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網羅性より独自性。唯一無二の予約サイト「Relux」創業者が語る“ニッチOTAの成功秘話”

ホテルをとりまく業界の先輩たちから龍崎翔子が学ばせてもらう対談企画「ニューウェーブホテル概論」。新型コロナにより移動が制限される中、オンライン通話を活用して連載を続けています。

今回対談に応じていただいたのは、独自の世界観で厳選したホテル・旅館だけを紹介する予約サービス「Relux」を創業した篠塚孝哉さん。今年3月で同社を退任したばかりの篠塚さんですが、OTA(オンライン・トラベル・エージェント=予約プラットフォーム)という視点から、ホテル業界に対して感じていることをズバリ伺いました。

篠塚孝哉 Loco Partners創業者/バックパッカー時代を経て、日本の魅力を発信する仕事がしたいと新卒でリクルートへ入社。日本最大級の旅行予約サイト「じゃらん」の営業担当として日本中の旅館やホテルを回った。東日本大震災によってお世話になったホテルや旅館、ペンションが震災後に次々と経営難に陥っていく様子を見て意識が変わり、独立。200万円の資本金でLoco Partnersを立ち上げた。SNSコンサルティング事業を経て、2013年に宿泊予約サービス「Relux」を開始。厳しい審査基準を設けて一流ホテル・旅館のみを厳選して紹介する仕組みで、会員数約190 万人を超える人気サービスへと成長させた。今年3月に同社代表を退任。4月には宿泊施設と飲食店を応援することを掲げたECサイト「TASTE LOCAL」を立ち上げたばかり


2万件のOTAより、3〜4件のおすすめからホテルを選んでくれた

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龍崎:今日はよろしくお願いします。実はわたし「Relux」が中国拠点の事業を強化していた時にインターンをしたくて、本気で応募しようと思ったことがあるんです。でも、当時大学に行きながら、ホテルもやっていたので叶わなくて。ずっと好きなサービスだったんです。

篠塚:そうだったんですか。ありがとうございます。来ていたらおもしろいことになっていましたね(笑)。

龍崎:だから、色々と聞きたいことがあるんです。早速ですが、OTAといえば「じゃらん」とか「Booking.com」みたいに網羅性を打ち出しているところが多いなか、「Relux」は特定のペルソナに対して訴求するホテルや旅館だけを集めています。どうしてそのようなニッチ戦略を取られたのでしょうか?

篠塚:僕もかつて「じゃらん」にいたので網羅性が全てだということを教えられてきました。ある時、友達からオススメの宿を聞かれて「『じゃらん』を見ればいいじゃないか」と思いながら、目的とか値段とかをベースにいくつかホテルをオススメしたんです。そうしたらその中からホテルを予約してくれたんです。2万件もあるOTAではなく、3〜4件の僕のリストから選んでくれた。これは面白いなと。信頼できるデータなら網羅性がなくてもいいんじゃないかということに気がついたんです。それが「Relux」の原点でした。

龍崎:実際に始めた当初はいかがでしたか?

篠塚:最初は仮説が大外れしたんです(笑)。各県トップクラスの旅館を20軒ほど揃えていたんですが、一切予約が入らなくて。致命的だったのが、人気の宿ってすぐに予約が埋まるから、全然「Relux」から予約ができなかったんですよね。

龍崎:なんと。それでも最初は結構な初期投資がかかりますよね。

篠塚:かなり大変でした。宿泊サイトってECより立ち上げが難しいんですよね。在庫に関しても料金や人数、日数など、パラメーターが複雑あって流動的ですし。最初は全部手動で調整していました。だから宿からも不評でした(笑)。在庫共有はされていないし、予約が入ったら手動で売り止めをするような。

龍崎:それはヒヤヒヤしますね(笑)。ホテルにとっても、新しいOTAって予約が入るかわからない上に接続のための作業があって、意外とめんどくさいと思われることも多いじゃないですか。どうやってホテルを口説いたんですか?

篠塚:ミシュランと一緒で、銀座の一等地にお店を構えるように、ここに載ること自体がブランドになると考えていました。だから、最初は自社サイトのURLや電話番号も載せてもらい、「Relux」を通じて自社予約をとってもいいですよと施設様に訴えてまで、宿を厳選して営業をしていました。

龍崎:一方のお客様開拓ではどんな工夫をしましたか?

篠塚:最初から宿に対しては予約手数料15%という非常に高い料金設定でした。しかも、最低価格で出してくださいと。営業にとってはやりづらい仕組みだったと思います。でも、それは顧客メリットをつけたかったからで。具体的には全ての予約に対して5%のポイントを付与するようにしたんです。しかも最初の単価は7〜8万だったので、一回で4000円くらいポイントが貯まる。だから、お客様も他のOTAと比較して選んでくださるメリットがあったんだと思います。


海外展開で気がついたローカライゼーションの真意

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龍崎:最近ではビジネスホテルの掲載も増えています。これはサービスの裾野を広げる戦略なのでしょうか?

