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日本の不動産に革命を起こす 「OYO LIFE」が考える住居の無限の可能性

今年、日本の不動産市場に大きな激震が走りました。創業わずか6年で世界80カ国800以上の都市にホテルを生み出したインド発のスタートアップ「OYO Hotels & Homes」が、ソフトバンク傘下のヤフージャパンと合同で日本支社を設立。家具家電付きの物件を豊富にそろえた、敷金・礼金・仲介手数料0円という夢のような不動産賃貸サービス「OYO LIFE」を始めたのです。

今回の「ニューウェーブ ホテル学概論」には、日本独自事業でもある「OYO LIFE」を率いる勝瀬博則さんが登場。ホテルも賃貸物件も、土地を活用して住空間を提供という共通の価値観を持っているわけですが、これからの不動産事業やホテル事業はどこへ向かうのか。銀座にある実際の「OYO LIFE」物件で行われた龍崎との対談をお届けします。

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勝瀬博則/OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN 株式会社 CEO:ミシシッピ州立大学でMBA取得後、UNIFI Communicationに入社。17年間アメリカでITやベンチャーキャピタル、ヘルスケア領域に携わる。ヘルスケア企業を2社立ち上げた後、2009年に帰国。セミリタイアするも2014年に友人に誘われる形でBooking.comの日本・韓国統括に就任。2017年にはホテル向けの無料携帯端末handy事業を開始した。2018年から、孫正義ソフトバンクグループ会長とリテッシュ・アガーウォールOYO創業者に誘われる形で日本事業のCEOに就任し、事業を展開する

どう考えても便利なサービスなのに、なぜこれまでなかったのか

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龍崎:本日はよろしくお願いします。「OYO LIFE」はすごく便利なサービスなので、きっと同じようなことを考えた人はこれまでもいたと思うんです。だけど、誰も挑戦しなかった。OYOはなぜそれが実現できたのでしょうか。

勝瀬:おっしゃる通りで、こういうことをしたらいいと考えた人はたくさんいると思います。でも、ほとんどの人はやらなくていいと思ったのは、儲からないからです。実際にこのビジネスは大変利幅が低い。スーパーマーケットも同じくらい利益率が非常に低いんですが、なぜかというと、一番の理由はものがあふれているからなんです。食料って危機になるとボロ儲けできるじゃないですか。誰もがお米を求めてお金や金を持ち出した時代もありました。だけど、お米が余っている時にお米を売ろうとしたら、ネット販売で商圏を広げるか、付加価値をつけて高く売るかのどちらかしかないんです。

つまり、利益率は「どれだけ商品が潤沢に供給されているか」に影響される。ホテルも不動産もそうで、需給のバランスによって値段が変わるじゃないですか。これまでの不動産業界は、ずっと建てれば売れる、紹介するだけで1カ月分の手数料がとれるという時代が続いてきたんです。だから、部屋の回転率をいかに上げるかが重要だった。だけど、今は不動産が余り始めて、選ぶ消費者の力が強くなってきた。そこにOYO的な会社のチャンスがあると思ったんです。

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龍崎:そんな画期的なビジネスを勝瀬さんがやるに至った経緯は?

勝瀬:僕は長くヘルスケアの世界にいて、自分の会社を売却して一度引退したんですが、以前の会社の同僚がBooking.comにいて、誘っていただきました。そこで、それまで知らなかったホテル業界のことを勉強させていただいたんです。その後(宿泊施設向けスマホレンタルサービスの)handyをやるようになり、ソフトバンクさんに対して第三者割当増資をやることになりました。昨年の10月頃に「OYOが日本展開を考えている。勝瀬さんはホテルに詳しいから一度話を聞かせてほしい。明日会えるか?」と孫さんの秘書から連絡をいただきました。もちろん断る理由はないですし、当時香港にいたのですが、すぐに日本へ戻りました。そして孫さんとお話をしたんです。

Booking.comにいる時には、どうやってAirbnbに対抗するかという話をよくしていました。Booking.comってオペレーションコストをかけているから、客室の少ない民泊を扱うのは非常に苦手だったんです。そこで、よくAirbnbを調べていたのですが、当時からホテルを住居にしている人は多くいました。なぜかというと、ホテルは広告を出しているから、自分の求めているホテルをめちゃくちゃ見つけやすい。でも、今まで住居をホテルにしている人はいなかった。それは見つけられないからです。自分の家を大規模に宣伝することができなかったんです。Airbnbの一番の功績は、一般的なおうちをネット上で探せるようにしたことだったと気づいたんです。

龍崎:広告ツールだったわけですね。

勝瀬:その通り。ただ、住居をそのままホテルにするとイリーガルになってしまう。そこで、僕はこれを家としてやればいいじゃないかと思いました。実際に調べたら、法律的にも問題がない。ということで少し話を戻すと、孫さんに会って、最初の10分だけホテルの話をした後、「住宅でこの仕組みをやった方がいいですよ」ということを50分かけて話したんです。「面白いからまた2週間後に会おう」と言ってくださり、2週間後に訪れるとそこにはなんとリテッシュ(・アガーウォール=OYO創業者)さんがいて。そこでズバリ「うちの会社に来ませんか」と誘っていただきました。


