UDSは結構L&Gの延長線上を走っている会社だと思っていて。
(Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE)
龍崎:たしかに。あと、その流れだと、最初に言ったBackpackers' Japanも捨てがたいです。
田中:翔子さん的に、Backpackers' Japanのすごさはなんですか?
龍崎:「空間のまとってる空気感の濃さ」ですかね。それは、インテリアの質みたいな意味ではなく。あれは他のところでは再現できないと思います。Backpackers' Japanは、日本のゲストハウスブームの金字塔的な存在なので、彼らの空間を真似をしようとしたところは数あれど、あそこに辿り着けるところはきっとほとんどなくて。突然変異種でありながら、永遠の原点にして頂点みたいな感じがじます。
谷本:原点にして頂点…!翔子さんにそう言われたら嬉しいやろなあ…。小学生が帰り道に水飲みに来るホテルって、普通に考えるとちょっとありえなくないですか(笑)。
角田:へぇ、そうなの!
谷本:うん、「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」に小学生が水だけ飲み来るらしくて(笑)。そのことがもう、Backpackers' Japanの全てを物語っている気がします。
田中:すごい面白い、その話!
イケてることをさりげなくやってのける企業力
(ホテル アンテルーム 京都 / 写真:Kohei Nawa/ Swell-Deer / 2010-2016/ mixed media/ Courtesy of SANDWICH, Kyoto)
龍崎:ミッキー的にはどうですか、すごいホテル。
谷本:ミッキー、めっちゃハイクラスとか出してきそう。
田中:むずいなぁ。本当に今日出てきたところはどこもすごいし、特にUDSは、建物も館内もオペレーションも、何を取ってもイケてます。あと、翔子さんも言ってましたけど、社員の人と話していると「そんな仕事もしているんや」って知ることが多くて。結構ホテル以外のことも広くやってるんですよね。たとえば、農家の人とコミュニケーションを取って、その地域の農産物についてのフリーペーパーみたいなの作ったり、地域の野菜を「ANTEROOM KYOTO」で販売したり。
谷本:そんなこともやってるんや、すごいな。
田中:そうなんです。「地域密着」ってなると独特の雰囲気が出てきがちやけど、UDSはそれをイケてる感じで企画してる。そのバランスの良さみたいなところがすごいなぁと思います。
龍崎:分かります。ライフスタイルホテルやってると、「イケてるやろ」みたいな感じが出てしまうの、陥りがちな罠なんですよね。たしかにUDSにはそれがない。「地域の農家と〜」みたいなことも割とうたいやすいから、ひとつのファッションとしてそういうことやってるところも結構あると思うんだけど…。
田中:UDSは、それをファッションとしてではなくやってる。
龍崎:そう。そういうところもすごいです。
田中:そこらへんでも、(MUJI HOTELで)良品計画さんがUDSと組んだの分かりますよね。「他にどの会社と組めるやろう」って考えても、やっぱりUDSやなあってなる。
龍崎:コスト感覚も相当優れているんですよ。UDSの方の話聞いてると、「すごい上質なものだけどこういう風に作っているからそんなにコストかかっていないんだよ」みたいなことを教えてくれたりして。そういうところでも、ビジネス的なバランスの取り方がすごいなと思います。
谷本:UDSの会長さんと翔子さんの対談記事あるじゃないですか。私あれ好きで、何回も読んでますよ。
龍崎:あれ、めっちゃいいですよね(笑)。
谷本:あれ1個読むだけでもう「うおぉぉぉぉーーーー!」って。
田中:「うおぉぉぉぉーーーー!」(笑)。
角田:なるなる(笑)。あれ、僕もめっちゃいい記事だと思いつつ、(記事を書いた立場として)実際の対談のことも思い出すと、やっぱり記事だけでは伝わらない梶原さんのすごさってあったなぁと思う。
翔子:うんうん。
田中:へぇ〜、例えばどういうところですか。
角田:UDSの梶原さんもBackpackers' Japanの本間さんもだけど、やっぱり創業者の方の思想とフットワークがすごい、って対談してると痛感するんだよね。
谷本:記事にあった銀行のエピソードとかすごかったです。
角田:ほかにも、記事には書けなかったいい話もいっぱいあるんですよ。そのへんも含めて、すごいなと思いますね。