篠塚:実は、全くそんなつもりはなくて「Relux」がやろうとしていることは最初から変わっていないんです。「Relux」が扱いたかったのは高級宿ではなくて、高満足度の宿。最初は高満足度で高単価の宿を中心にニッチに攻めましたが、単価3000円でも満足度の高いホテルは掲載したいと考えていました。ビジネスホテルの中でも過ごしやすいホテルはあるので、徐々に単価を下げながらホテルを増やしてきたということですね。

そもそも、旅行産業って同じユーザーでも用途によって泊まるホテルが全然違うという珍しい産業なんです。仕事なら安いホテルに泊まるけど、プライベートなら高いところに泊まるとか。だからニッチなOTAって、ある用途の時にだけ使えるとすると使われないんです。たとえば、古民家特化のOTAがあったとしても、古民家に泊まることって年に1〜2回しかないですよね。ニッチなOTAが失敗する理由はまさにここにあって、ビジネスホテルまでカバーすることで、一人のお客様があらゆるシーンにおいて継続して同じOTAを使ってくれるようになるという狙いもありました。出張でポイントを貯めて、プライベートの旅行に使うような流れを「Relux」で作りたかったんです。

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龍崎:「Relux」は宿でセグメントするのではなくて、メインとなるターゲット像があって、そのペルソナの宿泊行動に沿った宿を用意しているような印象を受けます。

篠塚:明確にターゲットを絞っているわけではないんですが、感覚的にやっていたところはありますね。どういう人がどんなホテルに泊まるのかということは肌感覚でわかるので、今はこういう宿を増やそうという話はつねに社内でしていました。最初は超高級から手をつけて、ニッチOTAの罠にはまって網羅性の大切さに気がつき、徐々に宿を広げてきたようなイメージです。とはいえ今後、ある一定のところで宿数は止まるんじゃないかと思います。現在の掲載数は2000〜3000ほどですが、5000くらいがピークじゃないかなと。ただ、そこで売り上げが止まるわけではありません。そこから濃度を上げて単価をあげていくような流れですね。

龍崎:わたしがインターンに応募しようとしていたころは中国で拠点を作られていたタイミングだったかと思うのですが、海外事業の展開はいかがでしたか?

篠塚:外国に向けて訪日旅行の販売を始めたのが2016年くらいで、爆買いが流行るちょっと前ですね。絶対にインバウンドが来ると思って上海から始めたのですが、これはめちゃくちゃ伸びました。

龍崎:反対に、日本人向けに海外の宿を紹介するということは?

篠塚:当然考えていました。今はコロナの影響もあって一度ストップしていますが、たとえば、ハワイに特化したホテルを紹介するとして、それを「Relux」がやる意味はどこにあるのかというということをずっと考えていましたね。ハワイだけを掲載したところで「ハワイ行きませんか?」としか言えないし、これだとまたニッチOTAの罠にはまってしまう。一方で最初から全世界のホテルを扱うのも違うなと。

龍崎:でも、消費者目線としては、海外のホテルって見つけづらいんですよね。海外の旅行サイトはわからないし、インスタグラムで見つけた素敵なホテルに賭ける気持ちで予約することが多くて、一定の安心感があってキュレーションされているOTAのニーズはありそうですよね。

篠塚:めちゃくちゃわかります。ただ、グローバルにはすでに競合サイトがたくさんあって、富裕層はそういったサイトを使っているので、どうするのが「Relux」らしいのかを考えながらも、ここ数年はインバウンドに注力してきてしまったんですね。

一方のインバウンドも実は難しくて。日本に特化したOTAって海外から見たらいびつなんです。たとえば、僕たちがタイに行きたい時ってタイの旅行サイトは見ないですよね。つまり、基本的には発地にあるサイトを使うわけです。僕らのサービスって、タイに行きたい日本人に対して、タイから日本語翻訳をして提案をしているような感じだったので、ローカライズしなければ意味がないんだということに気がつきました。そこで、上海に支社を立ち上げて、中国でやっている日本のホテル紹介サイトだというイメージ訴求をしたんです。海外展開において重要なのは、発地国側のローカライゼーションだということです。それがローカライズの本当の意味だなと気がつきました。


「ぼくたちはゲストの声しか聞きません」

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龍崎:組織についても伺いたいのですが、OTAってすごく団体戦のようなイメージが強くて、開発もあれば、ゲスト側の担当も、宿側の担当もいて、PRもしなければいけない。篠塚さんはどのようにチーム作りをしてきたのですか?

篠塚:おっしゃるとおりで、カスタマーとクライアント(宿)という2つに大きく分かれるんですね。リボンモデルというものがあって、真ん中に「Relux」を置いたときに、カスタマーとクライアント両方のリボンを同時に大きくすることが重要なんです。宿が1000社あってもユーザーがいなければ意味がないし、逆も同じです。組織も一緒で、基本的には営業が強くなるとクライアント偏重になるわけです。その意見が必ずしもカスタマーのためになるかと言えば、そうではない。とにかく均衡を保つことがとても重要でしたね。OTAで失敗してしまう要因の多くはどちらかのリボンが大きくなってしまっていることで、大体はクライアントのリボンが大きすぎるんです。そうなるとユーザーがついてこない。

龍崎:たしかにクライアントに偏りやすい気がします。カスタマーの声を聞くのって難しいですよね。顧客へのアプローチで心がけたことはありますか?