OYOが目指すのは、住むことにおける“プロセスの標準化”

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龍崎:そうだったのですね。これは私見ですが、いつでもどこでも安心してサービスを利用できるという点で、「OYO LIFE」は“住空間の標準化”に挑戦しているように感じます。

勝瀬:おっしゃる通り。Amazonのような仕組みを目指したいという思いがあります。世界中で素晴らしい住環境を求めている人びとに「良いロケーション」「良い住環境」「アフォーダブルな価格」を提供することがOYOの目的です。これらの条件はいつの時代、どこの国でも、変わらない。そこにある程度の標準化が必要だと思うんです。

龍崎:住み方が多様化している時代において、どういう形でサービスを提供するのかに重点を置いているわけですね。

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勝瀬:Amazonで言えば、多種多様なものを売っている中で、Amazonが提供する最高のオーダーの仕方がありますよね。売ってるものもデザインも多種多様だし、それらはどこでも買えるんだけど、Amazon Dash ButtonやAlexaみたいなオーダーの仕方だったり、画一化された配送サービスだったりを提供しているわけです。家自体ではなく、そのプロセスをもっと標準化できるはずなんです。

龍崎:そんなプロセスにおいて、お部屋という“コンテンツ”の作り方にはどんな考えがありますか。

勝瀬:Amazonにもさまざまなアイテムがあるように、お客様が求めるものを提供することが僕たちサービスプロバイダの仕事です。今はこういう家具が置いてあるけれど、テレビやベッドは本当に必要なのか、このデザインでいいのかということはお客様に聞いてみないとわからない。ウェブではデザインを変えて効果検証を普通に行いますよね。何がお客さんのトリガーになるかをリアルタイムで探すじゃないですか。だから住空間でも、全室じゃなくて1室だけコンテンツを変えてみてリアルタイムでデータを取り、得られたデータに基づいて変更をかけていくといったことを続けています。OYOにおいて、お部屋という“コンテンツ”は変わり続ける存在なんです。

龍崎:とはいえ、お部屋の何が顧客体験の向上に寄与したかをデータ化することはすごく難しい気がします。

勝瀬:ホテルだとタッチポイントが少ないために声を拾うのは大変だと思うのですが、賃貸では入居者と長いタッチポイントがあるんです。OYO LIFEの入居者には入居者アプリを提供していますが、これはまさにAmazon Primeみたいなもので、Amazonで毎日買い物をしなくてもAmazon Primeで毎日映画を見てしまうように、自然とタッチポイントを持ち続けることができるんです。


住空間が持つ無限のビジネスの可能性

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龍崎:住宅は「ホテルのサブスクだ」ということをよく考えているのですが、ホテルと住宅が近づくにつれて、プライベートだと思えた住宅が半分パブリックになってきているなと感じています。

勝瀬:賃貸マンションは、言ってしまえば他人のものじゃないですか。だけど、妙に家だけは自分のものだという感覚がある。

龍崎:OYOを通して考えると、自分の家もパブリックだったんだということを実感します。ITの力によって本来プライベートでアンタッチャブルだったはずのお家の顧客時間を可視化できることは強い。

勝瀬:ホテルでそういうことをしようと思わないのですか?

龍崎:私はホテルをメディアにしたいと思っているので、分析というよりも部屋にモノを置いて広告的なアプローチをしたいと考えています。

勝瀬:僕もそれに近いことをしようと思っています。ホテルと住宅が違うのは、住宅なら少なくても1カ月、平均して4〜8カ月は同じところに住んでくださるので、ショールーム化がしやすいことです。住宅では詳しい入居審査をしているので、そこでいろんなことを聞かせていただいて、理解いただける場合には、お客様が喜んでくれるようなサービスを提供することができると思うんです。たとえば、毎週火曜日をシャンプーの日として1週間分のシャンプーを使ってもらう。化粧品のサンプリングってよく行われますが、化粧品会社にとって、こんないい話はないですよね。利用者には、アプリでフィードバックをもらうことで、また次週も無料で届けるというスキームができる。

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龍崎:「OYO LIFE」の部屋はホテルよりも広いので、いろんなモノを提供する余地があるじゃないですか。だから、この住空間はなおさらポテンシャルがあると思います。

勝瀬:さらに新しいバリューのつけ方もできると思っているんです。昨日もね、Youtuberが所属している事務所の方と話をしていると、彼らが家を見つけにくいという話を聞いたんです。Youtuberとして100万円稼いでいても「それって定職じゃないよね」という理由で審査が通らないらしい。そういう子たちに対して、僕たちが信用をつけてあげることで、大家さんにとっても安心だし、彼らにとってもメリットになる。