宿泊前の期待値と、実際の体験価値のバランス
(ホテル アンテルーム 京都 / 写真提供:UDS)
龍崎:社員30人くらいで5店舗展開みたいな、今のL&Gくらいの規模の会社だったら、UDSのようなこともできそうかなと思います。会社全体に目が行き届くから。でも、UDSみたいに30店舗とかやってて何百人と従業員を抱えている会社だったら、創設者クラスの人と、実際現場でアップデートしていく人との間に、時間的にも組織的にも地理的にも結構な距離ができてもおかしくない。にも関わらず、UDSでは会社全体が同じ方向に向かってしっかり動けているというのがすごいんですよね。それは、めっちゃ管理スキルが高いからなのか、一人ひとりが超主体的に動けてるからなのか、何なのだろう…。
谷本:UDSは、行けば行くほど、彼らの経営のすごさを思い知るんですよね。翔子さんが言ってたみたいに、「ここすごい、最近アップデートしたな」と思わされたり、「ここ細かいことだけどめっちゃ大事だよな」ってことが詰まってたり。一つひとつは小さなことで、その小さい感動の蓄積なんですけど、それがどの施設に行ってもなされているんです。こういうことに、あるタイミングで気付いた辺りから毎度毎度「UDS、経営、すごくない…?!」って思わされ続け、今に至ります。
一同:(笑)。
谷本:ある程度のレベルをクリアした安心安定のクオリティーのホテルはたくさんあるけど、「UDSは少しレベルが違う気がするぞ…」みたいなことが、行けば行くほどより確信に変わっていく、という感じですね。
龍崎:そうだよね。「ホテルに求める期待値」みたいなのがある中で、UDSはいつもそれを上回るクオリティーというか。逆に、めっちゃいいホテルなんだけど、行く前の期待値が上がり過ぎてて「なんかちょっと物足りないかも」みたいになっちゃうこともあるじゃないですか。そこも、やっぱりUDSのブランドとしてのバランシングのうまさですね。期待値を上げすぎないブランディングみたいなのも意識してるかもしれない。
谷本:UDSって安く感じません?価格がリーズナブルっていう意味ではなく。みんな予約の段階で、1万円だったら1万円の中での予測をある程度立てるじゃないですか。その1万円での予測に対する満足度が、UDSではいつも1万6千円くらいの感覚になるんです。値段に対する予測や期待を少し超えてくるというか。
龍崎:プライシングも絶妙だよね。「ANTEROOM KYOTO」とかも、個人的に、あれだけ良かったら2万円台いってもいいと思うところ、実際には1万4千円くらいだし。
角田:予約で思い出したけど、UDSのサイトは本当にすごいよね。
谷本:あれはすごい。UDSぐらいですもん、ホームページをOTA(オンライン予約サイト)みたいに使ってるの。
龍崎:私、サイト見てすぐにUDSの黒田社長にDMしたもん。「あれどなたに作ってもらったんですか?!」って。しかも「〇〇さんです!!」って喜んで返してくださった(笑)。あと、Backpackers' Japanの話に戻っちゃうけど、あそこは(創業者の)本間さんが組織についてめっちゃ考えてるんですよね。ホテルでティール型組織を本気でやろうとされてた時期もあって、誰かがやりたいと思うことの決裁権はその人が持てる!このホテルには長がいません!みたいな感じでやっていたらしくて。それを成り立たせちゃうのがすごい。そして、彼らは、仮に社会とか経営に何かがあったとしても「最終的にサーフィンできたらいいや〜」みたいな精神性らしくて(笑)。
角田:対談で仰ってたね(笑)。
谷本:でもその感じ、分かる〜(笑)。
龍崎:だから経営に力(りき)みがないというか、そういう人たちがやっている会社だからこその空気感なんだろうなと思いますね。
田中:やっぱ、Backpackers' Japanの社員さんは独特ですよね。「ホテルの人」とは違う感じがあって。みんながそれぞれ美意識みたいなものを持っていて、それがすごいリンクしているというか。良い意味で商売っ気がないから、ガツガツした感じが一切感じられないです。だから話していてすごい心地良いっすね。
谷本:ミッキーって毎回社員さんベースの話を出せるの、強すぎますね。いろんなホテルの社員との交流が半端ない(笑)。
田中:いやあ、本当に、Backpackers' Japanの社員さんが素敵だなと思いますね。
龍崎が語るLOGというホテル・組織のすごいところ
田中:え、ちなみに、翔子さん今まで色んな方と対談されてきたけど、特に誰が印象的ですか。
谷本:それ気になる!