篠塚:これは社内で明確にしていたし、クライアント向けのセミナーでも断言していたのですが、ぼくたちはゲストの声しか聞きませんということ。今までのOTAは自分たちとゲスト、クライアントの3者で大きくなるようなトライアングルを推奨していましたが、ぼくたちはそうしませんと。でもそれは、クライアントを捨てるのではなくて、クライアント側に立って、一緒にゲストの方を向きましょうという意味でした。それが大きかったんだと思います。おこがましいですが、クライアントの前でもそれを断言していたので、理解をしてくださるホテルだけがついてきたくれたのだと思います。もちろん現場ではたくさん大変なことがありましたが、なんとかそれだけは貫いてきました。

龍崎:昔京都のホテルでアルバイトしていた時、「Relux」で予約をしてくれた顧客にはお手紙が届くサービスがあることを知って、感動したんです。ほんとうにお客様をもてなしているOTAだなと。

篠塚:そうですね。同じことをやっていてはいけないと、手紙は初期からやっていました。宿のおもてなしを導入したいというのが狙いでした。昨年の3月でやめてしまいましたが、結果的にものすごい反響でしたね。終わったときには「お疲れ様でした」という声を数百件いただきました。最初は全員で手書きでやっていましたし、最後は手紙専門のチームが10人くらいいましたから(笑)。毎週2回くらい配送日を決めて、お祭りのように手紙を用意していました。なつかしい思い出です。


モノや情報がホテルのマーケティングにつながる

龍崎:そんな中、3月末でLoco Partnersを退任されました。今は新たに、コロナの影響に悩む宿と飲食店を応援するためにECサービスも始められましたが、今後どんなことをやっていく予定ですか?

篠塚:実は今後やることは何も決めていなくて。本当は世界中旅行をしながら事業のことを考える時間にしようと思っていました。でも、こういう状況で、宿のお話を聞いているとその辛さが想像以上だということに気がついて、なにか僕にできることないかなと思い出したのが、伊豆にある「食べるお宿 浜の湯」の金目鯛だったんです。金目鯛を売りませんかという話をしたところ、是非お願いしたいということですぐにECを立ち上げました。そうしたら次々と日本中の名産を思い出して、色々と集めていったところ、売り上げが急激に伸びている状況です。

宿や飲食店にとっても、山菜が一日で200個売れたりとか、うなぎが100匹一気に売れたり、蟹が1トン売れたりとか、ちゃんと売り上げにつながっていて、少しでもお役に立てているかなと。医療系の協力なども考えたんですが、ぼく自身が何かできるわけではないので、こちらは寄付をすることに決めました。ただ、宿に関しては寄付ではなく事業で解決したいと思ったんです。結果として、寄付以上の価値が生み出せたので良かったと思います。だけど、それ以上に壮大なビジョンがあるわけではないですね。

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龍崎:こうした活動を見て思ったのですが、ホテルって宿泊単独でキャッシュポイントを作ることが多いわけですが、それだけが価値ではなくて、体験の要素を分解して様々なキャッシュポイントを作ることができると気付いていただけること自体がアフターコロナにおいても大きなレガシーになりそうですね。

篠塚:「HOTEL SHE,」とかめちゃくちゃ相性いいと思いますよ。すでにアパレルをやっていますが、お土産とか食べ物とか、なんでも広げられそうだし、この期間を構築期間と捉えて、新しい活路を見出せそうですよね。これまでのホテルは口コミなどの情報でしかマーケティングできないと思われていましたが、モノとか食べ物でもマーケティングができるんです。金目鯛を食べた人が絶対に現地に行きたくなるのは、新しいマーケティングチャネルだと今回気がつきました。

龍崎:たしかに宿泊したホテルのことをすぐに忘れてしまっても、おうちにロゴの入ったアイテムがあると思い出せますし、マーケティングとしては優秀ですよね。とくに今はSNSの情報も飽和していますし。

篠塚:「お家を『HOTEL SHE,』にしよう」というコンセプトで、パジャマとか枕とか作るのも良さそうですね。そういう動きは今の期間にピッタリですし、観光産業が復活した後も、一つの収益源として残せるので、色々と今からできることはあるんだと思います。

龍崎:たしかに。アイデアまでありがとうございます。本日はとても勉強になるお話ばかりでした!

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対談を終えてーー
競争の激しいOTA業界の中で、多くのファンに支えられながら着実に拡大して来た「Relux」。その成功の秘訣は、自らを旅館と同じ場所に位置付けて、カスタマーファーストで改善し続けてきたことにありました。観光業のニュースタンダードの礎を築いた篠塚さんの新しい挑戦を陰ながら応援したいと思います。

(文:角田貴広、写真:小川遼


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