龍崎:なるほど。

勝瀬:しかも、そういう人たちが住んでいたという痕跡をお部屋に残すと、ファンにとってはこの部屋に新しい価値がつくわけです。アメリカではよくあるんだけれど、ルーズベルトが昔いたホテルに泊まれるとか。だけど、その部屋は歴史があるからこそ高いんです。そういうバリューのつけ方ってこれまでにないじゃないですか。アプリを使えば、前に住んでいた人たちの意見だって見られるとか、そういう可能性もあるんです。

龍崎:最近では、外国人とか高齢者を対象にしたような、今までなかなか家を借りられなかった人たちに向けた不動産サイトも出てきましたよね。

勝瀬:そう。まさに、めちゃくちゃ興味があります。不動産は増えるけれど、人口は減る。一番の問題は、大家さんが貸したいような生産人口が減っていることです。一方で、非正規の若者とかクレジットヒストリーがない外国人とか、これまで大家さんが一見“貸したくなかった”人が増えている。部屋は余っているけれど、貸したくないという状況です。そこで僕たちが信用を創出して、安心を提供することもできると思うんです。

もう一つ、考えられるものとして、これまでの不動産業界はとにかく回収を優先して、未払いリスクを嫌ってきたわけですが、賃貸を金融商品と考えて利息がつけられるようにすれば、あとで払ってもらった方が不動産としては儲かるわけです。なんでスーパーマーケットがクレジットを作るかというと、未払い分の利息で儲けることができるから。そういう世界観もあってもいいと思うんです。普通にやっても5〜6%しか利益が出ないような業界なら、ファイナンスによってマージンを上げるということはやり方として全然ありだよねと。

龍崎:これまた素晴らしい考えだと思うのですが、これまで不動産業界では実現しなかったんですね。

勝瀬:そんなことをやるよりも、お部屋の回転率を上げた方が儲かったんですよね。だけど今は供給過多の時代。ホテルも供給過多じゃないですか。東京みたいな街は特殊ですが、平均して30%くらいのホテルが空室と言われています。だからこそ、これから可能性があるんです。


「不自由があれば言ってほしい」 そうして変化し続けるOYOという生命体

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龍崎:OYOが登場してから、引越しのために家具を全て運搬しなければいけないのっておかしいんじゃないかと思うようになりました。なぜ、毎回空っぽで引き渡されているんだろうと。

勝瀬:僕はアメリカに長く住んでいたんですが、アメリカの住居には電子レンジや冷蔵庫がついています。どうせ使うってわかっているものは、いちいち持っていかなくていいからです。しかも、買ったところで、家が変わるとそのまま使えるとも限らない。なおさら、最低限のものはついていた方がいいはずなんです。にもかかわらず、日本ではそこまでしなくていいと思われてきました。

龍崎:私はインテリアにこだわりがあるタイプで、「OYO LIFE」でいい部屋を見つけたとしても家具があると借りられないと思っていたのですが、そういう人はどうすればいいのでしょうか。

勝瀬:SNSでも問い合わせでもいいので、家具をいらないと言ってください。基本的にはわれわれはマーケティング会社なので、そういう顧客がいるとなれば、いくつかの部屋には家具を置かないということもあり得るわけです。

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龍崎:なるほど、そうなると素晴らしいですね。では最後に、今後に向けての課題と抱負を教えてください。

勝瀬:ほんとうに課題しかありません(笑)。ベンチャーってそうじゃないですか。前例がないので、課題しかない。やって、失敗して、やり方を考えて試してみるしかないです。「OYO LIFE」では大きく4つの事業があって、それぞれに課題があります。まずお部屋を借りること。とにかく新しいことが苦手と言われる人が多い業界で、彼らにOYOって大丈夫ですよということを伝えることが必要です。そして、2つ目が仕入れたお部屋に家具・家電を買って設置して、お部屋を仕上げること。これを安い金額でやるためには規模の大きい家電会社、運搬会社と組む必要があります。OYOでは、実はOEM企業と組んでOYO専用にカスタマイズした家電を生産しているんです。

そして、ここまでできたら、次は客付け。代理店を使ってリアルで客付けをすることもあれば、インターネットを使うこともあります。最後は清掃・メンテナンスをしたり、お客さんのフィードバックを受けて改善していくということです。これら全てをこのスピード感で回すのは非常に大変なことです。はじめに言ったように、OYOのお部屋は永遠に完成しません。だからこそ、いろいろと意見を取り入れて形を変えながら、OYO自身が進化し続けていきたいと思います。

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対談を終えてーー
多拠点生活をしたり、ホテル暮らしをしたり、はたまた自宅を宿として貸し出したり。「住む」と「泊まる」が境界線を失い、住が流動化する時代になったと思います。そんな人々のライフスタイルと実際の不動産業界の仕組みのねじれや乖離が元に戻らないほど大きくなった時、「OYO LIFE」が日本に現れました。今まで少なくない数の人が思いついていながらも、誰も実現することができなかった新しいビジネスモデル。課題が山積している日本の不動産業界に新風を巻き起こしていくのがとても楽しみです。

(文:角田貴広、写真:小野瑞希)


【過去の対談一覧】


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