龍崎:パッと出て来るのは、LOGの吉田さんかな。
角田:へえ、面白い。
龍崎:あれこそが、ホテルプロデューサーだなって思いますね。
田中:そこ、聞きたいっすね。どういうところがですか。
龍崎:彼は「あらゆる才能を全部集めてきて、それを一つの空間の中に調和させるのがホテルプロデューサーの仕事」って考えておられて。それ、言うのは簡単でも、相当難しいことだと思うんですよね。それを成り立たせているのは、彼の空間への美意識や思想の神聖さみたいなものなんだろうなと。私は若干マーケ寄りだから、吉田さんのそういうところにすごい憧れます。
田中:なるほど〜。ちょっと違うタイプなんですね、ホテルプロデューサーとして。ホテルプロデューサーにも色々なタイプがあるのは面白い。
龍崎:私よりもっとマーケ脳の方もたくさんいらっしゃいますし、一方、美意識脳の方もたくさんいて。私は、かなりマーケ脳寄りの美意識脳だと思ってるんですけど。
田中:吉田さんは美意識脳の方なんですか。
龍崎:そう思いますね。ご本人も「経営はこれからっすね〜」って仰っていました。仮に私が「お金足りますか、大丈夫ですか…!?」みたいなこと言っても、「いやぁ、それよりも大切なことが…」って言わはりそうな雰囲気(笑)。
一同:(笑)。
谷本:まあ、グループ会社が50個もあるなら、売り上げは助け合えるはず…(笑)!
龍崎:吉田さんの話してくれた印象的なエピソードの一つなんですけど、LOGの食事を料理家の細川亜衣さんにプロデュースしてほしいと思って、熊本まで行って細川さんの料理教室に参加してアタックされたそうで。本当に自分の足で稼ぐんだと思いました。
田中:さすがだな〜!
谷本:LOGもUDSもBackpackers' Japanも、どこでもそうですけど、その対談とかの記事を読むと、そこの良さの説得力になるのがいいですね。「やっぱりすごいな」って、理解が深まるというか。
(LOGの吉田 挙誠 (よしだ たかのぶ)さん)
龍崎:LOGのすごいエピソード、話せばもっといっぱいあるんです。
田中:聞きたい、聞きたい!
龍崎:ドアに貼る部屋番号のプレートあるじゃないですか。建築設計の際に提案されたものがどれも気に入らなかったらしくて、最終的にスタッフで粘土こねて作って刻印して焼いたらいい感じになったから、建築家にプレゼンして結果的にそれを採用してもらって使ってるそうで。そこまでやるんだって思いました。
谷本:でもそれ、わりと翔子さんっぽくないですか。
龍崎:確かにやりそうな気はするけど、とはいえ、私だったら提案された中から悩むと思うんですよね。そうじゃなくても、「これ銅板の方が良くないですか」とか口頭で言うことはあるかもしれないけど、自ら粘土こねて釜に行って作るわけでしょ。やっぱすごいですよ。
田中:自分で作るっていう選択肢は、あまり出ないかもしれないですね。
谷本:ましてやずっと残るハード面ですもんね。イベントとかじゃなく。
龍崎:あと、ご存知の通りLOGって坂の上にあるから、ペットボトルとかの運搬が難しいし、ゴミも最小限に減らさないといけない。だから、水もペットボトルじゃなくてボトルに紙で封したり、レモンスカッシュもソーダエキストリームみたいなので作って出したりと、極力ゴミを出さないようにされてるんです。でも「私たちはゴミをめっちゃ減らしてます!」みたいなことを全く言わず、当たり前にやってはるんですよ。そういうところをマーケティングに使わず、本当にただの営みとして、感じる人だけが感じるべきものとして扱っている、みたいなところもすごいと思います。
角田:坂道の上だからトラックが入れなくて、資材を全部手で運んだって言ってたよね。その延長で、物を運ぶのが大変だからちょっとでもエコにしよう、っていう考え方をされてるのがいいなって思う。
龍崎:なんでしたっけ、工事の時にスタッフが100往復くらいしたって言ってはりましたよね。
角田:その記事見返してるんですけど、「スタッフ10人くらいが5000往復して、中庭の石10トンを運んだ」そうです(笑)。
谷本:5000往復?!何百年前の話やねん、みたいな感じじゃないですか!
角田:ピラミッドじゃん、みたいな(笑)。
谷本:本当、ピラミッドですよ。でも、吉田さんの、それを普通に言える感じがいいっすよね、サクッと。
田中:そういう苦労や努力もあるからこそ、働く人もホテルに対してめちゃくちゃ愛着湧くんでしょうね。
ホテルプロデューサーはどんな視点でホテルを見るのか?
龍崎:他にも気になってるところはちょくちょくあって。「Azumi」って旅館ブランド知ってますか?
角田:アマンの創業者が立ち上げた新ブランドですよね。
龍崎:そうそう!ナル・デベロップメンツっていう会社が運営してるんだけど、そこもアマン出身者で作られてるみたい。彼らがすでにやってる「福田屋」っていう宿が滋賀県にあって。そこ、一泊2名10万円のお部屋が1室だけなんです。10万円って言われると高い感じするけど、1室しかないんだから、フル稼働でも月400万円くらいってことですよね。どんな宿なんだろうってすごく気になってて、1月に泊まりに行こうと思ってます。あと、「FYLGDU MÉR(フィルクトゥ ミエール)」もめっちゃ気になってます。
田中:え、どこですかそこ。
龍崎:大阪と福岡にある、レストランとかエステとかもやってる会社で。
田中:前、翔子さんが僕に紹介してくれたとこですね!
龍崎:一泊2人で12万円くらいなんやけど、100分のエステが付いて、80平米で、お部屋にはサウナ・岩盤浴・施術室・ワインセラー・岩風呂とかがあって。それで1人6万円ってのは安くはないものの、この内容だったら安いと思う人もいそうだと思うんだよね。って言っても、まだ行ったことはないんだけど。
谷本:あそこ、レストランのランチも結構いい値段するんですよね。2000円くらい。大阪って1000円以下で当たり前みたいな街だから、その中で考えると値段だけみたら高いんですけど、満足度すごく高くて。私、何回か行ってます。あそこのサラダ食べたらもう2週間は健康で生きていけそうって気がしますよ。めっちゃ美味しいし、自分が知らない味がいっぱい詰まってる。だから、きっと宿泊も良いと思うんです。ホテルも行ってみたいな。
龍崎:他に、今まで皆さんが泊まって来た中で「経営うまいな」って思ったホテルとかありますか?
谷本:ケイエイウマイナ…(笑)。
角田:なかなか、そういう視点で見ないよね(笑)。さすが、ホテルプロデューサー…!
龍崎:そうなの?私、ついそういう目で見ちゃって、「このホテルいい」よりも先に「ここ経営うまい」が来るというか(笑)。たとえば「御船山楽園ホテル」「竹林亭」とかは、社長さんが受け継いだ館を守っておられるということで、たしか武雄温泉でしか展開していないと思うんだけど、星野並みの経営のうまさだと思いました。
田中:おお〜!その心を…!
龍崎:大前提としてめちゃめちゃ素敵な宿なんですけど、その上で宿の付加価値の付け方とかがうまいんですよね。スパの設計とか、他で見たことない感じ。中に休憩ブースみたいなのがあって、そこに焚き火があって、杏仁豆腐やマンゴープリンを食べれたりお茶やデトックスウォーターを飲めたりして、浴場のデザインも洗練された感じで。歴史あるお館だから古くなっている部分もある中で、その古さがかえって趣深くて良いところはそのまま生かしつつ、リノベや補修すべきところにはちゃんとお金をかけている。たとえば、庭園やフロントにチームラボを取り入れたりされていて。こういった緩急の付け方や投資のバランスが、すごいなと思います。フロントをチームラボの空間にするのって、リノベの手段としては施工そのものは比較的コストを抑えられる方だと思うんだけど、お客様の満足度やSNSでの拡散力はすごく高くて、結果的にコスト以上の効果が得られる。ただいい宿を作るだけでも難しいけど、人に教えたくなる宿、また来たくなる宿になるにはさらに高いハードルがあって、そこを乗り越えていくための投資や演出の仕方がほんとうに見事ですよね。
田中:ゲストにとって、旅物語の始まりをチームラボの空間で迎えられるの、絶対印象深いですよね。
谷本:今の話聞いて、「私はやっぱり経営的な面ではホテルを見てきてないな」という結論に至りました。めちゃくちゃユーザー目線でしか見てませんでしたわ。
田中:翔子さんは、ホテル行ったときにいつもそういうふうに見ようと意識してるんですか?
龍崎:別に「これを見るぞ!」とか思って行くわけではなく、「ここすごいな」って感じたとき自然と「どうやって実現させたんだろうな」って考えるんですよね。たとえば、さっきの「御船山楽園ホテル」だったら、「フロントにチームラボ持ってくると入ったときのインパクトすごいな。これは拡散効果もすごいだろうな。どんな感じで作ってるんだろう。あ、このエリアは鏡っぽいけど、あのエリアはよく見ると向こうの景色透けてるからマジックミラーっぽい。床は塗ってるだけみたいだから、高級な絨毯敷いて作り込んだりするよりはコスト抑えられてるかもしれない。投資のメリハリ効いてるな〜」っていう感じです(笑)。あと「これは、すごい良い経営者かプロデューサーがいるな」とか。だって、チームラボ呼んでくるとか、相当情熱ないとできないわけじゃん、お金もかかるし。ってときに、「ホテルをしっかりブランディングして、来てもらえる理由を作っているんだろな」なんて考えたりするんですよね。
田中:面白い〜!次回は「ホテルプロデューサー・龍崎翔子のホテルを見る視点」もっと、聞きたいです!(笑)。
角田:じゃあ次回のテーマも見えたところで、今回はこのあたりで締めましょうか。勉強になる座談会でした。ありがとうございました!
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